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日本の落日...... 台湾メーカー頼みで「日の丸半導体」再興できるのか!?

   「日の丸半導体」とは、経済産業省が旧通商産業省の時代から旗振り役となって国内の半導体事業を振興しようとする際に、関係者が決まって口にするキャッチフレーズだ。1980年代に世界を席巻していた日本の半導体メーカーはいつしか周回遅れとなり、経産省は幾度となくテコ入れを図ろうとしたが、失敗の連続だった。

   そして2021年、ふたたび「日の丸半導体」の再興に向けた策を講じた。これまでと違うのは、プランの中核が日本勢ではない点だ。

  • 「日の丸半導体」の再興なるか!?(写真はイメージ)
    「日の丸半導体」の再興なるか!?(写真はイメージ)
  • 「日の丸半導体」の再興なるか!?(写真はイメージ)

世界最大手、台湾の「TSMC」を誘致

   「日の丸半導体」再興に向けた、新たな策とは、半導体の受託生産で世界最大手の「台湾積体電路製造(TSMC)」の開発拠点を日本国内に誘致して、その開発に日本の企業や研究機関を参画させるもの。総事業費は約370億円で、日本政府が半分強の190億円を補助する方針だ。

   具体的にはTSMCが2021年3月に日本で設立した完全子会社が主体となり、茨城県つくば市にある経産省系研究機関、産業技術総合研究所(産総研)のクリーンルームを使い、研究用の生産ラインを設ける。本格的な研究は2022年に始める予定で、パートナー企業として旭化成やイビデン、JSRといった材料メーカー、キーエンスや芝浦メカトロニクス、島津製作所といった装置メーカーなど計約20社が参加する見込みだ。

   そこで開発に取り組むのは、半導体の回路を刻んだ基板からチップを切り出し、半導体の製品に仕上げる「後工程」と呼ばれるプロセス。以前は基板に回路を刻むまでの「前工程」が重視されたが、チップ同士を重ねて機能を高める「3次元パッケージ」をTSMCが手掛けるようになってからは、後工程も重視されるようになった。

   1980年代の日本メーカーは半導体メモリー「DRAM」で世界を圧倒したが、警戒した米国から足を引っ張られて、その後は失速。集約して競争力を高めようとした経産省の働きかけもあり、NECと日立製作所のDRAM事業を統合したエルピーダメモリや、日立と三菱電機から演算処理などを担う半導体の事業を集めたルネサスエレクトロニクスが発足したが、いずれも狙ったような成果を上げられていない。

TSMCにとってのメリットとは?

   だが、今回は背景が大きく異なる。コロナ禍からの経済回復に伴う世界的な半導体不足という短期的な要因に加えて、米国と中国の間で激化する技術覇権争いは中長期的に続くと見込まれる。IT機器や高速通信に不可欠な最先端半導体の開発や製造を巡って、供給網を囲い込む動きが世界的に広がっている背景には、この米中対立がある。

   そこで、TSMCを引き込むことで、国際競争力を今も残している日本の半導体関連メーカーを活性化させると同時に、台湾に対して武力による併合も辞さない構えを見せる中国をけん制する――経産省にはそんな思惑もありそうだ。

   TSMCにとっても地政学リスクが高い台湾から拠点を分散するなら、距離が近くて各種インフラが整った日本は打って付けだろう。

   海外メーカー頼みの「日の丸半導体」振興策は、日本メーカーが世界を席巻した1980年代と比べれば、一抹の寂しさを感じる人もいるだろう。ただ、もはや米中のような巨額の半導体支援策を打ち出す余裕がない日本にとっては、これが「実を取る」策となるのかもしれない。(ジャーナリスト 済田経夫)