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「原油価格高騰に大ピンチ!」のはずの日本航空とANAが涼しい顔なのはなぜ? 意外なワケを担当者に聞いた

   レギュラーガソリンがついに1リットル当たり平均167円! 原油価格の高騰が止まらない。

   運輸・物量業界への悪影響が心配だ。こんな時、一番被害を受けるのは燃油を大量に消費する航空業界だろう。

   ところが、国内航空大手2社の日本航空(JAL)とANA(全日本空輸)はともに、比較的涼しい顔をしている。いったいなぜだ。担当者を取材すると、意外な理由が......。

  • 貨物需要の好調で、フル稼働しているANAの巨大貨物機ボーイング777F(ANA公式サイトより)
    貨物需要の好調で、フル稼働しているANAの巨大貨物機ボーイング777F(ANA公式サイトより)
  • 貨物需要の好調で、フル稼働しているANAの巨大貨物機ボーイング777F(ANA公式サイトより)

ANAの担当者「貨物輸送が好調なので大丈夫」

   航空機の国際線には、燃油の価格が上昇すると、その分の負担を利用客が支払う燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)がある。現在のペースで燃油高騰が続けば、燃油サーチャージも連れて、今後さらに上がる可能性が高い。当然、旅費にハネ返るので乗客は減るし、航空会社にとっては痛手になるはずだ、と思うのが当然だが......。

   燃油サーチャージは、直近2か月の燃油市況の平均値と為替のマトリクス(編集部注:円とドルのレート表)に基づいて、2か月ごとに見直される。たとえば、ANA(全日空)の場合は、現在の今年(2021年)10月1日~来年(22年)1月31日までの燃油サーチャージは、一番安いルート(日本から韓国・ロシアのウラジオストク)で600円(以下、いずれも税込み)、一番高いルート(日本から欧州・北米など)で1万1600円となっている。

   通常の航空運賃にこの分が加算されるわけだ。その前の6月1日~9月30日までは400円~7700円、さらにその前の昨年(2020年)6月1日から今年5月31日までは「適用なし(ゼロ円)」だったから、原油価格の高騰傾向に合わせて上昇してきたことがわかる。

   来年の2月1日~3月31日までの燃油サーチャージは、12月中旬に直近の今年10月~11月の燃油市況を見て決まるわけだが、今後、さらに上がるのだろうか。上がれば、せっかくコロナ禍が収まりかけているのに、海外旅行がしにくくなるが......。

飛行機の旅を楽しみたいな(写真はイメージ)
飛行機の旅を楽しみたいな(写真はイメージ)

   J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は、ANA(全日空)とJAL(日本航空)の担当者に取材した。

――このままのペースで原油価格(燃油価格)が上がっていくと、燃油サーチャージは上がりそうですか。

全日空担当者「何とも言えません。燃油サーチャージは12月中旬に10月と11月の燃油市況の平均値で決まります。11月の価格がどうなるのか、今のようなペースで上がり続けるかどうかわかりません。ただ、旅客の燃油サーチャージが上がっても影響が出ないよう対応ができています」

――どういうことですか。

全日空担当者「(世界的にコロナ禍が収まり、景気が回復してきたために)じつは今、国際線は貨物輸送がかなり好調です。全体的に足元で貨物需要を取り戻しつつあり、貨物の総量が増えています。しかも、コンテナ不足のために海上輸送が滞っていますから、現在、11機ある貨物機がフル稼働の状態です。10月中旬には成田 ― 香港路線に100トンを積める大型貨物機ボーイング777Fを投入したばかりです。往きは電子部品や生鮮品、帰りはパソコンやスマートフォン、玩具などを運びました。
それだけでは足りず、プロペラ機も含めて247機ある旅客専用機の一部を貨物機に振り分けています。旅客機も往きはお客様を運び、帰りは貨物を運ぶなど、片道運行をしている機もあります。国際線では貨物機にも燃油サーチャージがかかります。旅客機の燃油サーチャージでお客様が減った分を貨物機の燃油サーチャージで補うことができますから、プラスマイナスゼロといった感じでしょうか」

JALの担当者「燃油価格にヘッジをかけています」

燃油高騰対策もバッチリのJALの旅客機(JALの公式サイトより)
燃油高騰対策もバッチリのJALの旅客機(JALの公式サイトより)

――なるほど。しかし、燃油サーチャージがない国内線はどうですか。燃油高騰の打撃をもろに受けるのではないですか。

全日空担当者「それはありません。国内線の燃料コストついては、赤字が起こらないように、あらかじめ燃油価格にヘッジをかけています(編集部注:燃料価格の変動リスクを分散回避するため、先物買いなどのヘッジ取引を行うこと)。
今年度(2021年度)分についてはヘッジを完了しており、燃油価格上昇の影響はありません。来年度(2022年度)については、影響があったとしても限定的だとみています」

――どうも、原油(燃油)価格の高騰に関して、あまり心配していないようですね。

全日空担当者「対策ができているということです」

   日本航空の担当者にも同じ質問をした。

――このままのペースで燃油価格が上がっていくと、燃油サーチャージは上がりそうですか。

日本航空担当者「燃油サーチャージは階段と同じで、直近の2か月の燃油の市況価格と、為替マトリクスで機械的に決まってしまいます。今の段階では申し上げにくい。ただ、市況については注視しています。為替マトリクスが円安に振れているのが気になります」

――コロナ禍が収まり、海外旅行を楽しみたいというお客にとって運賃が上がるのは打撃ではないでしょうか。

日本航空担当者「国際線の旅行については、お客様の抵抗がまだ残っている気がします。国内旅行はこれから楽しみたいというお客様が多いでしょうが、国内線の燃料コストについては、あらかじめ燃油価格のヘッジ戦略をとっていますから、あまり影響はないと考えています」

と、こちらもしっかり対策をとっているとのことだった。

   コロナ禍の自粛生活が終わり、これから旅行へ行こうという人が少なくないだろう。そんな人は、胸をなで下ろしてよさそうだ。

(福田和郎)