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世界にはコロナをチャンスに変えた新ビジネスが続々と登場している!

   アフターコロナと言っても、日本は元に戻るだけではないか、と思っている人も多いだろう。一時話題になったテレワークでさえ下火になってきた。

   しかし、世界では、コロナをきっかけにさまざまな新しいサービスや商品が登場している。本書「アフターコロナのニュービジネス大全」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、世界15か国の先進事例約200を紹介、「なるほど」と思うアイデアに満ちている。

「アフターコロナのニュービジネス大全」(原田曜平・小祝誉士夫著)ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • コロナ禍で変異株の恐怖は続いているが……(画像はイメージ)
    コロナ禍で変異株の恐怖は続いているが……(画像はイメージ)
  • コロナ禍で変異株の恐怖は続いているが……(画像はイメージ)

オフィスワークのVR化

   著者の原田曜平さんは、マーケティングアナリスト、信州大学特任教授。小祝誉士夫さんは、株式会社TNC代表取締役社長、プロデューサー。同社が昨年3月から12月までにリサーチしたアフターコロナを見据えた事例を7つの分野、69の視点に分類して紹介している。

   たとえば、「Beyond DISTANCE 距離を超える」のパートでは、オフィスワークのVR(バーチャルリアリティー)化を取り上げている。「Meeting VR」は、仮想空間内で同僚と共同作業を行えるデンマーク発のプラットフォームだ。VRヘッドセットを装着して仮想のオフィスに"出社"し、自身を模したデジタルアバター(分身)を通じて、打ち合わせや会議などを行う。

   日本でもNTTデータが社員一人ひとりの顔写真を合成したアバターを用い、仮想空間を自由に動き回るオフィスワークを可能にするVRシステムを開発中だという。

   自分の顔を露出するZoomでのオンライン会議に負担を感じている人が多いので、こうしたシステムを使えば、よりリラックスして利用でき、オンラインワークが普及すると見ている。

   このジャンルでは、米国の大学生限定のマッチングサービス「OKZOOMER」や英国発の恋活アプリ「Hinge」のような「新出会い系サービス」、家族が故人の特設ページを作り、友人や親族がログインして、メッセージや写真を投稿する「バーチャル冠婚葬祭」の「ETERNIFY」(スペインの無料アプリ)、スマホでバーチャル名所めぐりをする英国やタイのサービスを紹介している。

アフターコロナの消費は3パターン

   他のジャンルとしては、「新しい購買体験」を提供する、「非接触サービス」「無人宅配」「バーチャル内見」や「新しい娯楽のあり方」を提供する、「Zoom演劇」「おうちイベント」、「贅沢の概念が変わる」ものとして、「コース料理デリバリー」「車中ディナー」「貸切宿泊」などを挙げている。

   これらのサービスやソフトに共通しているのは、楽しむことを優先して、コロナ禍というピンチをチャンスに変える発想だという。それに対して、日本はピンチを「我慢」してやり過ごそうとしている、と指摘する。

   そして、日本は周回遅れだが、手遅れではないとも。その突破口となるのが、「海外」と「若者」だという。「海外」もアメリカ以外に北欧や中国、タイなどに参考事例が多い、としている。

   海外の事例を紹介した後、エピローグでは、アフターコロナの企業やビジネスは3通りに分かれると予測している。

   その一つは、コロナ前と同じ商売をそのまま復活させて、「待ってました」とばかりに人が群がり以前の元気を取り戻すケース。予約が取りにくかった老舗飲食店、人気の高かったテーマパークなどだ。

   もう一つが、コロナ禍で生まれた商品やサービスが、そのままスタンダードとなり、売れ続けるケース。例として「色が落ちない口紅」、「Eコマース」、近所着として使う「ワンマイルウェア」を挙げている。

   最後のパターンが、消費が戻っても復活できず、そのまま消えていってしまうビジネスだ。著者は、このケースが非常に多くなると見ている。これまでと全く違うイレギュラーな生活の中で、消費者心理が以前と大きく変わったからだ。

   例として、「贅沢」の概念が変わったことを挙げている。今までは、とにかく高価で、きらびやかで、特別な「商品」を購入したり、「サービス」を受けたりすることが、多くの人にとって「贅沢」なことだった。

「消費者」動向を甘くみていると思わぬしっぺ返しを食う

   しかし、コロナ禍になり、大切な家族や友人と過ごしたり、何かを一緒に作ったり育てたりする「時間」こそが贅沢であり、さらに「自分のためにカスタマイズされた商品やサービス」こそがプレミアムな価値であると考えるようになった。

   消費者の変化を知らず、「どうせ元に戻るだろう」と甘く考えていると、思わぬしっぺ返しを食うだろう、と書いている。

   豊富な事例をよく集めたものだ、と感心した。小祝さんが経営するTNCでは、海外70カ国100地域に長期滞在する600人の日本人女性をリサーチャーとして契約。そのネットワークを駆使して集めたものだという。

   事例もアメリカ以外に、中国、デンマークなどに面白いものが多いように感じた。恐竜のジオラマを展示した自然史博物館に宿泊する中国のツアーなど、夜間アクティビティが、地元住民の集客に一役買っているという事例が興味深かった。従来、売り上げがなかった夜間という時間帯を収益化する有効な施策だ。

   何よりも、日本人が「巣ごもり」と称して「我慢」している間に、世界は新しいアイデアで乗り切ろうとしていることがわかり、勇気を得た。

(渡辺淳悦)

「アフターコロナのニュービジネス大全」
原田曜平・小祝誉士夫著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
1870円(税込)