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「脱原発」衆院選の争点に! 押し込む野党、岸田政権で後退? する「再エネ」推進

   岸田文雄政権でエネルギー政策の「原発回帰」色が強まるとの見方が広がっている。

   総選挙に向けた政策では、さっそく原発の新増設やリプレース(建て替え)を示唆する内容を盛り込んでいる。

   この1年で脱炭素へと大きく舵を切った菅義偉前政権の流れを、新政権はどう引き継ぎ、あるいは転換するのか。脱原発を打ち出す野党との間で、総選挙の大きな争点の一つになるのは確実だ。

  • 海から見た福島第一原子力発電所
    海から見た福島第一原子力発電所
  • 海から見た福島第一原子力発電所

菅政権の「脱炭素」で「再エネ」最優先を掲げたはずが......

   岸田政権を見る前に、菅政権のエネルギー政策を振り返ると、じつは経済優先、原発推進という本来的な自民党の政策から微妙にそれていた。就任早々、2050年の「カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)」を打ち出し、 2021年4月には、ゼロまでの中間目標として「2030年度までに13年度比46%削減」とする新たな目標を決定した。

   その裏付けとなる国の「エネルギー基本計画(エネ基)」は21年が3年に1度の改定年にあたり、7月に菅政権が決定した案(10月中に正式決定)は、総発電量に占める各電源の割合を示す「電源構成」について、再生可能エネルギーを「最優先」と明記し、30年度の再生エネ比率を36~38%と現行計画より14ポイント高くした一方、原子力は20~22%に据え置き、「新増設」の記載もなかった。

   エネルギー基本計画の前段で、6月18日、成長戦略の原発の記述から「最大限活用」という文言削除するとともに、同日決めた「骨太の方針」に、初めて「再生可能エネルギー最優先」と記述している。

   原発推進派が求めていた原発回帰論を退けた形だ。この間の経緯はさまざまに報じられ、たとえば菅首相退任表明前の8月20日付の毎日新聞朝刊1、3面の「再考 エネルギー(上)」によれば、菅首相が後ろ盾になり、河野太郎行革担当相、小泉進次郎環境相(いずれも当時)がタッグを組んだ成果という。

   総裁選では、その河野氏が当面の原発再稼働は容認しつつ、新増設は「現実的ではない」とし、「新増設がなくなれば、原子力は順次減っていく」「緩やかに原子力から離脱していくことになる」と述べ、さらに核燃料サイクルの見直しも明言。一方、岸田氏は「核燃料サイクルは維持しなければならないと思っている」と断言。30年度に温室効果ガス46%減」に関し、「原発30基を稼働することを前提とした数字だ」などと述べた。

   原発への政策が、自民党内で、河野氏の「危うさ」への懸念を広げ、敗因の一つともいわれる。

岸田政権の顔ぶれは「原発推進」色が鮮明

   さて、岸田政権は、「原子力ムラ」とつながるキーマンが要職に就くなど、顔触れからして「原発推進」の色彩が鮮明だ。

   電力業界などが最も歓迎し、期待するのが甘利明・自民党幹事長だ。麻生派ながら総裁選で岸田氏を全面支援し、安倍晋三元首相とも近く、安倍氏、麻生太郎副総裁、甘利氏と合わせて「3A」として、菅政権時代から「陰の実力者」の呼び声高かったが、幹事長就任で「事実上の『甘利内閣』」ともささやかれる。政策的には商工族の中心メンバーで、「原子力ムラのドン」の一人。実際に、原発のリプレースや新増設を訴える自民党の議員連盟でも最高顧問に就いている。

   「甘利氏の一番弟子」(大手電力)とも言われ、総裁選で岸田氏の推薦人にもなった山際大志郎経済再生担当相は原発推進の急先鋒で知られ、国会では「原発を使い倒さなければ、カーボンニュートラルはできない」(21年2月、衆院予算委)などと述べている。

   総裁選で、菅政権がまとめた件のエネルギー基本計画を見直すと訴えた高市早苗氏は政調会長に就任した。政策立案を仕切る責任者だ。

   さらに、政治家ではないが、元経済産業事務次官の嶋田隆氏が首相政務秘書官に起用されたのは、驚きをもって受け止められた。政務秘書官は、各省から派遣される事務秘書官とは別格で、小泉純一郎政権の飯島勲氏のようにもともと、首相に仕えてきた秘書がなる例も多いが、「安倍1強」を首相の政務秘書官などとして支えた今井尚哉氏が経産官僚出身だったのに続く就任。ただし、事務方トップの事務次官まで務めた後の就任は極めて異例だ。ちなみに、嶋田氏と今井氏は経産省1982年入省の同期という関係でもあり、今井氏が推薦したとの見方もある。

   嶋田氏は11年の東京電力福島第1原発事故を受けて設立された東京電力再建を主導する原子力損害賠償・廃炉等支援機構の事務局長や東電の取締役などを歴任し、東電国有化、分社化など改革を推進し、東電内の守旧派と激しく対立してきたとされる。むろん、バリバリの原発推進派だ。

「無色透明」な岸田首相が「原発推進」に染まった?

   エネルギー政策について、岸田首相自身は「無色透明」ながら、原発推進派の面々を周囲に配置した形だ。その「成果」は総選挙へ向け公約に、すでに表れている。高市政調会長が中心になって取りまとめたもので、「政策BANK」(細かい政策まで網羅)には、公約の2本目の柱である「『新しい資本主義』で分厚い中間層を再構築する。『全世代の安心感』が日本の活力に」の第2項目「カーボンニュートラル・エネルギー」の中で、「可能な限り原発依存度を低減します」など従来からの言い回しを維持しつつ、「国民からの信頼、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していきます」と明記した。

   安倍晋三政権下の前回(2017年)総選挙の「政策BANK」は「立地自治体等関係者の理解と協力を得つつ、原発の再稼働を進めます」として、前々回(2014年)と同様、「再稼働どまり」だった。

   今回の「政策BANK」は、「新増設」や「リプレース」という単語こそないが、原発の寿命が来て廃炉になれば、代わりを作っていくと示唆する書きぶりになった。

   萩生田光一経産相は就任会見で、原発再稼働進める方針を示す一方、新増設やリプレースについては「現時点で想定していないという政府方針に変更はない」と慎重な言い回しに終始したが、こうした政府方針と自民党の公約の関係も問われることになる。

   総選挙に向け、立憲民主党は原発に依存しない脱炭素社会実現に向け、原発の新増設を認めないことなどを柱とする公約を打ち出し、共産党も「原発の再稼働を中止し、すべての原発で廃炉のプロセスに入る」などと公約している。

   原発推進の岸田政権・与党と野党の激しい論戦が展開されることになる。(ジャーナリスト 岸井雄作)