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USEN株が17.7%高で6年7か月ぶり高値 コロナ禍でも売り上げ伸ばす「勝利の方程式」 業績堅調で増配に好感

   2021年7月9日の東京株式市場で、動画配信などを手がけるUSEN-NEXT HOLDINGS(USENHD)の株価が終値で、前日比432円(17.7%)高の2871円となり、約6年7か月ぶりの高値をつけた。

   巣ごもり需要を取り込んだ8日発表の2020年9月~21年5月期連結決算で、業績の堅調さが確認されたうえ、同時に増配を発表したことが好感された。週明け12日もさらに上値を追っており、投資家の物色先となっているようだ。

  • 飲食店で流れるBGM、USENの「祖業」は有線放送(写真はイメージ)
    飲食店で流れるBGM、USENの「祖業」は有線放送(写真はイメージ)
  • 飲食店で流れるBGM、USENの「祖業」は有線放送(写真はイメージ)

飲食店向けBGMといえば有線放送

   USENHDについて、多少の説明が必要かもしれない。「祖業」は宇野康秀社長の父、元忠氏が1961年に創業した有線放送。街中の飲食店や小売業など向けにBGMの音楽を送信するビジネスだ。

   飲食店向けBGMは元忠氏の代に無断で全国の電柱にケーブルを敷いていたため、その「無断の解消」に苦労を重ねることになったが、無事に合法化を果たし、今も動画配信と並ぶ主力事業として連綿と存続している。

   動画配信は康秀社長が1998年に父の会社を継いだ後、間もなく着手した。当時サイバーエージェント社長の藤田晋氏ら新進気鋭の起業家を支援する「兄貴分」としても知られた康秀氏の「有線放送のインフラも活用して動画配信の時代を呼ぶ」との発想には先見の明はあったものの、個人向けインターネット高速通信網の整備が本格化する前夜ということもあり、なかなか軌道に乗らなかった。関連会社の再編など紆余曲折を経て、現在の商号と企業グループになったのは2017年のことだ。

   2020年9月~21年5月期連結決算の内容を確認しておこう。売上高は前年同期比7.3%増の1538億円、営業利益は49.0%増の125億円、最終利益は2.1倍の66億円と増収増益だった。

   コロナ禍にあってBGMやPOSレジなど店舗サービス事業は売上高が前年同期比1.6%減、営業利益が2.0%減とやや振るわなかったが、さほど大きな落ち込みとはならなかった。「固定費」として取引先に組み込まれていることが大きいようだ。

「店舗でコツコツ+動画配信」の勝利の方程式

   動画などコンテンツ配信事業は「巣ごもり需要」の恩恵を受けて売上高が35.8%増、営業損益は前年の赤字から黒字転換した。この結果、売上高・利益とも前年同期には上だった店舗サービス業を、コンテンツ配信事業が逆転した。店舗サービス業でコツコツ稼ぎながら動画配信を伸ばすという「勝利の方程式」が浮かび上がったと言えるだろう。

   さらに投資家に好感された増配は、2021年8月期の年間配当を前期比4円50銭増の12円50銭と従来予想(8円50銭)から大幅に引き上げる点がサプライズとなったようだ。

   動画配信については21年3月、米AT&T傘下のワーナーメディアと日本での配信で独占契約を結び、攻勢をかけている。

   ただ、先行する「ネットフリックス」や「アマゾンプライム」が国内でも浸透しており、「ディズニープラス」なども国内の顧客開拓に余念がない。「YouTube」などもライバルであろう。若者を中心に「テレビがつまらない」という認識が広がりつつあるなか、かつて宇野康秀社長が思い描いた動画配信の時代が到来したが、それは厳しい競争に直面する世界でもある。(ジャーナリスト 済田経夫)