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大阪に続き愛媛も聖火リレー中止 NYタイムズが「コロナ拡大の日本で五輪を開くのは最悪のタイミング」と引導渡す

   聖火リレーが始まっても一向に盛り上がらない東京五輪・パラリンピックの開催機運。そんななか、大阪府に続き、愛媛県も聖火リレーの中止を決めた。新型コロナウイルスの感染拡大を恐れてのことだ。

   一方、米の有力紙ニューヨーク・タイムズが、

「コロナワクチンの接種が進んでいない日本で、今五輪を開くのは最悪のタイミングだ。一大感染イベントになってしまう」

   と警告を発した。

   ネット上では、愛媛県知事とニューヨーク・タイムズに称賛の声が起こっている。

  • 聖火リレーの中止を決めた中村時弘・愛媛県知事
    聖火リレーの中止を決めた中村時弘・愛媛県知事
  • 聖火リレーの中止を決めた中村時弘・愛媛県知事

県内初の変異株の死者を重く受け止めた愛媛県知事

   大阪府の吉村洋文知事に続き、愛媛県の中村時広知事が松山市内での聖火リレーの中止を発表したのは2021年4月11日だった。

   地元メディアのテレビ愛媛(4月12日付)「変異株で初の死亡例 松山市の聖火リレー公道走行を取りやめ」が、その背景をこう伝える。

「愛媛県は4月11日に新型コロナウイルスに感染し自宅療養していた50代の患者1人が死亡したと発表しました。変異株の感染者では県内初の死亡です。また、4月21日に迫った聖火リレーについて、松山市内では公道での走行を取りやめる方向で調整中であることも明らかにしました。愛媛県内では11日、新たに17人の感染が確認されました。地域別では松山市で11人、宇和島市で4人などとなっています」

   つまり、愛媛県内で初めて変異ウイルスによる死者が出たことを重く受け止めたのだった。テレビ愛媛はこう続ける。

「中村知事はこう語りました。『決して減少している兆候が見られているわけではない。全く変わってない。まだ高い水準が維持されていると受け止めていただきたい』。3月27日以来16日ぶりに感染確認が20人を下回りましたが、中村知事は県内の感染状況は高い水準が続いているとし、改めて気を緩めないよう注意を呼びかけました。また、愛媛県は自宅療養していた50代の感染者が、11日に容態が急変し搬送先の病院で死亡したと発表しました」

   患者は、医師の判断と本人の意向で自宅療養していたが、保健所が毎日健康観察をし、発熱などの症状はあったものの症状は落ち着いていた。それなのに容体が急激に悪化したことに衝撃を受けたのだ。

   中村知事は、松山市の公道でのリレーを取りやめるばかりか、城山公園で開催される到着式も一般の観覧者を入れない形で実施する考えを示した。そして、大阪府では取りやめたリレーを万博公園で代替する措置をとったが、そのような代替方法も行わないと言明したのだった。

世論調査では聖火リレー賛成は13%だけ

   大阪府、そして愛媛県と相次いで中止に追い込まれた聖火リレー。政府や五輪組織委は聖火リレーを「東京五輪開催」の機運を醸成する起爆剤にするとしていたが、国民の評判は極めて悪い。共同通信が4月12日に発表した世論調査では、一部で観衆の密集がみられた聖火リレーの是非について聞いている。「感染が深刻な地域に限って、中止するべきだ」が49%、「全面的に中止するべきだ」が36%で、「最後まで継続するべきだ」は13%しかいなかった。

   聖火リレーがスタートして、ひと月がたったが、五輪の開催の機運も盛り上がっていない。同じ共同通信の世論調査によると、今夏に予定されている東京五輪・パラリンピックについて、「開催するべきだ」が25%しかなく、「中止するべきだ」が39%、「再延期するべきだ」が33%と、72%が今夏開催に反対だった。これは3月とほぼ同じ数字だ。

   朝日新聞が4月12日に発表した世論調査でも同様の傾向が見られた。「今年の夏に開催する」は28%(前回3月は27%)、「再び延期する」が34%(同36%)、「中止する」が35%(同33%)で、今夏の開催に反対する声が69%だった。これも3月から横ばいだ。

「最悪のタイミング」と東京五輪中止を求めたニューヨーク・タイムズ電子版(4月12日付)
「最悪のタイミング」と東京五輪中止を求めたニューヨーク・タイムズ電子版(4月12日付)

   こんななか、海外の有力メディアのあいだでも、「もう東京五輪、やめようよ」という声が上がっている。4月12日付の米紙ニューヨーク・タイムズ電子版がスポーツ面のコラムで「It's Time to Rethink the Olympics」(オリンピックを考え直す時だ)という見出しをつけて、東京五輪と北京冬季五輪の中止を訴えた。

   ニューヨーク・タイムズは、日本では新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、ワクチン接種も先進国では最低レベルに滞っている。そんな状態で東京五輪を開催するのは「最悪のタイミング」であり、日本と世界にとって「3週間にわたる一大感染イベント」になる危険性がある。東京五輪は当初の予算を大きくオーバーしており、日本国民の多くが大会の延期か中止を望んでいると指摘した。

   また、北京冬季五輪も新疆ウイグル自治区や香港で見られる人権侵害をしている中国のような国が開催国になっていいのかと疑問を投げかけた。そもそもオリンピックでは、リオ五輪でもブラジル政府が会場周辺住民を5万人以上強制退去させるなど、人権問題が起こっている。東京五輪と北京五輪を含めて「オリンピックはもう行き詰っている。あり方を考え直すべき時が来ている」と主張した。

県民に目がいく知事と、政府に目がいく知事との違い

なでしこジャパンの聖火リレー(五輪組織委員会の公式サイト)
なでしこジャパンの聖火リレー(五輪組織委員会の公式サイト)

   ネット上では、こんな声があふれている、

「愛媛の知事が代替え無しの聖火リレー中止の判断をされたことに他の知事も見習って欲しい。大阪府知事は代替えの万博公園ぐるぐる走りをしましたが、聖火リレーを中止するべきでした。まだまだ大阪府は拡大するのでしょう。ようやくまともな判断の出来る県知事さんが現れましたね。県民に目がいっている知事と、政府に目がいっている知事との違いです」

   「松山が中止ならば、東京、横浜、京都、神戸、福岡は中止だよね」

「全国の知事は見習ってほしい。誰がどう考えても聖火リレーなどやっていい状況ではない。組織委は密になれば中止も検討といいながら、各地で密を創出しながら継続している。さらにそのことに一言の説明もない。何が何でも、やめるつもりなど最初からなかった。感染対策をして五輪開催などと言っているが、対策の有効性も何も出てこないし、たとえ説明があっても今さら信じることはできない。政治家の中からもっと中止の声が強く上がってもいいはずなのに、聞こえてくるのが海外からの皮肉ばかりとは残念だ」
「さすが中村さん。ご英断に敬意を評します。そもそも東京運動会と無関係な地域まで公道利用が制限されるなど負担を強いられるのは違和感があります。聖火リレーもスポンサー企業によるチンドン広告で全然『聖』なる感じがしません。正直、コロナがなくても金輪際、五輪関係のイベントはお断りして欲しいです」

   また、ニューヨーク・タイムズの記事について、こんな意見があった。

「海外から見ると、今のコロナ禍で五輪開催に向けた行動が、いかに異常か冷静に判断出来るのでしょう。世界がパンデミックの状況で、国内では国民に自粛要請して、ワクチン接種が1%しかないのに世界から人を集める行事など論外だ。ワクチンすら開発できない国が、オリンピックなんてどだい無理なのだ」
「ワクチン接種が1%にも満たず、東京都や大阪では、いつまた緊急事態宣言が再発令されるかわからない中での五輪開催など、世界各国から見れば一大感染イベントと言われて当然。国民には外出自粛や会食等の規制を行うなか、五輪だけは聖域だとする発想が理解できない。日本国民だけではなく日本に来る外国人まで感染を拡げる結果となった場合、それこそ歴史に悪名を残す五輪して後世に語り継がれるのではないか」

(福田和郎)