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コロナ禍の鉄道運転事故 乗客の死亡事故は「ゼロ」! 一方で増える輸送トラブル(鷲尾香一)

   鉄道の運転事故が過去30年間で最少となり、乗客の死亡事故はゼロだった。ただ、そこには新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあった。

   国土交通省が2021年10月22日に発表した「鉄軌道輸送の安全に関わる情報」によると、2020年度の鉄道の運転事故の件数は前年度から132件減少の483件、死傷者数は同196人減少の416人、うち死亡者数は同17人減少の237人となった=表1参照

   ただ、今年8月の小田急線に続き、10月31日のハロウィンの日に京王線の車内で男性を刃物で刺し、振り回したうえ放火する事件が起こるなど、悪質極まりない事件が相次いでいるのは残念、かつ心配だ。

  • 線路内立ち入りなどの輸送トラブルが増えている(写真はイメージ)
    線路内立ち入りなどの輸送トラブルが増えている(写真はイメージ)
  • 線路内立ち入りなどの輸送トラブルが増えている(写真はイメージ)

鉄道運転事故、過去30年間で最少

過去10年間の鉄道運転事故の推移)(筆者作成)
過去10年間の鉄道運転事故の推移)(筆者作成)

   鉄道の運転事故とは、列車事故、踏切障害事故、道路障害事故、人身障害事故、物損事故の合計。内訳別では、列車衝突事故や列車脱線事故、列車火災事故である、2020年度の「列車事故」は前年度から6件減少し9 件、死傷者数は同85人減少して6人、うち死者数は同2人減少し「ゼロ」だった。

   踏切障害に伴う列車事故および踏切障害事故である「踏切事故」は同46件減少の165件、死傷者数は同99人減少して117人 、うち死者数は同10人減少の74人だった。

   踏切道以外の道路で、列車または車両が道路を通行する人、車両等と衝突、接触した事故(列車事故を除く)である「道路障害事故」は同13件減少して25件、死傷者数は同9人減少の8 人、うち死者数は横バイの1人だった。

   列車または車両の運転により、人の死傷を生じた事故(列車事故、踏切障害事故および道路障害事故に伴うものを除く)である「人身障害事故」は前年度比68件減少し283件、死傷者数は84人減少し285人、うち死傷者数は同7人減少し162 人だった。

   列車または車両の運転により500万円以上の物損を生じた事故(列車事故、踏切障害事故、道路障害事故および人身障害事故に伴うものを除く)である「物損事故」は2件減少し1件だった。

   鉄道の運転事故の58.6%を占める「人身障害事故」のうち、「ホームから転落して接触」および「ホーム上で接触」の人身障害事故は前年度比63件(39.4%)減少の97件と大幅に減少した=表2参照

   これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う利用者数の減少も影響していると考えられる。

線路内立ち入り、コロナ禍の影響関係なく増える

   一方、2020年度の線路内立入りなどでの接触による人身障害事故は、前年度から2件増加し182件だった。線路内への立ち入りについては、新型コロナウイルス感染症による利用者数の減少とは関連性が少ないという結果となった。

   運転事故の34.2%に当たる「踏切事故」では、歩行者によるものが80件(48.5%)と最多で、次いで自転車の62件(37.6%)、軽自動車17件(10.3%)、二輪6件(3.6%)となっている。

   最後に、輸送障害(列車の運休、旅客列車の30分以上の遅延等)の件数は、運転事故が長期的に減少傾向をたどっているのに反して、長期的に増加傾向にある。2020年度は前年同期比550件増加し、6216 件となった。

   鉄道係員、車両または鉄道施設などの部内原因に起因する輸送障害(全体の22.5%を占める)は同38件減少し1396件だった。また、線路内立入りなどの部外原因による輸送障害(全体の48.4%を占める)は、同322件増加して3009件となった。

   風水害、雪害、地震などの災害原因による輸送障害(全体の29.1%を占める)は、同266件増加し1811件だった。

   このように鉄道の運転事故は、新型コロナウイルスの感染拡大による利用者数の減少を受け、大幅に減少した。しかし、輸送障害はコロナ禍との関連性は乏しく、利用者が減少しても、障害件数は増加の一途を辿っている。

   ここ数年、首都圏などでは各線の乗り入れが増えたことで遠距離を走る列車が増えたことや、鉄道ファンが走る列車の撮影をめぐって列車の走行を止めたり、遅らせたりする輸送トラブルもみられる。

   鉄道は交通の要であり、その安全性を維持する必要がある。今後も、運転事故が減少するとともに、輸送障害も減少に転じていくことが重要となってくる。(鷲尾香一)