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【6月は環境月間】SDGsにそって小さな会社が成長した!

   6月は環境月間だ。環境を保全するためにどうしたらいいのか。最近、よく耳にする「SDGs」(持続可能な開発目標)とは何なのか? 6月は環境に関する本を紹介しよう。

   再生エネルギーのつながりこそが、人口減少をはじめとした地域がかかえるさまざまな問題を解決し、地方を救う――。本書「SDGsが地方を救う」は、農業法人に就職した元環境省の官僚と気鋭の起業家が、再生エネルギーと循環型社会の可能性に迫った対談集である。

「SDGsが地方を救う」(米谷仁・生田尚之著)プレジデント社
  • 「食材からコミットするため、レストラン業にも進出した」(写真はイメージ)
    「食材からコミットするため、レストラン業にも進出した」(写真はイメージ)
  • 「食材からコミットするため、レストラン業にも進出した」(写真はイメージ)

具の入った料理に対応するデリシャスサーバー

   水、食、電気などの事業を展開するテクノシステム(横浜市)代表取締役の生田尚之さんに、元環境省の官僚で、いま石川県の農業法人に転身した米谷仁さんが尋ねるという形で対談が進む。

   テクノシステムの事業理念、事業展開が、ほとんど国連が掲げるSDGs(サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ=持続可能な開発目標)の理念と一致しているというところから話が始まる。

   まずは「水」だ。浄水システムや海水淡水化装置などを開発した同社は、世界の水を飲み水にするための技術的挑戦を行っている。2010年には、トラック型の自走式造水給水車「YAMATO」を開発。淡水化設備の小型化に成功し、太陽光発電を利用することで実現した。東日本大震災の被災地でも高い能力を発揮したという。

   海水淡水化に使う逆浸透膜を使うには高い圧力を出すため、高性能ポンプが必要で、莫大な電気代がかかる。ポンプを改良、また膜を長持ちさせる前処理フィルターを開発することで、コストの削減を実現した。

   水の問題を解決することで、SDGsの6番目の目標「安全な水とトイレを世界に」のほか、3番目の「すべての人に健康と福祉を」、4番目の「質の高い教育をみんなに」、5番目の「ジェンダー平等を実現しよう」の実現にもつながるという。アフリカでは、地域で唯一水の出る場所に、女の子や女性が半日かけて水を汲みにいくところがあるという。

   生田さんは「水の問題が、子どもの教育や女性の地位向上の足かせになってしまっているんですね」と話す。

   次は「食」だ。スープのような液体のみの料理だけでなく、和洋中幅広く具の入ったどんな料理にも対応可能なデリシャスサーバーを開発した。食材は密封構造で提供。また、機械が正確に具材を入れるので、アルバイト店員でも料理を均等にサービスできる。電気代も8時間連続運転で1日40円程度、完全自動調理なので、人件費も安く抑えられる。食材からコミットするため、レストラン業にも進出した。

新潟の山を買ったことが転機に

   3つ目は「再生可能エネルギー」だ。水や食の事業をやるために、太陽光パネルの設置などの電気工事をして資金を稼いだ。ある顧客から「土地ごと紹介してくれないか」と提案された。同社で土地を買い、太陽光パネルを用いた太陽光発電システムをつくり、セットにして完成品を売ってくれ、というアイデアだった。

   特定建設業の認可も取得。300坪ほどの土地を買い、太陽光発電所をつくって売却。それで会社の売り上げを伸ばした。それで気をよくして新潟に山を含めて300万坪の土地を買ったのが転機になった。

   木を伐採するために地元の森林組合とも協議する。じっくり話を聞くと苦労が分かったという。限られた補助金を使い伐採と植林をするが、多くの森林組合は財政難に悩んでいた。うまい解決策はないか、と考えた。

   土地取得で山を持っていたから、枯れた木のチップを買い取り、それで発電所をつくればいい。木質バイオマス発電事業にも利用できる。同社も森林組合員になり、向こう20年くらいの伐採計画を立てた。

   1日10トンくらいの水が必要となる。チップを燃やした熱を利用して、その水を水蒸気にして高圧の蒸気にするという発電だ。せっかくエネルギーを使って沸騰させた湯を捨てるのはもったいないため、地元の水耕栽培の会社とタイアップした。地元の雇用にもつながった。

熊本地震の災害支援からバイオマス発電

   2016年の熊本地震では、災害支援に駆けつけた。熊本では太陽光発電事業も立ち上がり、熊本支店をつくった。畜産の盛んな阿蘇は牛糞の害が問題になっていることを知り、バイオマス発電に取り組もうとした。

   先行例では、カロリーを上げようと、糞に生ゴミを混ぜていたことが失敗の原因だったことに気がついた。そこで農業残渣(収穫後に田畑等で発生する作物の非収穫部)に着目。熊本でもサトウキビを培養して試験プラントをつくったところ、従来のバイオマス発電よりも10~20%効率が良かった。

   テクノシステムは、2009年に資本金500万円で設立された小さな会社だ。第1期目の決算は売上高2億932万円だったが、2017年の第8期目の決算では、売上高125億円となり、18年には資本金を14億6030万円に増資した。

   水、食、再生可能エネルギーとSDGsに沿った事業展開をしてきた会社が成長したことに驚いた。また、そうした事業のタネが地方にあることも。SDGsは地域の活性化にも役立つことを知った。

「SDGsが地方を救う」
米谷仁・生田尚之著
プレジデント社
1760円(税込)