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コロナ禍で前倒し発売も「絶好調」の「キリン一番搾り 糖質ゼロ」 その強さの秘密を聞いた

   キリンビールの「キリン一番搾り 糖質ゼロ」が今年9月に、発売1年を待たずに販売累計本数2億本を突破した。国内で初めてビールカテゴリーで「糖質ゼロ」を実現。同社の過去10年におけるビールの新商品で、最速のスピードで達成した。

   コロナ禍のビール業界は、外出自粛や飲食店の休業要請で業務用ビールが振るわなかった一方で、巣ごもり需要の後押しで家庭用の売れ行きは好調だった。そんな中での「2億本」突破は、来る2022年に向けて明るい兆しになった。

   「キリン一番搾り 糖質ゼロ」大ヒットの要因を、キリンビール株式会社のマーケティング部ビール類カテゴリー戦略担当、今北方央 (いまきた・みちお)さんに聞いた。

  • コロナ禍の影響で「家飲み」需要が増えた
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発売開始に向けて開発スピードに拍車が掛かった

――「一番搾り 糖質ゼロ」が2020年10月6日の発売から1年を待たずに販売累計2億本を突破しました。飲食店などの業務用ビールの販売が難しいため、ローンチを早めようとしたことなど、商品開発やマーケティング戦略、流通におけるコロナ禍の影響を教えてください。

今北方央さん「コロナによるお客様の健康意識の高まりで、予定していた2020年10月発売に向けて開発スピードに拍車がかかりました。もともとは酒税改正によるビール減税で、ビールの価格が下がることを見込んで、このタイミングでのローンチを目指して開発を進めていました。ただ、麦芽使用比率の高いビールカテゴリーで糖質をゼロにすることは非常に困難で、商品開発が間に合わないという可能性も十分にありました。
そんな中、コロナ禍でお客様の健康意識の高まりが加速したことにより、『おいしいビールが飲みたい。だけど健康にも気遣いたい』というお客様のニーズが濃いものになりました。新型コロナウイルスが流行し始めた20年1~3月頃は、まだビールで糖質ゼロ技術を確立できていない状況でしたが、お客様のニーズにお応えするため『何が何でも商品化させよう』と関係部門が一丸となって、開発に拍車が掛かりました。開発を進める上では、リモートワークという慣れない環境ではありましたが、開発チームの強い志があって見事にビールで糖質ゼロを達成できました。10月に発売するためには、5月には発売の意思決定をする必要がありましたが、実際ビールで糖質ゼロを達成できたのは5月末のことで、本当にギリギリの開発でした」

――コロナ禍で健康志向の高まり、ひいては糖質への関心が強まったことが追い風になりました。「糖質オフ・ゼロ」、かつ「ビール」を求める人たちの支持を得ることができました。

今北さん「2020年8月に実施した調査では、『外出自粛中に体重が増えることに不安が増した』と回答した人は、50.8%と5割をを超えました。外出自粛中に体重が増えた、または外出自粛を経て体重が増える不安が増した人の約半数(46.1%)は、『糖質オフ・ゼロのお酒』の選択経験があります。このような健康志向の高まりによる糖質への関心増を背景に、糖質オフ・ゼロ系のビール類は順調に拡大をしており、しかし一方で『(既存の)糖質オフ・ゼロ系ビール類の味に満足できない』という人の割合も半数を超え(50.9%)、そのような人たちに、おいしさが高く評価される『一番搾り 糖質ゼロ』が支持されているといえます」

「一番搾り」ブランドへの安心感

――当初からビールユーザーをターゲットにしていました。大ヒットとなった要因は、そこにあるのでしょうか?

今北さん「おいしさがビールユーザーに評価されたことはあります。ただ、これまで糖質オフ・ゼロ系のビール類を飲んでいなかったお客様の支持を、予想を大きく超えて獲得することができました。『一番搾り 糖質ゼロ』の購入者のうち、約7割がふだん糖質オフ・ゼロ系ビール類以外を飲む方からの流入で、やはり『ビールカテゴリー』であること、かつ『一番搾りブランド』であることが理由だと考えています。
また、性別の人数構成比、販売容量構成比を見ると、どちらも男性・女性の割合が半々であることが特徴的です。ビールであれば男性の方が多くなり、糖質オフ・ゼロ系商品だと女性の方が多くなる傾向にあるのですが、この商品はほぼ均等で、男女問わず受け入れられています」

――「2億本」の到達は、キリンビールの過去10年におけるビールの新商品で最速とのことですが、その要因をどのように見ていますか。

今北さん「次の3点によるものと捉えています。一つは『一番搾り』ブランドのおいしさへの納得です。商品購入者のうち、5割以上が『一番搾りブランドだから』、約4割が『一番搾り製法だから』を飲用理由に挙げており、『一番搾り』ブランドだからこそのおいしさに納得されて選ばれています。
次に、商品購入者のうち、約7割がふだん糖質オフ・ゼロ系ビール類以外を飲む方からの流入でした。ビールの糖質は気になるが、糖質オフ・ゼロ系のビール類にはおいしさの面で不満を抱えていたお客様の『糖質ゼロビール』への潜在需要を、おいしさという価値によって顕在化することができました。
そして三つ目が、外部環境の変化を捉えた提案です。コロナ禍による健康志向の高まりで、糖質を気にする方が増えており、糖質オフ・ゼロ系ビール類は好調に推移しています。また酒税改正によってビールカテゴリーが減税され、お客様のビールカテゴリーに対する関心が高まっています。当社は、お客様のニーズを捉えた施策を展開し、環境変化に適切に対応することで、販売増を実現しています」

ビールのおいしさを構成する「糖質」をゼロにする!?

――新しい技術を用いています。「新・糖質カット製法」と「一番搾り製法」で実現した「糖質ゼロ」の開発のポイントと腐心した点を教えてください。

今北さん「そもそもビールは麦芽の使用比率が高い分、糖質を限りなくゼロにするというのは、技術的にも簡単なことではありません。糖質自体はビールのおいしさにつながるものなのです。ビールのおいしさを構成する要素の一つである糖質をゼロにしながら、おいしさも実現させることは本当に難しかったです。
また、糖質ゼロのビールを開発するだけでなく、さらにビールならではのおいしさも追求しました。『一番搾り製法』の採用もそのこだわりの一つです。麦汁のろ過工程において、一番搾り麦汁だけを使うことで、『一番搾り』ブランドに共通する純粋さを追求した飲みやすい味わいに仕上げることができました。糖質ゼロのビールというかつてない製品を、ビールならではのおいしさには決して妥協せずつくり上げた、キリンビールのこれまでの技術の集大成が『一番搾り 糖質ゼロ』なのです」

――『一番搾り 糖質ゼロ』について、お客様からの声を教えてください。

今北さん「『ふつうのビールと変わらないおいしさ』『糖質ゼロはあまりおいしくないと思っていたが、おいしくてびっくりした』といった『一番搾り』『ビール』としてのおいしさを感じていただいている声を多数頂戴しています。
キリンの代表的な銘柄である『一番搾り』シリーズであることに安心を感じるとともに、ビール初の糖質ゼロでありながら、ビール本来の苦みや味わいを感じることができることを、評価していただいているのだと思います」

プロフィール
今北方央 (いまきた・みちお)
キリンビール株式会社 マーケティング本部
マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当

2009年にキリンビール入社、 マーケティング部に配属。4年間、ビールやRTD(Ready To Drink。「開けてすぐに飲める」飲料のこと)に関するデザイン開発経験を積み、その後、新商品開発担当、RTDカテゴリー戦略担当を経て 2018 年に現職。「キリン一番搾り 糖質ゼロ」を主担当。