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ホンダが宇宙事業ぶち上げ! 激しさ増すEVシフトの波、大変革期の参入に勝算はあるのか?

   ホンダが宇宙事業に参入する。

   小型の人工衛星を載せるロケットの開発を目指すほか、月面で作業するロボットなども検討していくという。新たなことに挑戦し続ける創業者、本田宗一郎氏からの「DNA」を発揮できるのか。

  • ホンダが宇宙事業に参入!(写真はイメージ)
    ホンダが宇宙事業に参入!(写真はイメージ)
  • ホンダが宇宙事業に参入!(写真はイメージ)

目指すは小型ロケットに空飛ぶクルマ!

   ホンダは2021年4月、三部敏宏社長が就任会見で小型ロケットを開発したいと表明しており、これを具体化して9月30日に発表した。2020年代のうちの打ち上げを目指すという。

   実際にどんなロケットで何を運ぶのか――。「小型衛星」「小型ロケット」に国際的に厳密な定義はないが、一般に日本では重さ100キログラム以下の人工衛星を「超小型衛星」、100キロ~1000キロ(1トン)を小型衛星といい、ロケットは比較的低い軌道に2000キロ(2トン)までの重量を運ぶことができるものを小型ロケットという。

   ホンダは、合計で1トンまでの衛星を軌道に運ぶ小型ロケットを想定している。まず高度100キロメートル程度の地球を周回しない『準軌道』に打ち上げ、徐々に距離を伸ばしていく方針という。自動車や小型ジェットのエンジンの開発で培ってきたノウハウを生かし、既存のロケットエンジンより燃焼効率を高めたいとしている。

   また、月面での居住空間づくりにも参画し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、生活に必要な水や酸素のシステム開発を進める。二足歩行ロボット「アシモ」の技術などを活用し、遠隔操作ロボットの実用化にも取り組み、地球にいながら月面での作業ができるようにする構想を描く。

   宇宙関連のほか、航空旅客サービスを薄める方針も打ち出した。都市の中心部にヘリポートのような離着陸ターミナルを設け、電動垂直離着陸機(eVTOL=空飛ぶクルマ)で都市間を結ぶイメージで、ビジネス客や物流での利用を見込んでいる。eVTOLはガスタービンのエンジンと電動モーターを併用するハイブリッド式にして、一般的なヘリコプターより速い、時速250キロメートル以上を目指すほか、航続距離で400キロメートル程度を実現。中長距離の高速移動を可能にしたい考えだ。

   機体の開発では「ホンダジェット」での型式認定の取得経験や設計のノウハウを生かし、自動運転車の制御技術なども応用していくことになる。

   モノづくりとしての機体開発だけでなく、システムやサービスにも手を広げ、自動車などの地上の移動と組み合わせたハード・ソフトが融合した総合的な事業展開を目指すというのも、今回打ち出した航空旅客事業の大きな特徴だ。

激化する宇宙開発競争、日米中に参入企業続々......

   全体に、創業以来のベンチャー精神に富んだ意欲的な挑戦という印象だが、世界ではすでに激しい競争が繰り広げられている。

   中国や米国が国を挙げた産業振興に取り組んでおり、民間の参入も活発で、事業のスピードや投資規模は年々加速度的に膨らんでいる。米電気自動車メーカー・テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏率いるスペースXは中型ロケット「ファルコン 9」(一度に運ぶ衛星などは計10トン程度)を使い、多数の小型衛星を一度に打ち上げるなどライバルは100社を超えるといわれる。

   国内では、三菱重工業が大型の「H2A」を運用しているほか、小型ロケットに「スペースワン」や「インターステラテクノロジーズ」という複数のベンチャー企業が事業化をねらい、後者は観測ロケットの打ち上げを成功させている。

   競争は激しく、ロケット1基の開発には数百億円かかり、量産にも1基当たり100億~200億円が必要といわれるように、費用がかさむ。競争力のある他のロケットと戦うとすれば、特色のあるコア技術が必要だ。

「ホンダがホンダであるため」の宇宙事業

   ホンダの技術がどのようなものか、まだベールに包まれた部分が多いが、今回の事業についての発表では「ロケットの一部を着陸させ、再使用することも想定」と打ち出したのが目立った。

   ファルコン9が1段ブースターの回収・再利用などでコストを抑えていることが念頭になるとみられ、このあたりが競争力に大きく関わってきそうだ。

   ロケット以外の空飛ぶクルマについても、米ボーイング、米配車大手ウーバー・テクノロジーズ、日本のANAホールディングスなどが参入して、異業種間で激しい開発競争を展開しており、儲かる事業にしていくのは簡単ではない。

   そもそも、本業の自動車産業は「CASE」と呼ばれる大変革期を迎え、電気自動車(EV)シフト、自動運転、つながるクルマ化など技術開発競争はアップルといった異業種の参入も含め、激しさを増す。ホンダ自身も2040年にガソリン車の販売をやめ、新車をEV、燃料電池車(FCV)に絞る方針を打ち出しており、そのための巨額の開発投資、設備投資が必要で、宇宙などへの投資余力がどこまであるか、いぶかる向きもある。

   それでもチャレンジに踏み出す決断をした。三部社長は4月に就任した際の会見で、「ホンダは、独創性でありたい、というこだわりの強い人材が集まっている会社だ。人の描く夢を大切にし、大きな目標に向かってチャレンジし続ける。その中で、常に本質と独創性にこだわり続ける会社でありたい」と述べた。ホンダがホンダであるために、「宇宙」も必要な選択ということだ。(ジャーナリスト 済田経夫)