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コロナ禍で胃がんや大腸がんの早期発見に遅れ? 患者の自主的な「受診抑制」が原因か(鷲尾香一)

   新型コロナウイルスの感染拡大で、患者による病院への自主的な受診抑制が行われたことで、早期胃がんと早期大腸がんの発見が遅れていることが横浜市立大学の研究グループによる調査で明らかになった。

   横浜市大の研究グループは2021年9月22日、消化器がんの新規診断に関して新型コロナウイルスが流行する前と流行期での変化を調べた結果、胃がん、大腸がん、特に早期胃がんと早期大腸がんの診断数が減少し、大腸がんに関しては進行したステージ1で発見される例が増加したという。

  • 患者が自主的に受信を抑えることで病院経営が悪化している?(写真はイメージ)
    患者が自主的に受信を抑えることで病院経営が悪化している?(写真はイメージ)
  • 患者が自主的に受信を抑えることで病院経営が悪化している?(写真はイメージ)

コロナ禍で外来患者は減っている

   横浜市大の研究グループの研究結果は、9月22日に米国医学会雑誌「JAMA Network Open」に掲載された。

   日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会が共同で行っている「新型コロナウイルス感染拡大による病院の経営状況」によると、有効回答数があった756病院で、コロナ禍の状況下、外来患者の平均人数が減少している。

   2019年度と2020年度の外来患者平均人数を比較すると、ほぼすべての月で前年度比を下回っている。特に、20年4月は前年同月比19.2%減、同5月は25.9%減と、外来患者は大きく減少した=表1参照

   こうした状況は、入院患者数にも見て取れる。2020年度の入院患者延数は年度を通じて19年度を下回り、年度平均で8.9%減少した。前年同月比では、20年4月11.2%、5月16.0%、6月12.0%、21年2月が12.0%と2ケタ減少となっている=表2参照

   横浜市大の研究グループは、同大附属病院と国立病院機構横浜医療センターの2病院で2017年から20年までの4年間で新たに消化器がん(食道がん、胃がん、大腸がん、膵がん、肝臓がん、胆道がん)と診断された全患者5167人の診断時のがんの進行度であるステージを調べた。

   すると、2020年3月以降を新型コロナウイルスの流行期として流行前の期間と比較したところ新規がんの診断数が胃がんでは26.9%、大腸がんでは13.5%減少していた。

   さらに、ステージ別に比較すると、胃がんのステージ1は35.5%、ステージ2は18.8%、ステージ3は29.1%、大腸がんのステージ0は32.9%、ステージ1は34.0%、ステージ2は35.3%の発見数の減少(発見の遅れ)が認められた。

   半面、その他の膵臓がん、食道がん、肝臓がん、胆道がんに関しては発見数に顕著な減少は見られなかった。また、再診患者では新型コロナウイルスの流行前後で減少は認められなかった。

コロナ禍「医療崩壊」の陰で起こっていること......

   この調査結果について、横浜市大の研究グループは、「初診者数は有意に減少しており、受診制限は行われなかったものの、無症状・軽症状の患者が受診を控えた結果初診者数が減少したと考えられる」としたうえで、「胃がんや大腸がんは早期では症状が出ないことがほとんどであり、自粛による受診控えにより早期胃がん、早期大腸がんの診断数が減少した可能性がある。さらに、患者数の多い大腸がんに関しては大腸カメラの施行時期の遅れにより進行したステージで発見される例が増加した可能性もある」と分析している。

   そのうえで、

「がんの発生率は新型コロナウイルス流行前後でも大きな変化はないと考えられるが、診断数が減少していることより、今後も進行がんで発見されるケースが増える可能性があるため、適切なタイミングでの病院受診、胃カメラ検査、大腸カメラ検査などの検診を延期しないで、がんの早期発見の重要性を呼びかけることも大切」

としている。

   コロナ禍の感染拡大による病院を巡る環境は、大きく変化している。新型コロナウイルスの感染患者を受け入れる病床数の不足から医療崩壊が叫ばれる一方で、患者による自主的な受診抑制の影響で患者数が減少し、病院経営が悪化している。

   8月26日には、大阪で新型コロナウイルス感染患者を受け入れている医療法人「友愛会 松本病院」が大阪地裁へ民事再生法の適用を申請。事実上、倒産した。

   新型コロナウイルスの感染拡大の状況にあっても、体調不良などの症状がある場合には、受診抑制をすることなく、病院での診察・検査を受けることをオススメする。(鷲尾香一)