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「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一が語った名言の数々【朝礼のネタ本はこれだ!】

   会社で朝礼があり、毎日何かを話さなければならない役職者にとって、ネタ探しは大変だろう。そんな人のために、5月は「朝礼のネタ本」を随時紹介していきたい。

   NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一への関心が高まっている。ドラマも青年期の大きな転換点に差し掛かり、徳川慶喜との出会いの場面がもうすぐ登場する。

   「あまり本を読まない」という部下が多い職場では、テレビドラマの話題から朝礼のネタを探すのも、一手だろう。

   渋沢栄一についての本は多いが、渋沢本人が書いた「現代語訳 論語と算盤」が、42万部のベストセラーになっている。「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢の精神を紹介する本として、打ってつけだろう。

「現代語訳 論語と算盤」(渋沢栄一著、守屋淳訳)筑摩書房
  • 渋沢栄一翁が遺した名言の数々が生きている
    渋沢栄一翁が遺した名言の数々が生きている
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渋沢栄一は「論語」の教訓を目安に「商売」に飛び込んだ

   「論語と算盤」は渋沢栄一記念財団の前身となった竜門社という組織が、渋沢の講演の口述筆記をもとに編集したもので、大正5(1916)年に刊行された。以後、何度か再刊されているが、本書はその中から重要部分を選び、守屋淳さんが現代語訳した。

   暴走しがちな資本主義に歯止めをかける枠組みとして、渋沢は中国の古典「論語」に注目した。

   「第1章 処世と信条」で、「論語」とソロバンは、はなはだ遠くて近いものであるとして、こう書いている。

「実業とは、多くの人に、モノが行きわたるようにするなりわいなのだ。これが完全でないと国の富は形にならない。国の富をなす根源は何かといえば、社会の基本的な道徳を基盤とした正しい素性の富なのだ。そうでなければ、その富は完全に永続することができない。
 ここにおいて『論語』とソロバンというかけ離れたものを一致させることが、今日の急務だと自分は考えているのである」

   そして、昔、菅原道真が日本独特の精神と中国の学問をあわせ持つことを「和魂漢才」といったことにちなみ、「士魂商才」ということを提唱した。武士の精神と商人の才覚をあわせ持つということである。その両方に「論語」が役立つというのだ。

   渋沢は官僚を辞めて実業界に入った時、「論語」の教訓を目安として、商売をやってみようと決心した。「論語」は学者が難しくしたが、孔子の教えは「実用的で卑近な教え」なのだ、と書いている。

   本書はこのほか、「立志と学問」「常識と習慣」「理想と迷信」などテーマごとに10章で構成されている。興味を持ったところを読み、「なるほど」と思ったところから、渋沢の言葉を引用して、朝礼に使えばいい。

   たとえば、「得意なときと、失意のとき」という項目では、こんなことを言っている。

「だいたいにおいて人のわざわいの多くは、得意なときに萌(きざ)してくる。得意なときは誰しも調子に乗ってしまう傾向があるから、わざわいはこの欠陥に喰い入ってくるのである。 ならば世の中で生きていくには、この点に注意し、得意なときだからといって気持ちを緩めず、失意のときだからといって落胆せず、いつも同じ心構えで、道理を守り続けるように心掛けていくことが大切である」

小さな仕事も大事に

   新人や若い人が多い職場では、「どうして自分がこんなつまらない仕事をしなければならないのか」と不満を持つ人もいるだろう。渋沢はこう戒めている。

「こうして与えられた仕事に不平を鳴らして、口に出してしまうのはもちろんダメだが、『つまらない仕事だ』と軽蔑して、力を入れないのもまたダメだ。およそどんなに些細な仕事でも、それは大きな仕事の小さな一部なのだ。これが満足にできないと、ついに全体のケジメがつかなくなってしまう。時計の小さな針や、小さい歯車が怠けて働かなかったら、大きな針も止まらなければならない。同じように、何百万円の銀行でも、厘や銭単位の計算が違うと、その日の帳尻がつかなくなってしまう」

   本書は朝礼のネタだけに使うには惜しい本である。「論語」といえば、社会秩序を重んじるものというイメージが強いが、ところどころに渋沢の反骨精神も顔をのぞかせている。「第8章 実業と士業」では、江戸時代に経済活動は社会正義のための道徳と無関係な人が携わるとされたため、まるで「すべての商業は罪悪だ」といわれた大昔と同じような状態が続いてしまったのだ、と批判。長く続くうちに、形式だけが繁雑になり、「この結果、武士の精神が廃れてしまい、商人も卑屈になって、うそが横行する世の中になってしまったのだ」と断罪している。

三菱の岩崎弥太郎との対立

   巻末には、守屋さんによる「渋沢栄一小伝」があり、渋沢の人生をコンパクトに紹介している。尊王攘夷の志士として活躍した時期、一橋家の家来となった時期、幕臣としてフランスに渡った時期、明治政府の官僚となった時期、実業人となった時期と異なる5つのステージがあった。

   三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎との「屋形船会合事件」にも触れている。弥太郎から「強者連合」を組まないか、と誘われたが、「独占事業は欲に目がくらんだ利己主義だ」と批判し、断った。

「もし栄一が欲得に目がくらみ、岩崎弥太郎と結託する選択をしていたなら、後の日本の資本主義は、おそらく今とは形の違うものになっていた可能性が高い。栄一の揺るがぬ信念があったからこそ、現代のわれわれはその果実の恩恵に浴し、世界有数の経済大国の地位を享受している面があるわけだ」

と守屋さんは書いている。

   簡単に言えば、倫理を持った資本主義という渋沢の考えが、グローバル資本主義の行き過ぎた現在、人々の共感を集めているということだろう。(渡辺淳悦)

「現代語訳 論語と算盤」
渋沢栄一著、守屋淳訳
筑摩書房
902円(税込)