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インド変異株の侵入を許す東京五輪のザルだらけの水際対策 第3国経由の入国って「なめられてる」!(1)

   新型コロナウイルスの変異ウイルスの急激な感染拡大が収まらない。東京五輪・パラリンピックを契機に、パンデミックの火がつかないか――。そんな懸念の声が広がっている。

   なかでも怖いのが、インドで爆発的な猛威を振るっているインド型変異株だ。政府はインドなどからの入国者の規制を強化したが、当のインド五輪代表団は「第3国」経由でやってくるという。なめられたものだ。

   そうでなくても政府と五輪組織委員会の水際対策はダダ漏れのザルといわれる。どうなる、ニッポン?

  • 断固、東京五輪開催を崩さない菅義偉人首相
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検疫をスルーしてどんどん入ってくるインド変異株

   インドでは2021年5月8日現在、新型コロナウイルスの1日当たりの死者が4000人超、新規感染者が40万人超という猛烈な変異ウイルスが猛威を振るっている。

   隣国のパキスタンやネパールなどにも広がっていて、インドで見つかっている二重変異株、あるいは三重変異株は免疫が働きにくくなったり、感染力が強まったりする可能性が指摘されている。従来株より2倍近く感染力が強力化しているという研究もあるほどだ。

   このため日本政府は5月7日、新種の変異ウイルスの感染拡大が深刻なインド、パキスタン、ネパールからの入国者に対する水際対策を強化することを決めた。具体的には入国後3日間としてきた指定宿泊施設での待機期間を6日間に倍増させ、待機解除までの検査回数も3回から4回へと増やした。

   変異ウイルスが流行する国や地域(現在35の国・地域を指定)から入国する場合、現地出国前と入国時に検査を受けたうえで、検疫所が確保する宿泊施設での待機に移り、入国後3日目に3度目の検査を実施。陰性と確認されると自宅待機に移る流れになっている。インドなど3か国に関しては、それをさらに強化しよういうわけだが、果たして実効性があるのか、疑問をなげかけるメディアが多い。

   毎日新聞(5月8日付)コラム「土記:水際対策どうする」で、科学専門編集委員の青野由利記者が、こう指摘した。

「(空港検疫で新型コロナ陽性と判定された人は)4月の国別データを足し合わせると、最も多かったのがインドで70人以上。パキスタンも60人以上。5月に入って目立つのは、インド、ネパールからの陽性者だ。日本に入国する人は全員、出国前72時間(3日間)内の検査が義務付けられている。なのに、この陽性者数。発熱やせきがある人もいる。これまでの経験から、空港検疫をすり抜けてしまうケースがあることも確実だ」

として、検疫が「ザル状態」であることを問題視する。

   そして、こう続ける。

「なかでも気になるのは感染爆発が起きているインドの変異株。性質はまだはっきりしないが、感染性の増加やワクチン効果低下の恐れがある。では、対策は? 5月から対象となったインドを含め、世界35の『変異株流行国・地域』からの入国者は、まず検疫所が指定する宿泊施設で待機。3日目に検査陰性なら待機が必要な14日間の残りの11日間は自宅などでの自主隔離となる。それで十分なの? と思ったら、政府はインド、パキスタン、ネパールからの入国者の待機を3日間から6日間に延長するという」
「リスクは減るだろうが、これで大丈夫とも言えない。問題は感染を広げる可能性のある期間をどう過ごしてもらうか。自主隔離中はアプリや電話で確認しているというが、1日2000人の入国者を14日間フォローすると、単純計算で1日2万8000人。漏れをなくすのは難しい。政府の対策は全体に中途半端だが、水際対策もまさにそう。五輪が念頭にあるから? そんな気がしてならない」

   青野記者が指摘しているのは通常の検疫体制だ。それでも「単純計算で1日2万8000人」もチェックするのは難しいと指摘する。実際にインド型の変異株は国内では4月27日時点ですでに21例が確認されている。うち1例は東京都内の80代女性だが、女性にインド渡航歴はなく、感染経路は不明だ。また、5月3日にはインドから入国した50代の日本人男性が新型コロナの療養中に死亡している。

まだ「コロナ対策者」を決めていない各国代表

   ところが、東京五輪期間中となると1日2万8000人どころか、その数十倍以上の検疫が必要になる。政府と東京五輪大会組織委員会が作った「水際対策」はまったく役に立たないと指摘するが、時事通信(5月3日付)「五輪コロナ対策ルール、これだけの疑問」である。

   時事通信はまず、「むなしいバッハIOC(国際オリンピック委員会)会長の自画自賛」として、4月28日にIOCや五輪組織委が発表した新型コロナ対策のルール集「プレーブック」がいかに「穴」だらけかを、こう伝える。

   まず、最初の問題点が「各国代表のコロナ対策責任者(CLO)」の任命だ。各国の オリンピック委員会(NOC)・パラリンピック委員会(NPC)はCLOを置くことになっている。

   CLOは入国前には選手らにコロナ対策のルールを守る誓約書、活動計画書、健康管理実施状況の確認などを取りまとめる。入国後、選手団から陽性者が出れば、行動履歴や濃厚接触者を調べ、保健当局や組織委と連携して対策を決める。まさにコロナ対策の成否を左右する立場だが、5月初め現在、まだ任命していない国が多いという。

   しかも、CLOが具体的に何をすればいいのか、業務をサポートするシステムのリリースもまだできておらず、組織委員会が配布するのが5月末になるというありさまだ。CLOの仕事がいい加減になるのではないか、と時事通信は心配する。

東京五輪は開けるのか(新国立競技場)
東京五輪は開けるのか(新国立競技場)

   2番目の問題は「マスクは自前で調達する」という信じられない対応。マスクは選手団や参加者個人が用意するのがルールだ。布製を使う場合は2重、3重にすることや材質まで指定。1日1回は洗い、世界保健機関(WHO)のガイドラインを守るよう指示している。そこまで細かく指示して、大会本部がマスクの配布しないのは「国によって公衆衛生の感覚や文化が違うから」だという。

   時事通信の取材に、コロナ禍の国際大会を経験した競技団体の役員はこう語った。

「国によって、薄いマスクや鼻出しも目立つ。材質とか毎日洗うとか、選手みんなが守るとは思えない。コンドームを配るくらいなら、使い捨ての公式マスクを作って潤沢に配ればいいのに」

   コロナ禍よりも性感染症のほうが心配なのか、国内4社のメーカーがコンドームを4万個ずつ合計16万個も選手たちに配る予定だ。

「何を考えているのか。濃厚接触を勧めるつもりか!」

という声もあがっている。

   3番目の問題は、「(陽性という)通知がなければ陰性」と判断する性善説主義の対応。選手は出発前2回の検査を受けるなど一定条件の下で、入国初日から練習ができる。選手の検査は「原則毎日」だが、実際には競技・種目の日程が立て込み、常時数万人の選手らがそれぞれ分刻みで動く。そこへ検査、再検査、通知、濃厚接触者認定作業...と結果が判明するのが遅れるケースが考えられる。その場合、「(陽性という)通知がなければ陰性」と判断して先に進まないと競技ができなくなるわけだ。つまり、事実上感染しているかどうか確認できないまま、どんどん競技を進めるわけだ。

   この問題は早くから海外メディアも指摘していた。組織委員会の記者会見で、海外メディアから、

「検査は大会期間中に全部で何回やるのか。約1万5000人が参加し、関係者を入れると全部で数十万回は想定される。検査を十分に行う医療の人材はいるのか」

と聞かれると、組織委の武藤敏郎事務総長は、

「結論が出ていないので数字は言えない。頻度も競技によって(試合間隔などの)事情が違うので、詰めている」

と見通しを明言しなかった。

(福田和郎)