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緊急事態宣言延長で東京五輪アウト! 「ぼったくり男爵」バッハ会長に搾取されなくてよかった?(1)

   新型コロナウイルスに対応した緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」について、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県の知事は2021年5月6日、11日までの期限を31日まで延長することを政府に要望した。大阪府も同日、緊急事態宣言の延長を政府に要望することを決めた。

   政府も愛知県と福岡県を加えて延長する方向で調整しており、5月17日にIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長の来日イベントを大々的に行い、東京五輪開催を盛り上げようとした菅義偉人首相の目論見は完全に消えた。

   そのバッハ会長は、米メディアによれば、「ぼったくり男爵」として知られ、日本は東京五輪で「搾取」されるから中止したほうがスッキリするという。米メディアに心配されてどうする。恥ずかしくないのか、ニッポン!

  • 感染拡大防止より五輪を優先した菅義偉首相
    感染拡大防止より五輪を優先した菅義偉首相
  • 感染拡大防止より五輪を優先した菅義偉首相

菅首相と閣僚の相次ぐ軋轢こそ官邸の緊急事態だ

   そもそも今回の緊急事態宣言延長のドタバタ劇は、菅義偉首相の「リアクション型」朝令暮改に翻弄される関係閣僚の足並みの乱れから始まったという。「週刊文春」(5月6日・13日特大号)が、こう伝える。

「4月21日、首相官邸。緊急事態宣言発令に向け、期間について協議する最中、〈事件〉が起こった。『GWだから、強く、短期間に対策を打たないといけない。期間はもっと短くするべきだ』。そう主張したのは菅首相だ。以前から宣言には積極的ではなかった。だが、ふだんは温厚な田村憲久厚生労働相が、珍しく強い調子で抵抗を示す。『絶対にそんなことはダメです!』。結局、宣言期間はわずか17日間となった。(過去の宣言に比べ)異常な短さだ。だが、菅氏は当初、『もっと短くしろ』と強硬に主張し、田村氏の抵抗でほんの少しだけ延ばしたのが真相だ」

   週刊文春によると、2日後、また〈事件〉が起こった。菅首相が、突然、

「7月末に高齢者のワクチン接種を完了させる」

と言い出したのだ。

   ワクチン接種はいまだに医療従事者の接種率でさえ2割程度。実現不可能なミッションを突きつけられた河野太郎ワクチン担当相は、直談判談判に行き、激高した。

「できるわけありません!ロジ(=ロジスティクス、調達から接種までの物流)もできない。ハコ(接種会場)もない。ITを使った割り振りもできない!」

だが、菅氏は耳を貸さず、河野氏に実行を厳命。同夜の会見で国民に時期を表明してしまった(河野氏は『そのような発言をした事実はない』と回答)。

   週刊文春が続ける。

「首相と閣僚の相次ぐ軋轢は、首相官邸の緊急事態だ。原因をたどると、7月23日に開幕する東京五輪に行きつく。『宣言期間が異常に短いのは、5月17日に予定されるIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長の来日前に緊急事態宣言を終わらせたかったから。高齢者のワクチン接種を7月末までとしたのも五輪の時期を意識したのでしょう』(官邸担当記者)」

全国47人の知事のうち「必ず開催すべき」はゼロ

首都圏3知事を巻き込んで宣言延長を要請した小池百合子都知事
首都圏3知事を巻き込んで宣言延長を要請した小池百合子都知事

   3度目の緊急事態宣言が延長されて、開幕まで80日を切った東京五輪はどうなるのだろうか。

   東京五輪について、全国47都道府県の知事の中で「必ず開催すべきだ」と考えている人が誰もいないことが、毎日新聞のアンケート調査でわかった。

   毎日新聞(5月3日付)「東京五輪 9知事が『感染次第で中止・延期』全国知事調査」によると、アンケート調査は4月28日までに全知事から回答を得た。1問目に、住民の健康を守る立場の知事として開催をどのように考えるかを聞いたうえで、次の4項目の選択肢を示した。

(1)感染状況にかかわらず開催すべきだ。
(2)感染状況次第で中止・延期にすべきだ。
(3)すぐに中止・延期にすべきだ。
(4)わからない。

   このうち、(1)と(3)を選んだ知事はゼロだった。(2)の「感染状況次第で中止・延期にすべきだ」と答えた知事は、秋田、茨城、埼玉、山梨、長野、静岡、鳥取、大分、沖縄の9人だった。

   (4)の「わからない」と答えた知事は、富山、岡山、広島、宮崎、鹿児島の5人だった。残りの33知事は無回答・その他。ちなみに東京都の小池百合子知事は、選択肢から回答を選ばず、

「コロナ感染症の拡大を抑えるため、関係者と一丸となった全力で取り組んでいる」

と記載した。

   毎日新聞によると、「アンケートでは41知事が開催のメリットを認めるなど大会に向けた期待は大きい」としつつ、「新型コロナウイルスの感染対策に国などが万全を期して開催できるよう望む声が上がる一方、第4波の拡大が収まらないなか、国の対策への注文や提言が多く寄せられ。大会に対する不安がにじんでいる」という。

   「感染状況次第で中止・延期にすべきだ」と回答した9県知事も国への注文を具体的に挙げた。静岡県の川勝平太知事は「各国からアスリートを迎えるに当たっては感染状況を落ち着かせる必要がある。国民が『いつでも、だれでも、何度でも』検査を受けられる体制を構築するよう国に求めたい。そのことが開催国としての責務ではないか」と投げかけた。山梨県の長崎幸太郎知事は「県民の健康状態に極めて大きな深刻な影響を及ぼすような感染状況であるならば開催を延期・中止すべきだ」との考えを示した。

   沖縄県の玉城デニー知事も「国民、県民の生命を守ることが最優先である。東京を中心とした各地に緊急事態宣言が発出されるなどした場合」は、中止・延期すべきだとした。

   他に、中止・延期すべき状況について、秋田県の佐竹敬久知事が「全国を対象とした緊急事態宣言が出た場合など」。茨城県の大井川和彦知事が「開催が無理だと誰もが判断する状況」と回答。長野県の阿部守一知事は「開催の是非については多くの方が納得できる基準を設けて判断することが必要」と注文を付けた。

   ちなみに、国や東京都のコロナ対策が不十分だとして「五輪を開く資格がない」と批判していた島根県の丸山達也知事は「開催の賛否は控える」とした。

看護師に続き医師まで「調達」する気か!

   どうやら毎日新聞のアンケート調査では、政府や大会組織委員会に忖度する知事が依然として多いことがうかがえるが、組織委の「暴走」は止まらない。

   医療のひっ迫にお構いなく、五輪組織委員会が看護師の派遣を日本看護協会に要請したことが猛批判を浴びているが、医師のボランティアも募集していることが発覚した。スポーツニッポン(5月4日付)「五輪組織委 看護師500人に続きスポーツドクター〈無償〉200人募集、批判相次ぐ」が、こう伝える。

「東京五輪・パラリンピック組織委員会が、大会期間中に競技会場の医務室などで活動する医師を確保するため、日本スポーツ協会を通じて協会の公認スポーツドクターを200人程度募集していることが5月3日、わかった。実際に案内が届いた男性医師は『4月30日に募集メールが来た』と明かす。活動内容は、熱中症や新型コロナが疑われる症例が出た場合の救急対応など。3日~5日以上参加できることが条件で1日あたり9時間程度。扱いはボランティア相当のため交通費相当額は払われるが、謝礼は支給されない」

   こうした組織委の強引なやり方に医療現場から猛反発が起こっていることを東京新聞(5月1日付)「東京五輪が社会のリスクに 今も続く医師、看護師の大量派遣依頼、現場は『不可能だ』」がこう報じている。

「『新型コロナの感染拡大に伴い、看護職の確保が不十分な状況に至っております』。大会組織委員会が日本看護協会へ送った4月9日付の文書を本紙は入手した。平身低頭、お願いや協力を依頼する文言が繰り返されていた。条件は1人当たり原則5日以上で、『早朝、深夜の場合あり』『飲食を提供予定(調整中)』と書かれている。日本看護協会は本紙の取材に『組織委への回答を公表する予定はない』と言葉を濁した」

   東京新聞の取材に対して、ある看護師はこう答えた。

「資格を持ちながら離職している『潜在看護師』の活用を考えているのではないか。現場から看護師を送り込む余裕はない。もし動員したら、一般の診療に影響が出る恐れがあるから」

   大会に必要な医療スタッフは当初、約1万人が見込まれた。競技場や選手村などに1日当たり最大で医師約300人、看護師約400人が必要という。真夏の大会では、熱中症も懸念される。東京都医師会は競技場とは別に、最寄り駅と競技場間に設けられる救護所用に延べ1000人の派遣を都から求められている。

   東京都医師会の新井悟理事は東京新聞の取材に対し、

「地域の医師はワクチン接種で手いっぱいだ。医師資格を持つ自衛官にも接種を頼むくらい人手が足りないのに、派遣は不可能だ」

と首を振ったのだった。

近畿3県と一緒に宣言延長を要請した吉村洋文大阪府知事
近畿3県と一緒に宣言延長を要請した吉村洋文大阪府知事

   大会組織委の強引なやり方は、5月5日に札幌市で行われた東京五輪のマラソンのテスト大会にも表れている。北海道と札幌市は感染が急拡大し、同日午後にまん延防止等重点措置の適用を国に要請することを決めた。それなのに、その日の午前中にマラソンのテスト大会を強行、終わった2、3時間後に要請を決めるありさまで、道民の批判を浴びたのだった。

   毎日新聞(5月5日付)「五輪マラソン大会『完全自粛』呼びかけでも沿道に観戦者」が、こう伝えている。

「東京五輪のマラソンコースを使用したテスト大会『札幌チャレンジハーフマラソン』が5月5日午前、札幌市の大通り公園~五輪マラソン中間点で実施された。北海道でも新型コロナの感染拡大が深刻化しており、組織委が沿道での『密』回避のため、約700人のスタッフを動員、観戦の『完全自粛』を呼び掛けたが、沿道には観戦する人の姿が一定程度見られた。一方で、沿道では『五輪ムリ 現実見よ』と五輪開催に批判的なプラカードを掲げた人の姿も。レースのテレビ中継では、沿道の女性が『オリンピック反対』と訴える声が聞かれた場面もあった」

   ネット上では、組織委だけでなく、北海道と札幌市にも批判の声が殺到した。

「北海道は4月の段階でまん防要請の基準を超えていた。3日前には過去最多の感染者が出ている。だけど、ずっと検討中のまま要請を出さずにいた。そしてテスト大会が終わった今日、まん防を要請するという。テスト大会に配慮してまん防を遅らせていたと思われても仕方ないですね」
「道知事・札幌市長・実行委員会は、政府に忖度して道民の「命を尊重すべき」を忘れている。強行突破をした責任は重大。これでクラスターが発生したらどうする。何より、このマラソンを許した直後に、学校の部活や修学旅行を制限することを、子どもたちにどう説明するつもりか。必ず、国・道・市・実に報いがあるよ」
(福田和郎)