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【6月は環境月間】SDGsは新型コロナウイルスの克服にも役立つ!

   6月は環境月間だ。環境を保全するためにどうしたらいいのか? 最近、よく耳にする「SDGs」とは何なのか? 6月は「環境」に関する本を紹介しよう。

   国際連合に加盟する193の国と地域が採択した「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)。貧困や格差の解消や気候変動への対処など17のゴールと169のターゲットが掲げられている。ある意味、「理想」のような目標だ。国際政治の駆け引きが横行する国連で、なぜSDGsが成立したのか、その舞台裏に迫ったのが、本書「SDGs 危機の時代の羅針盤」である。

「SDGs 危機の時代の羅針盤」(南博・稲場雅紀著)岩波書店
  • 6月は「環境月間」地球や自然環境のことを考えるいいチャンスだ
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SDGsには2つの起源

   著者の一人、南博さんは2012年から15年にかけて、日本政府の首席交渉官としてSDGs 交渉にあたった外交官。その後、在東ティモール大使を経て、現在、広報外交担当日本政府代表・大使。もう1人の稲場雅紀さんはNPO法人アフリカ日本協議会でエイズ、保健分野を担当。2016年SDGs市民社会ネットワークを設立。現在は政策担当顧問。政府の「SDGs推進円卓会議」のメンバーでもある。

   外交官とNGO活動家の共著という異色の本である。「第2章 国連でのSDGs交渉」が合意までの舞台裏を生々しく伝える。

   南さんによると、SDGsには二つの起源に基づく流れがあるという。一つは、「持続可能な開発」である。1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロにおいて、世界で初めての地球環境問題に関する大国際会議、地球サミットが開催された。2012年には、地球サミットの20年後ということで、再度リオ・デ・ジャネイロでリオ+20サミットが開催されることになっていた。

   もう一つの起源は、ミレニアム開発目標(MDGs)である。2000年の国連ミレニアム・サミットでの宣言をもとにして、2001年に策定された、途上国のための8つのゴールからなる開発目標である。

   ところが、サハラ以南のアフリカではほとんど達成できなかったという批判や途上国から策定に自分たちが関与できなかったという不満があり、上記の2つを合流する形でSDGsが作られることになったという。

   MDGsのゴールは8つだった。SDGsは開発問題だけではなく、環境問題も幅広く取り上げるので、ゴールの数が増えることが予想された。

   日本を含めた先進国は12くらいが限度と思っていたが、最終的に17まで増えた。ゴールの下に位置づけられる実施手段の「ターゲット」は総計169にまで増えたから、いかに総花的であるかがわかる。国連には、「G77プラス中国」という途上国のグループがあり、現在134か国が所属している。彼らが強く主張したためだ。

   SDGsの合意局面でも、通常の国連の経済交渉と同様、「G77プラス中国」対先進国(OECD諸国)という二極構造の交渉となってしまった。つまるところ、どのようにして先進国が途上国を支援するかという問題であり、資金協力と技術協力が中心となった。

   もっとも揉めたのは気候変動に関する「ゴール13」だったという。2015年のパリでのCOP21の開催を前にゴールを作ることは不可能だった。また、ロシアなどはそもそも気候変動に懐疑的だった。しかし、市民社会や学界からの強い支持があり、合意に含まれた。

   2015年7月31日の交渉最終日になっても成立する見込みはなかったそうだ。だが、米国が交渉を終わらせる意向を示し、8月2日、どこの国からも異論の出ない、完璧なコンセンサスが得られた。南さんはほとんどの加盟国がSDGsに対して強いオーナーシップを持ち始めたため、すべてをご破算にすることを恐れたこと、またSDGsはなんら法的に加盟国を拘束するものではないことを、合意の理由に挙げている。

   17のゴールと169のターゲットのうち、いいとこ取りが出来るようになっているからだ。

新型コロナウイルスの急性的危機への処方箋

   第3章では、「日本のSDGs」を取り上げている。政府の内閣官房にSDGs推進本部が設置され、8つの優先課題を定めている。そして、「地方創生SDGs」などのアクションプランを策定している。

   日本の持続可能性を考える上で、地域の持続可能性の問題が最も困難であることから、本書でも各地の「地方創生SDGs」の取り組みに触れている。

   稲場雅紀さんが、「持続可能な開発のための教育」(ESD)を進める岡山市の行政とNPOが協働した、まちづくりの例や鳥取県智頭町の持続可能な林業と人材育成について紹介している。智頭町は高齢化率40%の山村だ。「福祉という視点をもって、産業、防災、社会との関わりを始めていくと、すべてが一つにつながっていく。福祉ってそういう上位概念ではないでしょうか」という林業家・國岡将平さんの言葉を紹介している。同町は2019年に「SDGs未来都市」に認定され、さまざまな生業が起こり、移住者も増えている。

   世界と日本、両方の視点でSDGsを捉えているのが、本書の特徴だ。さらに、新型コロナウイルス(COVID-19)との関係についても言及しているのが、示唆に富む。

「じつはSDGsがその序文や宣言、目標、実施手段、フォローアップとレビューという各パートで掲げる原則や方法は、COVID-19がもたらしている急性的危機を克服へと導く処方箋としての価値を持っているのである」

   「きれいごと」として表面的な関心しか持たれていなかったSDGsが、新型コロナウイルスの克服にも役立つというのだ。確かに、貧困をなくす、飢餓のない世界、福祉と健康、安全な水と衛生、国内・国家間の不平等をなくすなどのゴールは、新型コロナウイルス対策において重要な意義を持つ。副題の「危機の時代の羅針盤」という通りである。

(渡辺淳悦)

「SDGs 危機の時代の羅針盤」
南博・稲場雅紀著
岩波書店
902円(税込)