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35歳、突然1億円を手にしたら、あなたはどう運用しますか? 【その3】 その価格は正当か(小田切尚登)

   明治大学の経営大学院で金融論の講座を担当している。

   今まで主に銀行員などの金融のプロあるいはプロ志望の人に向けて授業をしてきたが、2021年の春学期は金融関係の仕事に従事している学生が少数だったこともあり、内容を大幅に変更して個人の資産運用についての時間を増やすことにした。

   その講義で最初に出した課題は、次のようなものであった。

「35歳のあなたは1億円を突然手にした。あなたは安定した職についているので、家賃も含めてそれを使う必要はなく、他に財産も借金もないとする。この1億円について先を見据えた運用をしていきたい。どのような資産に投資するか内訳を答えなさい」
  • 4万円近くあった株価がバブル崩壊後は7000円に落ちた(写真はイメージ)
    4万円近くあった株価がバブル崩壊後は7000円に落ちた(写真はイメージ)
  • 4万円近くあった株価がバブル崩壊後は7000円に落ちた(写真はイメージ)

株価は上がることもあれば下がることもある

   注意すべき点がある。株価は上がることもあれば下がることもある、ということだ。仮に株価が長期的には上昇をするとしても、その間には下がっていく期間もある。日本の株式相場の場合は、30年以上前のバブル期のピーク時に日経平均株価が4万円近くをつけたのがピークで、その後は停滞を続けている。

   そうすると「株式相場というのは一たん落ち始めると、どんどん下がっていくことがある。投資するにはリスクが大きすぎる」と考える人が出るだろう。その心配は当然であるが、そのために株式を敬遠していたら投資の成功など望めない。

日経平均株価の変遷のグラフ
日経平均株価の変遷のグラフ

   日本の株式市場の動きを振り返ると、日経平均株価が史上最高値をつけたのが1989年12月29日の3万8915円であった。当時はバブルの狂乱がピークにあった。その後、急降下が始まり、2009年3月10日に7054円にまで下がった。そのあとは反転がスタートして、このところ2万7000円から3万円あたりにある。過去の栄光は何処に、という状況だ。

   しかし、我々が今から投資することを考える時に30年以上前の株価を心配する必要はない。過去は終わった話である。家やマンションを購入する時に「30年前にこの家はいくらだったのだろう?」などと心配しても意味がない。今の価格が正当なものかどうか、我々にとっては、それがすべてである。

   しかも1989年当時の株価はバブルの狂乱のピークにあった時の話であったことに、注意が必要だ。日経平均株価が4万円近くにあった時間は、今から思えばほんの一瞬に過ぎなかった。それがいかに特異な動きであったか。

   当時は不動産市場では「日本の不動産価値の合計は米国の不動産価値の合計を上回る」などというバカな状況(苦笑)にあった。その時の株式市場あるいは不動産市場は実態経済の裏付けのないカジノのようなものであった。我々としてはそういう市場にカネを突っ込むことのないように気を付けさえすれば良い。

やっぱり投資はバランス配分がいいのか?

   日本や米国などの上場株の取引市場は、世界で最も懐の大きい金融市場の一つであり、一般人が参入しやすく、かつ公正で透明性がある。我々が企業の株主となるというのは資本家になるということだ。

   我々が出資したカネに基づいて従業員たちが一生懸命働いてくれて、それを還元してくれる。もちろん会社の経営がうまくいくかどうかはやってみなければわからないが、市場全体を見れば、そして長い目で見れば儲けを生んでくれることが十分期待できる。

   株式投資とは経済活動そのものにカネを出すことであり、最も大きなリターン(収益)はそこに存在している。それを避けていては、大きく資産を増やすことは難しい。それを如何にリスクを抑えつつ投資していけるかがカギとなる。

   債券(国債や社債など)や預金はリスクを抑えた投資であるが、その分リターンも少な目になる。そういう投資も必要であることは間違いなく、我々としてはそれらの異なる特徴を持つ金融商品を、どのようなバランスで配分すべきではないのかという話となる。

   それは次回以降に。(小田切尚登)

(つづく)