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海外経験者は国内旅行にシフト コロナ禍で再開には慎重、時間とともに関心も薄れて......

   旅行業界にとって、まだまだ厳しい状況が続きそうだ。JTB総合研究所は、「コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査」を、2021年3月30日に発表。それによると、2020年の海外旅行者数は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、前年比84.2%減の317万人にとどまった。

   その代替として、海外旅行の経験者は国内旅行にシフトしていることがわかった。また、コロナ禍の終息が不透明なことから、時間が経つにつれて「旅行へ行こう」という意識も遠ざかっている。

  • 海外旅行はしばらくおあずけ……(写真はイメージ)
    海外旅行はしばらくおあずけ……(写真はイメージ)
  • 海外旅行はしばらくおあずけ……(写真はイメージ)

海外経験者のほうが旅行へ出かけた

   調査は2段階で実施。予備調査は、全国15歳以上の男女1万2142人が対象。2018~20年の海外旅行や国内旅行の経験や、今後数年間における海外旅行の意向について聞いた。

   2019年に海外旅行を経験した人で、新型コロナウイルスの感染が国内に広がった2020年に、国内旅行を1回以上経験した人は71.7%。2019年に国内旅行だけを経験した人の20年の実施率は53.6%と、前年の海外旅行経験者のほうが旅行実施率は高い結果となった。

   旅行回数をみてみると、どちらも最も多いのが1回でほぼ同じ割合だったが、2回以降から差が開き、3回以上のリピーターは前年の海外旅行経験者は25.3%、、前年の国内旅行のみの経験者は13.0%という結果になった。

   このことから、海外旅行を経験している人は総じて旅行が好きで、国内旅行も積極的であり、消えた海外旅行市場の旅行者は国内旅行消費もリードしていると考えられるという。

   海外旅行の再開に向け、「行き先にこだわらず、すぐ行きたい」は全体で13.8%にとどまり、「世界的にコロナ禍が落ち着くまで行かない」が60.4%を占め、慎重な態度がうかがえる。

   次に、海外旅行の再開のきっかけは何になると考えているのかを聞いたところ、「新型コロナウイルスに対する効果的な治療薬が見つかれば」が最も高く40.4%。世界的にコロナ禍が落ち着くまでは「行かない」という人が約6割。万が一でも新型コロナウイルスに感染しても対応が可能であることが、海外旅行再開の大前提になっていることがうかがえる。

   年代別にみると、男女15~29歳では「自国の自粛ムードが解消されれば」、「友人・知人など自分の周囲の人が海外旅行に行き始めたら」が、他の年代に比べて高い結果となった。若い世代ほど自粛ムードや周囲の目を気にするなど、周囲との関係を大事にしているようだ。

行きたいところはハワイ、台湾、米国本土がトップ3

   観光目的での海外旅行が可能になったら、まず行きたいと思う国・地域を聞いたところ、上位から順に、「ハワイ(20.1%)」、「台湾(11.8%)」、「米国本土(7.5%)」、「オーストラリア・ニュージーランド(7.0%)」、「韓国(7.0%)」となった=下図参照

   コロナ禍以前から人気の高いデスティネーションであるハワイは、観光目的の海外旅行再開後の旅行先としても人気が高いようだ。それらの国・地域を選んだ理由をみると、ハワイは「その国・地域が好きだから」が他の国・地域を上回っており、「とにかく好き」というデスティネーションの総合的な強さを感じる結果となった。

   台湾や韓国では「日本から比較的近い国・地域だから」、「旅行代金が安そうだから」が高く、米国本土やオーストラリア、ニュージーランドでは「自然やアウトドアを楽しめる環境が充実しているから」が高い結果となった。また、台湾やオーストラリア、ニュージーランドでは、「新型コロナウイルスの感染者数が少ない国・地域だから」、「新しい感染症に対し、国や地域としての対応が信頼できるから」などが他の国・地域に比べて高く、新型コロナウイルスへの対応が今後のデスティネーションを選ぶうえでの基準の一つになっているようだ。

「隔離旅行」が新たなスタンダードに

   スクリーニング調査の回答者のうち、2017~20年に海外旅行に行った人(ビジネス目的も含む)2187人を対象に、本調査を実施。入国時に一定の隔離機関が設けられる「隔離旅行」や「管理型旅行(グループ型のパッケージツアー)」について、どう思うかを聞いたところ、「行き先にこだわらず、すぐに海外旅行に行きたい」と考えている人は、51.2%が「隔離旅行」を容認した。

   一方「すぐ行きたい」人でも、「管理型旅行」に参加したい人は32.6%にとどまり、約半数が「個人で好きにしたい」と回答した。

   JTB総合研究所によると、すでに世界では、隔離期間中でも滞在を楽しめるプランを用意する国・地域が出ている。たとえばタイでは、ホテルでの隔離検疫をする代わりにゴルフ場でラウンドしながら16日間隔離検疫することができる政府指定のゴルフ場を5つ発表している。出入国時の隔離期間でも滞在を楽しめる工夫は、すぐに旅行に行きたいと考える旅行者のニーズと、現状を打破したい事業者の課題の両方を捉えたコロナ禍における海外旅行のスタンダードになるのかもしれないと見ている。

   海外旅行再開の見通しが立たない現時点で、「再開を見据えた行動を何かしているか」との問いには、「海外旅行再開に向けた行動は特にしていない」は、51.6%と半数を超えた。2017~20年の海外旅行経験者でも、コロナ禍が長引き、渡航制限が続くことで海外旅行に対する関心が薄れてしまうようだ。

   海外旅行再開に向けての行動を具体的に聞いたところ、「旅行費用を貯める」が38.7%で最も高く、「具体的に行きたい海外旅行先の情報をチェックする」が24.6%で続いた。性年代別に詳細をみると、15~29歳の女性では「旅行費用を貯める」、15~29歳の男性では「休みの計画を立てる」が、他の年代に比べて高い傾向がみられた。一方、男女60歳以上では「旅行番組」、「旅行会社の催行状況」が高く、具体的に海外旅行に行くために必要な情報を集めていることがわかる。

   若年層では情報の取得は「旅行先に行った人のブログやYoutube」、「旅行体験談を家族などから聞く」が高く、同じ情報でも取得する媒体が年代によって異なる傾向がみられた。

   JTB総合研究所は、コロナ禍が長引くことで、パスポートが切れたままになる、海外旅行に対する関心そのものが薄れてしまう、といったことを懸念。「再開時には、一度リセットされてしまった環境を元に戻し、海外旅行へのハードルを下げる取り組みも重要になる」とまとめている。