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知事のワクチン優先接種は「上級国民」の割り込みと同じか! あなたはどう思う?

   国民一人ひとりの命のために、一刻も早く接種したい新型コロナウイルス対策のワクチン接種だが、各地で大混乱が発生。予約すら満足に取れない大渋滞が起こっている。

   そこへ割り込こもうとする「上級国民」が各地で問題になっているが、都道府県の知事はどうなのだろうか。やはり、特別扱いをせずに順番を守るべきか、コロナ対策の行政トップとして率先して接種すべきか――。

   ネット上では、国会議員の場合は「絶対に割り込みを許さない!」という怒りが煮えたぎっているが、知事の場合には「ぜひ早く接種してほしい」という要望が殺到している。

  • まだ接種していない東京都の小池百合子都知事(公式サイトより)
    まだ接種していない東京都の小池百合子都知事(公式サイトより)
  • まだ接種していない東京都の小池百合子都知事(公式サイトより)

全国47人の知事で「接種済み」はわずか3人

   全国各地で自治体の首長が高齢者よりも先にワクチン接種をしていることが判明。賛否両論が起きているなか、全国47都道府県の知事の接種状況を緊急アンケート調査したのが、週刊アエラのオンライン版「AERA dot.」(5月15日付)「ワクチン接種済みは誰? 小池、吉村氏ら47都道府県知事アンケート回答を全公開」の記事だ。

「安心して打ってもらえるよう率先して接種した」という大分県の広瀬勝貞知事(公式サイトより)
「安心して打ってもらえるよう率先して接種した」という大分県の広瀬勝貞知事(公式サイトより)

   「AERA dot.」は、茨城県城里町の42歳の町長が「自分は実質的に病院長のようなもの」として高齢者より先にワクチンを接種するなど、各地の首長が「私も医療従事者」「廃棄予定だった分を有効活用した」など次々に接種する例が発覚、住民も違和感を覚えている。一方で、危機管理のトップである首長は率先して打つべきだという意見もあり、賛否両論が起こっている。

   知事の接種状況はどうなのか――。質問は(1)ワクチンを接種したかどうか(2)接種した/していない理由(3)接種した場合はいつか、の3つだ。

   その結果、ワクチンを接種した知事は5月15日現在、わずか3人の知事しか接種していないことに驚く。和歌山県の仁坂吉伸知事(70)、福岡県の服部誠太郎知事(66)、大分県の広瀬勝貞知事(78)である。3人はそれぞれこう説明した。

仁坂・和歌山県知事「県民に接種を促している立場であり、高齢者接種が始まってすぐ率先して申し込んだ」
服部・福岡県知事「65歳以上の優先接種の対象となる県民、市民の皆様に安心して接種できることを見ていただくため、福岡市からのお声掛けにより、マスコミリリースのうえ接種を受けた」
広瀬・大分県知事「接種会場の様子を見に行くため、また、接種に不安を覚えている人もいるので、安心して打ってもらえるよう率先して打ちに行った」

   47都道府県のうち65歳以上の高齢者にあたる知事は全部で18人だが、この3人以外はまだ接種していない。

   蒲島郁夫・熊本県知事(74)は「一般の方を優先させたい意向」(知事公室)という。佐竹敬久・秋田県知事(73)の場合は、「知事は『自分は最後に打つ』と言っているようだ」(同県関係者)というから、船が沈むときには船長は最後まで残る覚悟に通じるものがあるのか。

「自分は最後に打つ」という秋田県の佐竹敬久知事(公式サイトより)
「自分は最後に打つ」という秋田県の佐竹敬久知事(公式サイトより)

   予約待ちの知事もいた。吉村美栄子・山形県知事(69)や井戸敏三・兵庫県知事(75)、荒井正吾・奈良県知事(76)らは「予約は済んでいるが接種日がきていない」状態だ。小池百合子・東京都知事(68)は「接種のタイミングは、居住自治体の案内に従う」と回答した。

小池都知事、吉村大阪知事「順番を守る」

一般の順番どおりに接種するという大阪府の吉村洋文知事
一般の順番どおりに接種するという大阪府の吉村洋文知事

   若手の鈴木直道・北海道知事(40)や熊谷俊人・千葉県知事(43)、吉村洋文・大阪府知事(45)らも「まだ接種の対象になっていない」との回答で、基本的に国が定めた順番に従うという知事が圧倒的に多い。

   「AERA dot.」の調査を見る限り、行政のトップが率先してワクチンを打つべきだとする考えの人はほとんどいないようだ。

   こうした姿勢について、行政の専門家はどう見ているのだろうか。時事通信(5月15日付)「『首長優先』許される? ワクチン接種、識者の見解は」は、2人の専門家の意見を紹介している。

   地方自治論が専門の同志社大学の野田遊教授は、こう指摘した。

「首長は自治体の意思決定を行う決裁権者。優先接種を受けるべき立場であり、受けなくてはならない。もし首長が感染すれば、ワクチン供給や感染防止対策は大きく遅れ、住民が不利益を受ける。余ったワクチンを打つこと自体、本来はそこまで問題視されることではない」

   さらに、野田教授は優先接種に厳しい目が向けられたのは、ワクチンの供給遅れや予約システムの不備など、行政の不手際に不満がたまっていることが背景にあると分析、こう結んだ。

「首長側は『自分も医療従事者』などと言い訳せず、市民のために接種を受けたと丁寧に説明していくべきだ」

   京都大大学院の児玉聡准教授(医療倫理)は、厚生労働省が過去に定めた新型インフルエンザワクチンの接種ガイドラインでは、医療従事者のほか首長や警察官などの「社会機能維持者」も優先対象だったと説明。こう指摘した。

「なぜ(行政のトップが)新型コロナウイルスでは含まれなかったのか。不透明な形での優先接種は、公平性の観点から問題がある。菅義偉首相も訪米前、例外的に優先接種を受けたが、バイデン米大統領に会うためとあって当時は騒がれなかった。余ったワクチンの扱いも含め、例外や拡大解釈を許さないような厳格なガイドラインを作っておくべきだった」

行政トップは安全を示すために率先して打とう

   ネット上では、知事などの自治体トップは率先してワクチンを接種するべきだという声が圧倒的に多い。

   日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は、こう指摘した。

「私としては、(1)ワクチン副作用懸念があるなか、外国の首脳は率先して接種して、ワクチンの安全性をアピールしている(2)司令塔である首長が感染しては地方行政が機能停止する(3)予約キャンセルが発生した場合、コロナ対応する人々がそれを接種したほうがムダにならず、集団免疫に近づくなどの理由から、首長が接種することは意味があると思う。コロナは自然災害クラスの喫緊の問題だ。地方行政のあり方の視点から冷静に報じる必要がある」

   ほかにもこんな意見が相次いだ。

「年齢関係なく首長の先行接種は当然だと思う。首長はコロナだけに対応しているわけではない。梅雨に入れば豪雨災害が心配だし、最近、各地で地震が頻発している。自然災害の対応も必要。その時、首長がコロナに感染して重症化していたら行政の空白を生じる。自分は医療従事者などという言い訳なんかしないで、堂々と打つべきだ」
「知事は権限がものすごく大きい。傘下に県警や消防も含まれています。自衛隊の災害派遣を決められるのも知事です。歯車の中心がいないと、県民の生活と安全は守れません。個人的には47都道府県の知事は、もうとっくに接種済みと思っていましたから、たった3人だけなんてショックです」
「北九州市長の北橋健治さん(68歳)は4月のかなり早い時期に、真っ先にワクチン接種しました。接種模様は地元のニュースで流されました。市長曰く『全然痛くありませんでした。ご覧のように副作用もありませんよ』とカメラの前でやわらかに応じていました。副作用や痛みを心配する市民が多いので、私をはじめ多くの福岡県民は安心したと思います。コソコソやるのは、何らかのやましい気持ちがあるから。堂々と公表すれば、ここまで問題にならなかったと思います」
「北橋市長は本当に印象的で良かったですよね。北九州市が政令指定都市の中で、高齢化率がトップであることを十分意識した上での行動です。テレビの前で副作用の問題がないことを市民にしっかりと見せていました。誰も文句を言う人はいませんでした。これこそトップの役割です」

   また、こんな指摘もあった。

「ワクチン接種が始まる前は『政治家が先に打って安全を確認しろ!』と言う人がいる。実際に政治家がワクチンを打ったら、『上級国民を優先するのか!』と批判している人がいる。こういう誰かの足を引っ張る風潮、もうやめよう」
「医師です。新型コロナウイルスの沈静化のために重要なことは、可能な限りワクチンを迅速に国民全体に普及することであり、それには公平性よりも効率を重視するべきです。医療者がクラスターを起こせばそれが滞る恐れがある。また首長が感染すれば県政や市政が滞る可能性があるため、効率を重視するならば首長の先行接種は極めて合理的です。高齢者優先に関しては、高齢者が感染した場合に医療者の手が数倍必要になるためですが、正直、ワクチンの迅速普及では何の効果ももたらしません。むしろ現場では文句や怒号が多い、送迎やタクシーの手配が必要、ネットが使えない...など迅速さへの妨げになっています。もう少し全体的に柔軟な思考能力を持つべきではないでしょうか?」

(福田和郎)