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【SDGs大学長がゆく】風力発電でCO2ゼロを実現する 息の長い仕組みづくりを追求

   菅義偉首相の所信表明演説があった2020年10月26日、その成長戦略の柱に、経済と環境の好循環を掲げてグリーン社会の実現に最大限注力すること、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、すなわち「脱炭素社会」の実現を宣言した。

   CO2ゼロ宣言を達成するためには、エネルギーの供給のイノベーションは欠かせない。風力や太陽光などの再生可能エネルギーの割合を最大限に増やすための、政策、研究開発がさらに重要となってくる。

   今回は風力による再生可能エネルギーに25年前から取り組んでいる、名古屋市にあるベンチャー企業の株式会社エコ・テクノロジーの代表取締役、加藤政春さんに聞いた。

  • 「CO2ゼロ」を目指して(写真手前が、新舞子10Kw級の風力発電施設)
    「CO2ゼロ」を目指して(写真手前が、新舞子10Kw級の風力発電施設)
  • 「CO2ゼロ」を目指して(写真手前が、新舞子10Kw級の風力発電施設)

自然の力を有効に使える「トルネード型」の風力発電装置

   加藤政春さんは建築士と活躍する傍ら、ウィンドサーフィン、ハンググライダーと「自然の風」の力を利用するスポーツに精通していたのがきっかけで、従来にはない縦型(トルネード型)の風力発電装置を考案した。

   一見、「これで発電ができるの?」と思われる人は少なくないかもしれない。しかし、この発電機は自然の法則により、自然の力を有効にエネルギーに変えることのできる「ブレード(羽)」の形状が特徴で、その形状にたどり着くまでに、多くの時間を有した。

   その形状は、アンモナイトやオウムガイ、台風、ひまわりの種などのように、自然界に多く存在する黄金比とも呼ばれるフィボナッチ数列に基づいて設計されている。この形状は、追い風の時でも向かい風の時でも、「風力」を効率よく捉えることができ、またすべての風を受けるだけでなく、上手に逃がすことによりスリップストームのような状態をつくり、さらに効率的にエネルギーを生み出すことのできる仕組みという。

トルネード型風力発電は騒音もせず、広いスペースも必要ない
トルネード型風力発電は騒音もせず、広いスペースも必要ない

   国内でよく見かけるプロペラ型の発電機は、風速が毎秒6メートル以上が必要で、台風などの強風下では安全面から運転が停止される、低周波音や機械音よる騒音、風向きが全方向に対応していない、鳥の巻き込みによるプロペラの破損、設置のための広大な土地の確保などの問題点がある。

   しかし、この縦型のトルネード型発電機は双方向に回る二段のブレードを持つことで、上の羽根が磁石、下の羽根がコイルと逆方向に回転して上下、片側の羽根を半分の回転数で同じ出力の発電ができることで、風速が毎秒3メートル以下でも発電を可能にした。上下双方向の回転によって安定した姿勢を保つことができ、瞬間最大風速、秒速34メートルの台風時でも稼働した実績を持つ。つまり、強風下での発電を可能にしたことを証明したのだ。

   プロペラ型の風力発電機のような風切り音や機械音の騒音は発生せず、全方向からの風に対応する、鳥を巻き込みにくい構造のため、ブレードの破損の恐れがなく、縦型の形状ため広大な土地は必要としないなどの、多くの利点を持つ風力発電機といえる。

あふれる開発意欲「自分を超えるのは自分でありたい」

エコ・テクノロジーの加藤政春社長
エコ・テクノロジーの加藤政春社長

   加藤社長には、発電機を世に出すにあたり「どうせ作るなら、絶対壊れないものを作ろう」という思いが強くあった。

   そこで、南極と同じような過酷な環境下に発電機を2年間放置するという実証実験を行った。その結果、何の損傷もなく作働していたことで堅牢な発電機であり、メンテナンスが不要なことも証明した。ブレードの素材がアルミであることから、耐久年数が過ぎた後の再利用を可能にし、環境への負荷が極めて少なくした。これも見逃せない特徴である。

   10年前、すでにSDGs(持続可能な開発目標)の目標12にある「つくる責任、つかう責任」を実践していたわけだ。

   これからの課題は、製造コストを抑えることにある。ブレードの形状が特殊のため、現状は職人技といわれる熟練者が手作業で手掛けている。いずれ受注が増えてくれば、機械で製造ができるようになるだろうが、そのためには多額の投資が必要となる。

   ここで、加藤社長は次の一手を考えていた。トルネード型風力発電機は街中でも設置ができる利点を生かして、たとえば通信アンテナや監視カメラ、各種センサーの設置。デジタルサイネージなどの広告塔や、ひょっとしてドローンの充電基地として活用できるのではないかと考え、それらを併設することで大幅なコストダウンが図れる可能性が出てくるのではないかと考えていた。

   「すでに発電効率を1.5倍に上げる、新たな発電機を考案中」という。

   この発電機の詳細は、まだ発表できないが、実現すれば大幅なコストダウンになることは間違いない。そのほかにもクルマに取り付けて燃費の向上を図る小型の風力発電機や小型の水力発電への応用など、空気や水など自然の力が流れる、さまざまな場面での「発電」が期待できる。

   地球が自転している限り、「風」は途切れることはない持続可能な自然エネルギーである。加藤社長が、25年以上も前から取り組んできた自然エネルギーの活用は、これからもさまざまに進化していくのだろう。

   数年後には、現在の発電機の特許が切れるそうだ。加藤社長は、新たな特許を取得することに意欲を燃やしている。誰も考えつかなかった異形のトルネード型風力発電機。「自分を超えるのは自分でありたい」という言葉に、開発しつづける発電機への思いと地球環境を救う使命感がにじむ。

   今後のさらなる活躍を、多くの人に注目をしてほしいと思う。(清水一守)