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【6月は環境月間】日本のエコ技術を開発したエンジニアたち

   6月は環境月間だ。環境を保全するために、どうしたらいいのか? 最近、よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」とは何なのか? 6月は環境に関する本を紹介しよう。

   これから巨大なビジネスチャンスがある環境技術は、日本が技術立国として勝ち残るための生命線だ。本書「国産エコ技術の突破力」は、ハイブリッドカー、CCS(CO2回収技術)、セルロース系バイオ水素燃料、エコジェット機、ニッケル水素電池、電気自動車......など、注目の国産エコ技術の開発者たちのドラマを軸に、先端の環境技術がわかるノンフィクションエンターテインメントだ。

「国産エコ技術の突破力」(永井隆著)技術評論社
  • 環境技術には大きなビジネスチャンスがある!(画像はイメージ)
    環境技術には大きなビジネスチャンスがある!(画像はイメージ)
  • 環境技術には大きなビジネスチャンスがある!(画像はイメージ)

10キロ軽くしてヒットしたハイブリッド車

   著者の永井隆さんは、フリーライター。著書に「技術屋たちの熱き闘い」(日本経済新聞社)などがある。本書は、日経BP社のウェブサイト「ECOマネジメント」の連載記事を加筆修正し、再構成した。

   ホンダ「インサイト」のハイブリッド車、三菱重工業の二酸化炭素回収技術「CCS」、サッポロビールの「セルロース系バイオ水素燃料」など、8つの事例を開発者に焦点を当てて描いている。

   NHKのかつての人気番組「プロジェクトX」を思わせる筆致。ふだんあまり表面に出ない技術者の姿が等身大で登場するので、理系の技術者なら好感を持って読むことができるだろう。

   ホンダのハイブリッド車「新型インサイト」の開発物語がおもしろい。2007年当時、すでにトヨタの「プリウス」がハイブリッド車市場を席捲し、世界で年間43万台発売していた。対するホンダは5万5000台に過ぎなかった。200万円を切り、年間20万台売るのが、開発責任者の関康成さんに与えられたミッションだった。

   軽量化が最大の切り札だった。でき上がった設計は車両重量が10キログラムオーバーしていた。発売時期は決まっていたが、部品設計をやり直し、試作車の製作を1か月延ばすことにした。

   新型インサイトは、3万点を超える部品のうち36%を「フィット」と共有していた。これは変更できない。しかし、64%は専用部品であり、このうち重量が500グラムを超える部品1000点をピックアップ。それらを軽量化することで、13キロの軽量化を実現した。

   マフラーも排気口も見えないようにデザインした。ひと目でハイブリッド専用車であることをアピールするためだった。最廉価版は189万円(消費税込み)で発売され、日本だけで3か月で3万台を受注するヒット商品になった。

   トヨタも2009年、1800ccの新型プリウスを発売。最も安いグレードは205万円だった。ハイブリッド車が200万円台になり、国のエコカー減税も手伝い、ハイブリッド車の普及が進んだ。

   ハイブリッド車の原理にも触れているが、結局は「軽くする」という物理的な取り組みが重要だったのだ。

   4月23日、ホンダは2040年に世界で販売する、すべての新車を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にすると発表した。 ガソリンエンジン車をゼロにする目標を示したのは日本の自動車メーカーでは初めてだ。それに向けた取り組みがもう始まっていることだろう。

三菱重工の二酸化炭素吸収材とサッポロビールの水素発酵技術

   地球温暖化対策として、二酸化炭素を回収する技術が注目されている。三菱重工業はすでに1990年から、関西電力と共同で火力発電所から発生する二酸化炭素を回収するプロジェクトに着手していた。まだ、地球温暖化や二酸化炭素が注目される以前のことだった。

   94年に二酸化炭素の吸収材となる「KSI」の開発に成功する。KSIはアミン系の液体でアルカリ性。アミン液は二酸化炭素を吸収しやすいが、分離しにくいという特性がある。約200種類のアミン分子から、KSIができ上がった。

   KSIは地球温暖化対策の大きな柱とされる二酸化炭素回収・貯留(CCS)のキーテクノロジーとなっていく。

   三菱重工業は長崎県西海市にあるJパワー(電源開発)の松島火力発電所で実証実験に成功。ノルウェーの発電所からも引き合いがあった。

   回収した二酸化炭素を油田に注入し、石油採掘に利用する可能性もあるという。この技術は地球温暖化対策が叫ばれる前に日本のメーカーが開発していたことに驚いた。

   サッポロビールのエンジニアが麦芽を一切使わないビール風アルコール飲料の研究から、水素発酵の実用化を進めたストーリーが興味深い。

   最初は会社から認められた正規の開発事案ではない「闇研究」だった。ブラジルのエネルギーメジャーと提携、サトウキビのしぼりかすから、水素をつくる計画だ。リーダーの三谷優さんは「技術者は自己暗示をかけてでも、開発している技術への自身を持つことが必要です。自信を持って、自分が信じたことをやり抜く。常にブラッシュアップしながらです。そうすれば、必ず最先端になれるのです」と語っている。

   本書で紹介された事例のうち、充電池「エネループ」を開発した三洋電機は、その後パナソニックの完全子会社になり、ブランドは消滅した。また、三菱航空機の国産旅客機「MRJ」は事実上、開発が凍結された。技術があっても生き残ることは難しい。本書を読み、改めて厳しい現実を思い知った。(渡辺淳悦)

「国産エコ技術の突破力」
永井隆著
技術評論社
1738円(税込)