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帝国ホテルが50年ぶりの建て替えに向けて打ってきた布石

   多くの外資系が進出している東京都心の高級ホテルの中でも、「格」については帝国ホテル東京が別格だろう。渋沢栄一らが発起人となり、海外からの賓客を迎えるために1890(明治23)年に開業。以来、国内外の政財界の要人が宿泊し、日本の高級ホテルの草分け的存在となった。

   その帝国ホテルが、落成から50年以上が経過した本館を全面的に建て替えることを決めた。

  • 50年ぶり……。帝国ホテルの建て替えが動き出した
    50年ぶり……。帝国ホテルの建て替えが動き出した
  • 50年ぶり……。帝国ホテルの建て替えが動き出した

明治・鹿鳴館時代から「歴史」と共にあった帝国ホテル

   伝統のある老舗ホテルはエピソードに事を欠かない。そもそも明治中期に鹿鳴館を舞台に外交を繰り広げていた外務卿(外務大臣)の井上馨が、賓客のための本格的なホテルの重要性を提唱したのがきっかけ。呼応した渋沢らが財界や政府の出資を得て、現在の本館が建つ日比谷に開業した。

   占領下には近くの第一生命館に本部を置いた連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に接収されて将官宿舎に。マリリン・モンローがジョー・ディマジオとの新婚旅行で宿泊した際には、大フィーバーを起こした。英国のエリザベス女王ら海外の王室の宿泊先としても利用される。北欧の伝統料理をヒントに始めた「インペリアルバイキング」から、日本で食べ放題をバイキングと呼ぶようになった。

   こうしてさまざまな物語を紡いできた帝国ホテル。現在の本館は3代目に当たり、1970年に落成した。タワー館も1983年の開業から38年が経過した。今回発表された計画によると、まず本館に隣接するタワー館から建て替えをはじめ、2024年度に着工して2030年度に完成する予定。本館は新しいタワー館の営業が始まった後の2031年度に建て替えに入り、2036年度の完成を目指す。本館とタワー館を合わせた総事業費は、2000億~2500億円になるとしている。

   その頃には新型コロナウイルスが収束しており、ビジネスや観光による訪日外国人がコロナ禍前のように戻り、多くの人が集まる宴会や会議も開かれるようになっていると見込んでいるからだ。足元ではコロナ禍で利用者は減っており、2021年3月期の連結最終損益は148億円の赤字を予想しているが、外資系高級ホテルに対抗するには老朽化する設備の建て替えは避けられず、10年以上前から手を打ってきた。

三井不動産と周辺の大規模再開発で一致

   それが三井不動産からの出資受け入れだ。2007年に当時の筆頭株主だった国際興業から、三井不動産が帝国ホテル株式の約33%を取得。単独では財務的に厳しいこともあって建て替えに向けたスポンサーを探していた帝国ホテルと、日比谷公園と道路を隔てた一等地にある周辺の大規模再開発を手掛けたい三井不動産の思惑が一致した。帝国ホテルは三井不動産から役員を受け入れるが、経営の自主性を確保した。

   今回発表された帝国ホテルの建て替えも、計10社が協力して「内幸町1丁目街区」の一帯を再開発する計画の一環として位置付けられ、帝国ホテル関連の面積は再開発全体の3割程度に過ぎない。三井不動産はタワー館の一部用地を帝国ホテルから買い取り、建て替え資金を支援する形を取る。

「現在はコロナ禍で経営環境は厳しく、先行きが不透明ではあるものの、日本を代表するホテルとしての社会的使命をこの先も引き続きまっとうしていく」

   建て替え計画を発表した帝国ホテルの文書には、「日本の迎賓館の役割」を担ってきた自負が滲む。それが唯一無二のホテルであり続ける原動力なのかもしれない。(ジャーナリスト 済田経夫)