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【日韓経済戦争・番外編】超高級果物を韓国にパクられ放題の日本 ひと房140万円のブドウまで「打つ手ナシ」とは...

   安倍晋三前首相が半導体部品を輸出規制したことで2019年7月に始まった「日韓経済戦争」だが、それよりはるか前から続いている日本と韓国の「経済戦争」がある。超高級ブランド果物の栽培・販売をめぐる「日韓フルーツ戦争」だ。

   最近は、ひと房140万円もする石川県産の超高級ブドウ「ルビーロマン」が「無断」で、韓国内で栽培・販売されていることがわかった。

   これまでも一方的に負け続けている日本だが、それが今でも「打つ手ナシ」だという。いったいどういうことか――。

  • ひと房140万円もする超高級ブドウ「ルビーロマン」(JA全農いしかわの公式サイトより)
    ひと房140万円もする超高級ブドウ「ルビーロマン」(JA全農いしかわの公式サイトより)
  • ひと房140万円もする超高級ブドウ「ルビーロマン」(JA全農いしかわの公式サイトより)

韓国農家「日本は先進国だから大目に見てほしい」

   なんと、ひと房で百数十万円、ひと粒で5万円以上もする超高級ブドウがあるのをご存じだろうか。石川県が開発した「ルビーロマン」だ。2021年7月16日、石川県金沢市の金沢中央卸売市場は、「ルビーロマン」をめぐる2つの新記録で沸いた。

   石川県の農協組織「JA全農いしかわ」の公式サイトが、こう伝える。

「本日早朝、令和3年度産ルビーロマンの初競りが行われました。特秀Gクラス900グラムの房が140万円の過去最高値で競り落とされました。青果専門店の株式会社堀他さんが競り落とし、株式会社裕源さんが経営する台湾のスーパーマーケット『裕毛屋』に納入されることになりました。ついにルビーロマンが海外へ! 生産者や関係者機関が一丸となって作り上げた令和3年度産ルビーロマンを今年度もどうぞよろしくお願いいたします!」

   ひと房140万円という史上最高の価格とともに、初めて海外(台湾)に出荷されることになったわけだ。ルビーロマンは鮮やかな赤色で、まるで宝石のような輝き。ひと粒の大きさはピンポン玉ほど、巨峰の2倍にもなる。ひと房に25粒ついていたとすると、ひと粒なんと5万6000円。驚きの値段だ。

   その喜びから2週間後、驚愕のニュースが伝わってきた。初めて海外(台湾)にお披露目したばかりのルビーロマンが、なんと堂々と韓国の百貨店で売られているというのだ。韓国の経済紙が「ソウルの百貨店で日本の超高級ブドウ『ルビーロマン』の予約販売を始めた」と報じたのだ。

   しかも、韓国で栽培もされているという。いったい、どういうわけか。フジテレビ取材班がさっそく現地に飛んだ。

   FNNプライムオンライン(8月9日付)「【独自】今度は140万円の高級ブドウ『ルビーロマン』が標的に... また韓国にパクられた日本ブランド」が、こう伝える。

「限定販売されるという百貨店に私たち取材班は向かった。一番目立つ場所に『ルビーロマン』と書かれた桐の箱に入れられたブドウがある。店員に話を聞くと、販売開始2日間で入荷した数は計15房。いずれも完売した。1房当たり8万ウォン(約7700円)と高額だが、買い手はいるようだ。
取材班はルビーロマンを栽培している農家の話を聞くため、大田(テジョン)市からクルマで1時間ほどの果樹園にいた生産者を直撃すると、こう語ったのだった。
『(ルビーロマンの苗を)手順を踏んで手に入れたものではない。とてもいいものだと思ったから栽培している。シャインマスカットなどの問題で、日本が品種問題を敏感にとらえていることはわかっているので取材には応じられない。日本側から見れば、盗み出したと考えるだろう。日本の農業は韓国の先を行っている。先進国の立場で大目に見て欲しい』」

と、開き直ったのだ。

韓国で品種登録を怠ったツケが「パクリ」生産に

   ここで、シャインマスカットも含めて、日本産の高級果物が韓国や中国などに盛んに流出している問題の背景を、ざっとおさらいをしておこう。

   そもそもブドウなどの農産物の海外での品種登録は、国内での登録から6年以内に行うよう「植物の新品種保護に関する国際条約」(UPOV=ユポフ)に定められている。期間を過ぎてしまえば、海外での品種登録ができなくなり、勝手に栽培されても使用料を受け取ることができない。

   日本の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が30年かけて開発した超高級ブドウ「シャインマスカット」の流出が典型例だ。当初、農研機構では開発を優先させるあまり、期間内に海外での登録を行わなかったために、種苗が流出、韓国や中国で無断栽培されて、どんどん第三国に輸出されるようになった。

   現在、韓国産シャマインマスカットの輸出額は日本の5倍超に膨らみ、中国国内の中国産シャマインマスカットの栽培面積は日本の40倍超の及ぶありさまだ(日本経済新聞8月15日付)。

   こうした「流出」は、シャマインマスカットだけでなく、高級柑橘類「デコポン」、高級イチゴ「あきひめ」「レッドパール」など30数種に及ぶ。背景には、日本側の「登録ミス」という事情もあるが、日本の生産者が韓国の生産者に委託栽培を行っているうちに、種苗が契約者以外に無断で販売されたり、日本の生産者への見学ツアーの最中に持ち去られたりするなど、「種苗の流出」も非常に多い。

   そこで、日本政府は2021年4月、国内で新品種として登録された果物などの種や苗を海外に無断で持ち出すことを禁止する「改正種苗法」を施行したのだった。

   シャマインマスカットと違ってルビーロマンの開発はもっと最近だ。韓国での栽培は、この改正種苗法違反になる可能性がある。そこで、フジテレビ取材班は、韓国で苗木を販売している業者を直撃した。FNNプライムオンラインがこう続ける。

「(業者は)『俺には関係ない。悪いのは中国だ』。直撃取材に対しても、海外で品種登録をしていないほうが悪いと繰り返し強調し、開発者の苦労に対する敬意や後ろめたさは一切見せなかった。さらに業者は続ける。『中国市場に行ってみればびっくりするだろう。全世界の品種がある。品種戦争は中国を通じて成り立っている』。自らの無断栽培を棚に上げて、『苗木を日本から持ってきたわけではない。すべて中国から輸入している。文句を言うなら中国に言え』と、強調した」

と「悪いのは中国だ」と、ここでも開き直ったのだった。

農水省「裁判で勝訴しても韓国農家に賠償能力がない」

   フジテレビの報道に衝撃を受けたのは、石川県と石川県の生産者農家たちだった。日本農業新聞(8月19日付)「『ルビーロマン』韓国ですでに商標登録 種苗流出に警戒感 石川県」が、こう伝える。

「石川県は、県産高級ブドウ『ルビーロマン』の名称が2年前から昨年にかけ、韓国で何者かに商標登録されていたことを明らかにした。対抗措置となる同国での品種登録も期限切れで申請できず、『打つ手なし』の状態。県は海外での種苗流出や類似品の流通をより強く警戒し、今春施行の改正種苗法も盾に、監視の目を光らせる。
県によると、『ルビーロマン』の商標登録は、韓国で2019年に英語、20年に片仮名とハングル文字で行われていた。『商標権者は韓国の個人とみられるが、正確には不明』(県ブランド戦略推進室)としている」

   ただし、ここでもシャマインマスカットと同様に、日本側の「登録ミス」が響いた。日本農業新聞が続ける。

「ルビーロマンは今年4月施行の改正種苗法を受け、海外への持ち出し制限品種にもなっている。それ以前から、県は独自に苗の譲渡や売買を禁じ、県外や海外への流出防止に対処してきた。ただ、『当初は海外で通用するかどうかも分からず』(県担当者)、自国以外の商標登録はしてこなかった。対抗措置となる海外での品種登録は、国際条約『UPOV』(ユポフ)の規定で期限が切れ、申請できない。県はもともと韓国や中国は輸出先に想定していないとし、今後、台湾や香港、シンガポールなどで『対応策を進めていく』(同)としている」

   日本で登録したのは2007年だが、当初、海外で通用するかどうかわからないとして、ルビーロマンの海外での登録を怠ってから14年以上すぎているため、今さら韓国で登録できないのだった。その間、種苗がどういうルートか不明だが、韓国側に入ってしまい、「打つ手ナシ」が現実なのだ。

図:「日本で開発された優良品種の海外流出」(農林水産省公式サイト「国内育成品種の海外流出状況について」より)
図:「日本で開発された優良品種の海外流出」(農林水産省公式サイト「国内育成品種の海外流出状況について」より)

   農林水産省の公式サイトに掲載されている「国内育成品種の海外への流出状況について」=上図参照=を見ると、「韓国における近年の流出の状況」の中でこう書かれている。

「韓国内では日本で開発された多くの果樹品種が販売されている。一部のブランド化している品種を除き、韓国内では品種名で販売されることが少ない。日本で育成された品種かどうかは判別困難なものが多い」

   そして、このようにあきらめの口調で結んでいる。

「韓国内で農業者相手に裁判して勝訴したとしても、農家の賠償支払い能力は低く、実利を得ることは困難である。韓国に種苗が持ち込まれる前に日本国内で対策を行うことが効果的である」

韓国紙「開発は日本だが、輸出の利益は韓国に」

日本が開発した韓国産ジャマインスカットの東南アジアでの人気ぶりを報じる中央日報(2021年5月28日付)
日本が開発した韓国産ジャマインスカットの東南アジアでの人気ぶりを報じる中央日報(2021年5月28日付)

   一方、韓国紙では「対日本の果物戦争」に関しては勝利宣言の論調が目立つ。たとえば、中央日報(2021年5月28日付)「日本が開発したが...韓国産シャインマスカットが中国・ベトナムで人気」が、こう報じている。

「韓国産シャインマスカットが中国やベトナムで人気だ。韓国の農林畜産食品部(編集部注・日本の農林水産省にあたる)は5月27日、昨年のブドウ輸出額が3100万ドル(34億1000万円)で過去最高になったと伝えた。2016年の輸出額は500万ドル(5億5000万円)だったが、4年間で輸出額が6倍に増えた。農食品部の関係者は「全体のブドウ輸出額の88.7%がシャインマスカットだが、ベトナムと中国で爆発的な人気となっている」
「シャインマスカットは日本の農研機構が30年間かけて品種を開発した後、2006年に日本で品種登録した。農研機構は国内での販売だけを考えて海外輸出を念頭に置かず、韓国で品種登録をしなかった。そのため、韓国の農家は日本にロイヤルティーを支払わずシャインマスカットを栽培できることになった」

   そのうえで、「韓国は独自の技術で工夫を重ねた」と、中央日報は誇らしげに続けるのだ。

韓国産ジャマインスカットの栽培教育も盛んだ(中央日報5月28日付)
韓国産ジャマインスカットの栽培教育も盛んだ(中央日報5月28日付)
「さらに韓国のブドウ長期保存技術が加わった。韓国はブドウの長期保存技術を開発し、ブドウの供給が減る時期にも流通させることに成功、これまでより高い価格で売れることになった。一般のブドウは保管期間が通常1か月だが、シャインマスカットは通常3か月まで保管できる。農業技術院が開発した保存技術は、坑菌機能がある亜硫酸ガスを発生させる鮮度維持剤を入れ、ラップで包装した後0度近くで保存して水分の蒸発を防ぎ、新鮮度を維持する。
農食品部のノ・スヒョン食品産業政策官は『2016年には500万ドルだったブドウ輸出が、昨年6倍に増えた背景には、長期保存技術の開発のほか、品質管理、マーケティングがある。今後も韓国産シャインマスカットの輸出拡大のため支援策を発掘する計画』と明らかにした」

   日韓の「高級フルーツ戦争」は日本側の完敗に近い状況が続きそうだ。

(福田和郎)