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エア・ドゥとソラシドエアが経営統合は見せかけの「良縁」? 両社の腰が引けているワケ

   北海道、九州それぞれを地盤とする地方航空会社のAIRDO(エア・ドゥ、札幌市)とソラシドエア(宮崎市)が2022年10月をめどに経営統合することになった。21年5月31日に発表した。

   新型コロナウイルスの感染拡大で利用低迷が長期化し、単独での生き残りが厳しいと判断した。再編による経営効率化で収益改善を図る今回の決断は、同様に経営基盤が弱い「地方の翼」の先行きを占う試金石になりそうだ。

  • 「ドル箱」羽田空港の発着枠をめぐって……
    「ドル箱」羽田空港の発着枠をめぐって……
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経営統合の決断に意外性なし

   AIRDOは新千歳空港を中心に北海道内6空港と本州の主要都市を結ぶ10路線、ソラシドエアは羽田空港と宮崎、熊本、長崎、大分、鹿児島、那覇を結ぶ6路線など計14路線を持つ。

   両社の業績を見ると、経営統合の決断に意外性はない。2021年3月期決算は、AIRDOが121億円の最終赤字(前期は4億2400万円の黒字)、ソラシドエアも76億円の最終赤字(同9億9000万円の黒字)を計上。「需要の蒸発」とも形容されるコロナ禍の影響で、資材や人員を抱えて飛べなくなった航空会社からは資金流出が続く。21年3月末の自己資本比率は、AIRDO5.3%(20年3月末は28.2%)、ソラシドエア13.9%(同37.4%)と、急降下している。

   訪日外国人客(インバウンド)の増加により地方への人の流れが強まり、地方航空会社も潤った。しかし、コロナは変異株の拡大などもあって、簡単には収束しそうもない。特に、地方への客足が戻るには大都市より時間がかかるとみられている。これが、今回の経営統合の背中を押した。

   両社はまず、傷ついた財務基盤を強化するため、AIRDOが日本政策投資銀行と北洋銀行に計70億円、ソラシドエアも政投銀と宮崎銀行、宮崎太陽銀行に計25億円、それぞれ第三者割当増資(優先株式の発行)を実施する。

   そのうえで22年10月をめどに共同で持ち株会社を設立する。経営体制や出資比率は今後詰めるが、まず人事・財務など管理部門の共通化、燃料や部品の調達一元化などで4、5年以内に年間30億~50億円のコスト削減をめざす。これが統合の最大の目的だ。

「ドル箱」羽田の発着枠は48に拡大

   ただ、AIRDOとソラシドエアは、それぞれ子会社として傘下に入り、両社の経営の独立性は維持し、それぞれのブランドも存続させる。路線網や運賃、発着時間など航空事業の柱となる戦略での協業には踏み込まないという。

   「経営統合」といいながら、どこか腰が引けた印象だが、それは航空行政にかかわる。

   新興の航空会社には競争促進のため、「ドル箱」の羽田の発着枠が優先配分されている。羽田便はAIRDOが23枠(往復)、ソラシドエアが25枠(往復)持ち、経営を統合して48枠となれば、スカイマーク(東京都大田区)の37枠を上回る。

   ただし、合併などにより事業面で2社が一体化すれば、羽田発着枠の優遇枠が召し上げられるおそれがある。このため、統合を発表した会見でAIRDOの草野晋社長は「ただちに(優先枠ルールに)抵触するものではない」、ソラシドの高橋宏輔社長も「両社が地域の翼として独立を継続する」と強調した。

   じつは、この羽田優先枠ルールは出資関係にも及ぶ。両社はそもそも、スカイマークや北九州を拠点とするスターフライヤー(北九州市)などと同様、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)に対抗すべく、2000年前後に新規参入した「第3極」の地域航空会社の第1陣だが、競争激化でいずれも経営難に陥り、結局は4社ともANAホールディングス(HD)の出資を受け、経営再建した経緯がある。

   ANAHDの出資比率はAIRDOが13.61%、ソラシドエアが17.03%で、これが20%を超えた場合も羽田発着枠の優遇対象から外れる。両社の今回の増資を政投銀などが引き受けたのには、ANAHDにこれ以上頼れない事情があった。

苦戦を強いられる地域航空

   生き残りをかけた再編の動きは他にも出ている。JALは6月中をめどに、中国系格安航空会社(LCC)の春秋航空日本(千葉県成田市)を連結子会社化することが決まっている。フジドリームエアラインズ(静岡市)など地方航空4社は20年秋、各地の祭りを共同で宣伝し観光客を増やすことなどを目的に「リージョナル航空協議会」を設立した。「再編への布石ではないか」(関係者)との見方がある。

   LCCでは他に、JALが50%出資のジェットスター・ジャパン(成田市)、100%子会社のジップエア(同)を傘下に抱える。ANAHDも77%出資するピーチ・アビエーション(大阪府田尻町)があり、大手2社は本体との棲み分けで需要取り込みを図る。

   スカイマーク、AIRDO、ソラシドエア、スターフライヤーの地域航空4社は、大手とLCCの挟撃にあって厳しい戦いを強いられる構図は変わらない。

   AIRDOとソラシドエアは路線の競合がなく、経営統合の組み合わせとしては申し分ないものの、羽田発着枠をにらんで本格的な統合には踏み出さないマイナスがどう出るか――。経営効率化が順調に成果を生むか、さらに、コロナ禍により落ち込んだ需要回復のペースによっては、他の各社を巻き込んで、一段の再編が必要になる可能性も否定できない。

(ジャーナリスト 済田経夫)