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男性の育休「促進の予定なし」と経営幹部の半数が回答 「取得するなら退職しろ」とは酷すぎる!

   「子育ての支援が大切なことはわかるが、正直、休まれると困る」

   男性の育休をめぐり、2022年4月からは対象社員に取得を勧めるよう企業側の義務が強化されるというのに、経営幹部の4人に1人がイヤな顔をしていることがわかった。 大手ハウスメーカーの積水ハウスが2021年9月15日に「男性育休白書 2021」を発表。育休の取得に賛成しないトップが多いことが浮き彫りになった。

   また、男性の育休制度を「今後促進する予定はない」と答えた経営層も半数にのぼり、「代替要員が確保できない」を理由に挙げる経営層が多かった。

  • 育休をとって子どもと遊ぼう
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「男性育休」どころか「男性産休」も始まるのに...

   男性の育休取得はまだ12.7%(厚生労働省の2020年度調査)にとどまる。対象者の8人に1人の割合だ。来年4月からは、企業は妻の出産や妊娠を届け出た社員に育休を取る意思があるかどうか直接確認する義務を負う。怠ったら労働局の指導の対象となり、悪質な場合は企業名を公表される。

   この従来の男性育休とは別に、来年10月からは妻の出産直後から休みをとって育児に向き合う「男性産休制度」も始まる。企業側も真剣に男性社員の「育休」と「産休」に取り組まなければならなくなるわけだ。

   ところが、積水ハウスの「男性育休白書2021」によると、男性の育休取得をめぐっては社員と経営層の意識のギャップが大きい。

   調査で、「もし子どもが授かったら育休を取りたいか」と聞くと、20代男性の85.0%が育休取得を望んだ。しかし、経営者・役員(68.0%)や部長クラス(76.5%)の取得意向は低く、特に経営者・役員の3割は「取得したくない」(32.0%)と答えた。

   ただ、部長クラスでも、女性部長に限ると取得の意向は85.0%と高くなる。

   社員と経営層の意識のギャップは、職場が取得しやすい雰囲気かどうかでもみられる。勤め先の企業は男性の育休取得を促進しているかと聞くと、3割が「促進している」(29.3%)、7割が「促進していない」(70.7%)となった。

   経営者・役員(36.0%)や部長クラス(48.0%)は「促進している」と答える割合が高くなっているが、働く一般層では25.8%と低く、74.2%が「促進していない」と感じているのだ。

   つまり、マネジメント層は男性の育休取得を推進しているつもりでも、取得したい当事者は自分の会社で取れるとは感じていないわけだ。

   さらに、マネジメント層の半数が、男性の育休取得の促進策を考えていないこともあきらかになった。経営者や役員、部長クラスに男性の育休取得制度の今後の予定について聞くと、「促進予定があり、現在具体的に検討中」が27.3%、「促進予定はあるが具体的な検討はしていない」が25.0%となり、半数ちかく(47.7%)が「予定はない」と答えた。

   しかし、ここでも女性部長は非常に熱心で、半数が「具体的に検討中」(48.0%)と答えている。これは、男性部長(20.0%)の2倍以上である=下図参照。

図:育休促進に熱心でない経営幹部層(積水ハウス「男性育休白書2021」より)
図:育休促進に熱心でない経営幹部層(積水ハウス「男性育休白書2021」より)

「経営陣のホンネは取得するなら退職しろ」

   さて、男性社員から「今、育休を取得したい」と申し出があった場合、経営層のホンネはどうだろうか。「対応できるか」と聞くと、76.3%が「できる」と答えたが、4人に1人(24.7%)が「対応できない」と答えている。その「取得させられない」理由はこうだ。従業員の人数別にみると――。

◆従業員が30人未満。

「従業員が30人未満で、職種的に無理だから。この職業を選ぶなら、覚悟を決めてからやってほしい。自分もそうしてきたので」(経営者、男性)
「人手不足で代わりの人員を用意することができない。育休中だけ他の人を雇うことも実際のところ難しい」(経営者、男性)
「前例がない」(役員、女性)

◆従業員300人未満。

「法制度化されても現状では不可。中小企業ではその意があっても、人の穴を埋めることができなければ対応は難しいです」(経営者、男性)
「経営者が反対しているので」(役員、男性)
「男性に育休をとらせるよりも時短勤務や残業なしで帰ってもらったほうが助かる。会社には『休業制度』があるので(妻が産後ウツなど家庭に支障が出ている場合など)取りたい人は取ればよいと思う」(部長クラス、女性)
「現時点で、産休・育休取得で女性部下が2人同時に1年以上不在。その間の人の補充がされず、自身一人にシワ寄せが来ており、激務で体調を崩している。男性にまで育児休業をされては、残されている者だけが損をする環境。これは組織としての意識改革が必要」(部長クラス、女性)

◆従業員1000人未満。

「前例がない。周囲からの反感が予想される」(役員、女性)
「育児休業などは、仕事の妨げになるのでいらない」(部長クラス、男性)
「経営陣の考え。取得するなら退職しろとなる」(部長クラス、男性)

◆従業員1000人以上。

「自分一人では決定できる権限がない」(役員、女性)
「不平不満が出る。会社を休むと生産性が落ちる。会社がつぶれる」(部長クラス、男性)
「その人しかできないことがある(部長クラス、男性)

   かなり、規模の大きな企業でも意識改革が進んでいないことがわかる。

「男性の育休には直属の上司によるサポートが必要」と語る治部れんげさん
「男性の育休には直属の上司によるサポートが必要」と語る治部れんげさん

   この調査を監修した男女共同参画問題に詳しいジャーナリストの治部れんげ(じぶ・れんげ)さんは、こうコメントしている。

「経営者や管理職の方には、特にこの『男性育休白書2021』をよくご覧いただき、若い世代が望む働き方、ライフスタイルを理解していただきたいと思います。男性育休を通じて彼らのワークライフ・バランスを支援することは、優秀な人材の獲得や定着、彼らにやる気を持って働き続けてもらうために、とても大切なことです。
なかでも特に重要なのは、直属の上司によるサポートです。男性の部下から『今度、子どもが生まれます』『妻が妊娠しました』と聞いたら、『おめでとう』の次に『あなたはいつからいつまで育休を取るの?』と聞いてあげてください。男性育休を『当たり前』と捉える上司や先輩の態度は、若い世代の男性が安心して制度を利用することにつながります。復帰後は職場を信頼して力を発揮してくれるでしょう」

   なお調査は、2021年6月11日~6月21日に、全国47都道府県の小学生以下の子どもがいる20代~50代の男女9400人に聞いた。

(福田和郎)