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広がる「ブックカフェ」ブーム 生き残りへ入場料を求める書店も登場

   コーヒーを片手に読書ができる「ブックカフェ」が広がり、入場料制を導入する書店も登場――。

   本を売るだけではない、新しい書店がここ数年、続々とオープンして人気を集めている。従来の書店のイメージを覆す取り組みの裏には、インターネット時代の苦悩と期待が含まれている。

  • 「ブックカフェ」が増えている(写真はイメージ)
    「ブックカフェ」が増えている(写真はイメージ)
  • 「ブックカフェ」が増えている(写真はイメージ)

飲み物無料、軽食提供...... 何時間でも過ごせる

   東京都心の主要繁華街の一つ、港区六本木にある書店「文喫(ぶんきつ)」は平日の昼間でも多くの客でにぎわっている。20~30代の若者を中心に、本を読んだり、パソコンを持ち込んで資料を探しながら仕事をしたり......と、思い思いの過ごし方をしている。

   文喫の最大の特色は、前例のない入場料制を導入していること。平日なら1500円、土日曜や祝日なら1800円(いずれも税抜き)で、お客にとって負担はそれほど軽くない。だが、入場料さえ払えば飲み物を無料で楽しめるほか、軽食を提供するコーナーもあって、何時間でも過ごせる。

   店内にある約3万冊の本は読み放題で、気に入ればもちろん購入もできる。2018年末のオープンからずっと盛況で、来店者が多すぎて入店を制限することもあるという。

   少し前から目立ち始めたカフェを併設する書店は全国に拡大している。その先頭を走るのは「蔦屋(つたや)書店」だ。東京都渋谷区の「代官山 蔦屋書店」はスターバックスコーヒーと提携して洗練された雰囲気を醸し出し、ビジネスマンや女性、若い世代まで幅広い客を呼び込んでいる。

   この店は2021年12月、シェアオフィスの機能を備えた「シェアラウンジ」も新たにオープンした。コロナ禍で広がったテレワークなど、新しい環境に応じた取り組みだ。利用料金は当日受付の通常プランで60分1500円(税別)など。運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は今後、首都圏で100か所に増やし、全国でも展開する方針という。

書店経営に一石を投じた「入場料制」

   こうした多様な店作りが広がっている背景にあるのは、言うまでもなく、紙の本離れと書店離れだ。ネットでの情報収集が当たり前になり、電子書籍の拡大に加え、紙の本もアマゾンなどのネット通販が広がり、書店で本を買う人が減っているのだ。ネット通販はわざわざ書店に行って本を探すより、手軽で素早く本を入手できる。

   出版取次最大手、日本出版販売(日販)によれば、2020年度の書店経由の出版物の販売額は全体の6割を割り込んでいるのに対し、ネット経由の販売額は2割に迫る勢いだ。販売ルートは他に出版社の直販などがあるが、ネット経由だけが急速に伸び、その分、書店ルートは細る一方だ。

   このため全国で書店の倒産や廃業など減少が続き、調査会社アルメディアによれば、2020年の書店数は約1万1000店で、2万店を超えていた20年前から半減している。

   こうした環境下で、なんとか書店の魅力を高め、お客に足を運んでもらおうというのが新しい店作りの目的だ。冒頭の文喫を運営しているのは日販グループだが、書籍を卸す会社として書店の苦境を無視できず、書店のあり方に一石を投じるとともに、本を売るだけではなく、入場料をとるという新しい利益構造を作ることで、書店の運営を見直そうという狙いもある。

   ネット通販の猛攻に書店は有効な対抗手段がないのが実情だ。だが、苦境に直面する中で始めたさまざまな取り組みが、新たな書店の未来を生む可能性もある。(ジャーナリスト 白井俊郎)