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悲鳴!「ウッドショック」輸入木材の価格上昇 「森林資源大国」のはずがどうにもできないワケ

   このところ世界的に木材価格が急騰し、関係業界で「ウッドショック」と悲鳴が上がっている。

「ウッドショックは避けられない。状況をみて早め早めの対応をする」

   大東建託の小林克満社長は2021年4月30日の決算発表の席上、そう語って表情を引き締めた。木材価格の上昇で2022年3月期は60億円程度のコストアップが見込まれ、完成工事の利益率は1.5ポイント下がると予想した。

   いったい何が起こっているのか――。

  • 木材は不足している……
    木材は不足している……
  • 木材は不足している……

木材先物価格は1年で5倍超の高騰

   こんな悲鳴が上がる理由は、輸入木材の価格上昇だ。

   世界最大級の先物市場であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)では、指標となる木材の先物価格は、1000ボードフィート(約2.36立方メートル)あたり1600ドル台で過去最高値を更新している。2020年春には300ドルを割ったこともあり、1年で5倍以上に跳ね上がっている。

   梁に使う集成材の東京地区の問屋卸価格が現在1立方メートル当たり7万円台半ばと、2007年に付けた最高値を上回る水準。「コロナ前の1.5倍以上になっている」(業界関係者)という。

   木材価格高騰は需要、供給の両面に原因がある。

   第1に、米国の旺盛な住宅需要だ。住宅着工はコロナ禍で一時的に冷え込んだものの、20年後半から急回復し、21年3月は前月比19.4%増の173万9000戸(季節調整済み、年率換算)と06年以来の高水準を記録した。新型コロナ感染拡大による在宅勤務の定着で都市部から環境のよい郊外への移住が増えたのに加え、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和による歴史的な低金利、株高による資産効果が相まって、住宅需要を後押ししたという。外出自粛に伴うDIY需要の高まりも一因とされる。

   いち早くコロナ抑え込みに成功した中国も景気回復で木材需要が増えている。中国は産業用丸太の世界最大の輸入国で、コロナ前には世界の産業用丸太の40%以上を輸入していた。

   一方、供給を阻害する要因がいくつも重なっている。コロナ禍で労働者が減って伐採が思うようにいかず、製材工場の稼働率が低下しているほか、各地で発生する虫被害、巣ごもり需要によるコンテナ物流のひっ迫、さらにスエズ運河の座礁事故の影響もあるという。

輸入がダメなら国産があるじゃないか!

   日本はコロナ禍で20年度の新設住宅着工戸数は前年度比8.1%減の81.2万戸(うち6割が木造住宅)にとどまり、20年の木材輸入額は12年以来8年ぶりに1兆円を下回った。ここまでは需要の落ち込みだが、ここにきて、世界的な供給不足、価格上昇の中で、日本の最大の輸入相手である欧州連合(EU)産木材が米国に持っていかれるなど、「買い負け」の状況という。

   コロナ禍の終息をにらんで需要の急回復を期待した住宅業界は、価格上昇と材料難のダブルパンチを被った格好だ。

   一般に、木造住宅の建設費のうち木材は1割程度を占めるといい、その値上がり分は数十万円。価格に転嫁すれば需要を抑えかねず、転嫁できなければ利益が圧迫される。木材の調達に手間取り、工期が伸びる懸念もある。

   輸入がダメなら国産があるじゃないかと、誰もが思うところ。日本は国土の3分の2を森林が占める「森林資源大国」なのだから、期待が高まるところだが、事は簡単ではないようだ。戦中・戦後の大量伐採で山は荒れ、植林を進めたが育つまで時間が必要なことから輸入木材が増加した。2002年に木材自給率は19%まで低下し、その後は回復に転じ、19年は38%になっている。ただ、森林地域の多くが過疎化、高齢化で担い手不足にあり、生産を急に増やすのは難しいのが実態だ。

   木材は、住宅産業の視点だけでなく、自然環境、地球温暖化との関係でも注意深く見る必要がある。生物の多様性を支え、CO2(二酸化炭素)など温室効果ガスを吸収する森林が年々失われている。

   日本は2050年に温室効果ガスの排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目標に掲げている。植林と伐採の長期の生産体制を国内で確立していくことは、木材の需給の安定だけでなく、輸入材と比べた運搬距離の短縮を含め、CO2削減に資する。

   「ウッドショック」が日本の林業見直しの契機になるか、注目したい。

(ジャーナリスト 白井俊郎)