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コロナ禍のパンデミックは社会を変える!【新型コロナウイルスを知る一冊】

   東京オリンピックの閉幕とともに、新型コロナウイルスの感染拡大がまたクローズアップされてきた。国内の新規感染者は連日1万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。

   あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。

   疾病は人類にどんな影響を与え、経済はどのように立ち直ってきたのか? 本書「疾病と投資 歴史から読み解くパンデミックと経済の未来」は、新型コロナウイルスによるパンデミックが、どのような社会変革をもたらすかを予測した本である。今後の投資戦略についても指針を示している。

   「疾病と投資 歴史から読み解くパンデミックと経済の未来」(中原圭介著)ダイヤモンド社

  • 新型コロナウイルスは変異株が猛威を振るっている(画像はイメージ)
    新型コロナウイルスは変異株が猛威を振るっている(画像はイメージ)
  • 新型コロナウイルスは変異株が猛威を振るっている(画像はイメージ)

2020年は変化の起点となる年だった

   著者の中原圭介さんは、金融機関や官公庁を経て、経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。著書に「AI×人口減少」(東洋経済新報社)、「日本の国難」(講談社現代新書)などがある。

   人類の歴史を振り返ると、感染症によるパンデミックはこれまでに起こり、そのたびに多くの人命が奪われたが、人類はそれを克服し、社会が変化することによって生き延びてきたという歴史観に立って、書かれた本だ。

   コロナ以前の社会に完全に戻ることはなく、「2020年は変化の起点となる年だった」と、未来の教科書に書かれることになるだろうという。

   ペストが中世のヨーロッパ体制を破壊し、宗教改革がやがて民主主義を生み出したこと、スペイン風邪が第一次世界大戦の戦況を左右し、ドイツの敗戦をもたらし、アメリカの勃興をもたらしたなど、過去のパンデミックが歴史に与えた影響について、冒頭でふれている。

   今回の新型コロナウイルスの世界の感染拡大を分析した後、いよいよ第4章から、「感染症と共存していく社会へ」と題し、働き方の変化について述べている。

   そのカギになるのがテレワークだ。約1時間半の通勤時間を有効活用すれば、生産性は向上するという。

   パンデミックによって半強制的にテレワークを導入せざるを得なくなり、大企業が減損を伴う古いシステムの除去に躊躇することなく、システムをクラウド型に切り替える決断を下す契機にもなる。

   テレワークの普及によって、日本人の働き方の意識が「時間」から「成果」へと変わっていく効果も期待できる。成果給とジョブ型雇用が一般的になる。カルビーや日立製作所、富士通、資生堂などの取り組みを紹介している。

テレワークで終わる「東京一極集中」、広がる「格差」

   テレワークが浸透すると、東京一極集中の流れに歯止めがかかり、やがて本格的な地方分散の時代になると予想している。長野県諏訪市に本社を構えるセイコーエプソンや研究開発拠点を東京の三鷹市から長野市に移転した日本無線などの例を挙げ、豊かな自然環境のもとでモチベーションや創造性が高まる、としている。

   大都市圏のオフィス賃料、小売店・飲食店の賃料、住宅価格も下落すると予測している。

   デジタル化は社会の格差を拡大すると見ている。コロナショックで下落した米国の株価は、あっという間に回復傾向をたどり、S&P500やNASDAQ指数などが、軒並み過去最高値を更新。こうした株式を大量に保有している富裕層はより太る結果になった。日本でも同様の傾向にある。

   最終章は「新型コロナ後の投資戦略」だ。2020年2月24日、米国のニューヨーク・ダウ工業株平均は、前週比1000ドルを超える下げとなった。過去最高値を更新したのが2月12日で、2万9568ドルだった。3月後半まで下げ続け、3月23日には1万8213ドルまで下落。わずかひと月あまりに38.40%も下落したのだ。

   投資家心理を指数化した「米国株式センチメント指数」は、野村証券が独自に試算しているデータだ。コロナショックの直後、マイナス28.6ポイント。変化幅でいうとマイナス5.2σ(シグマ)で、確率統計上、このような数字が出る確率は「392万分の1」であり、「1万年に1度」しか起こりえないことだという。

   2000年以降、2008年のリーマンショックなど、過去12年間で4回も「1万年に1度」の株暴落が起こっている。プログラムトレードや高頻度取引などを可能にしたAIの発達によって、株価暴落が起きやすいと、中原さんは見ている。

株価暴落への対応

   これから起こる周期的な株価暴落に対応するにはどうしたらいいのか――。今回のような歴史的暴落相場では、PER(株価収益率)といったファンダメンタル指標や、騰落レシオといったテクニカル指標はあまり当てにならないという。

   中原さんはPBR(株価純資産倍率)というファンダメンタル指標が最も適していると考えている。日経平均株価のPBRが1年を超えて1.0倍を割り込んだことはないからだ。

   リーマンショック時の0.81倍、コロナショック時の0.83倍(2020年3月19日)などが例外だった。だから、中原さんは「今の株価は買いで対応したい」と当時、声を上げたという。

   コロナ禍で二極化する勝ち組企業を見つけるには、企業のIR(インベスター・リレーションズ)に数多く当たることだ、と書いている。紙媒体に頼らず、一次情報にたくさん当たり、自分で考え、投資判断を下すことによって、株式投資は成功に近づく、と結んでいる。

   「疾病と投資 歴史から読み解くパンデミックと経済の未来」
中原圭介著
ダイヤモンド社
1650円