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政府・自民党、原発再稼働・建て替えに動く 「脱炭素」「国力維持・向上」掲げ議連発足(鷲尾香一)

   原子力発電所の再稼動、建て替え、新たな増設が動き出しそうだ。

   自民党は2021年4月12日、原子力発電所の新増設・建て替えを推進するための議員連盟を発足させた。

  • 2年後、処理済み汚染水の海洋放出がはじまる?(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所)
    2年後、処理済み汚染水の海洋放出がはじまる?(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所)
  • 2年後、処理済み汚染水の海洋放出がはじまる?(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所)

原発は「安全最優先で再稼働」進めると明記

   筆者は3月9日付のJ-CASTニュース 会社ウォッチ「CO2ゼロ実現のため、菅政権は『安全最優先』で原発を動かす【震災10年 いま再び電力を問う】」で、菅義偉首相が掲げた「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を達成するためには、「原発の再稼働」と「原子力発電所の新設」が不可欠だと指摘した。

   このことは菅首相も十分に知っているにも関わらず、原子力発電に言及することなく、CO2ゼロを打ち出した。

   しかしながら、CO2ゼロ実現のロードマップとなる、経済産業省を中心として作成された政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」には、原発について、

「安全最優先での再稼働を進めるとともに、安全性に優れた次世代炉の開発を行っていくことが必要である」

と、明記している。

   こうした動きを後押しするように、自民党議員により「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」が設立された。

   会長には、稲田朋美・元防衛相が就任。安倍晋三・前首相が顧問に就任。甘利明税制調査会長や額賀福志郎党総合エネルギー戦略調査会長も、顧問に名を連ねている。原発推進派議員約30人が参加した。

   この議員連盟は、原子力発電所は安価なエネルギー供給と脱炭素の両方を実現することができる欠かせないエネルギーとして、政府が今夏にも改める「エネルギー基本計画」に原子力発電所の新増設や建て替えの推進を明記することを目指す。

   政府の「エネルギー基本計画」は3年に1度見直しが行われる。次の見直しにあたっては、菅首相が掲げる「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標の具体化が焦点となる。

汚染水の海洋放出に歩調を合わせるように......

   議員連盟の初会合後、稲田朋美会長は原子力発電について、「安全性がもちろん一番大事だ。新しい安全性の技術を備えた新原発炉のリプレースが重要」と述べ、さらに「グリーン成長戦略」に盛り込まれている「(原子力発電ついて)可能な限り依存度を低減しつつ」という文言も削除すべきとの考えを示している。

   安倍晋三前首相も「国力を維持しながら、安定的な電力を供給する政策を考えるうえで、原子力としっかり向き合わなければならないのは厳然たる事実だ」と指摘した。

   この議員連盟、あたかも安倍政権の復活がイメージされるような、当時のメンバーが顔を揃えており、安倍政権が推進した原子力政策を再現するように見える。安倍政権下では、原子力政策の所管である経済産業省出身の今井尚哉首相補佐官が、安倍首相の信任厚かったことで積極的な原子力政策が進められた。

   一方で、東日本大震災で水素爆発などを起こした東京電力・福島第一原子力発電所の事故処理は遅々として進まず、国内の原発再稼動は事実上、不可能となっていた。

   ところが、東電福島第一原発の処理済み汚染水の海洋放出の実現性が急浮上した。これと歩調を合わせるように、4月12日に自民党の「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」が設立され、翌13日に政府は処理済み汚染水の海洋放出を閣議決定した。

   これらの動きは、あたかも原発再稼動、建て替え、新たな増設を後押しするような動きに映る。議員連盟の設立は、政府が進めようとしている政策の「布石」でもある。たとえばカジノ解禁に向けて、国際観光産業振興議員連盟(IR議連)が設立され、大きな役割を果たした。

   今回の「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」の設立により、政府はCO2ゼロ達成をお題目に、原発政策を加速する可能性が大きい。(鷲尾香一)