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この10年で「働き方改革」はここまで進んだ! トヨタ、博報堂、清水建設、野村不動産、大和証券、三菱地所...社員の生の声は?

   「ブラック企業」という言葉が流行語大賞トップテンに選ばれたのが2013年。それから10年近くが経過したが、日本の働き方はどう変わったのだろうか。

   就職・転職のジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するOpenWork 働きがい研究所が、会員ユーザーの口コミ投稿から調査した「10年間で日本の働き方はどう変わったのか」に関する結果を、2021年12月16日に発表した。

   残業時間と有休消化率に絞った調査だが、日本を代表する企業の社員の生々しい口コミから見える「働き方改革」の進み具合は――。

  • 残業が終わらないと嘆く若手写真。こんな光景もこの10年で減った(写真はイメージ)
    残業が終わらないと嘆く若手写真。こんな光景もこの10年で減った(写真はイメージ)
  • 残業が終わらないと嘆く若手写真。こんな光景もこの10年で減った(写真はイメージ)

なんと残業時間は半減! 有給取得率も5割アップ!

   OpenWorkは、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイト。会員数は約400万人(2021年1月時点)という。

   今回の調査では、OpenWorkに投稿された社員による残業時間と有休消化率のデータを集計し、2012年から2021年までの10年間の働き方の変化をまとめた。

   それによると、10年間で月間平均残業時間は46時間から22時間も減少し、24時間に。有休消化率は平均41%から19%向上し、60%に上昇した。

年代別:月間平均残業時間の推移(OpenWork 働きがい研究所の作成)
グラフ1 年代別:月間平均残業時間の推移(OpenWork 働きがい研究所の作成)
年代別:有給消化率の推移(OpenWork 働きがい研究所の作成)
グラフ2 年代別:有給消化率の推移(OpenWork 働きがい研究所の作成)

   10年前には各年代で最も残業時間が長く、平均48.5時間だった20代は、2021年では最も少ない23.5時間に半減している=グラフ1参照。有休消化率も20代での向上が著しく、2021年では各年代で最も高い63.3%になった。これは40~50代より7ポイントも高い=グラフ2参照

   なぜ、これほどまでに若い世代が「働き方改革」の恩恵を得ているのか。この10年を振り返ると、2010年代に入ってから過労による痛ましいニュースが相次ぎ、「過労死」(KAROSHI)は英語になった。また、「ブラック企業」という言葉が流行語になるなど、労働環境や働き方への意識が大きく変わったことが背景にありそうだ。

   さらに、2015年から「一億総活躍社会」に実現に向けたチャレンジの一つである、働き方改革が始まった。2018年に関連法が成立し、2019年から法改正によって、長時間労働の是正や有休休暇の取得などが企業に義務付けられた。残業の抑制や有給取得が管理職に強く求められるようになり、これまでとくに過重労働を強いられてきた若い層に、会社の目配りが利くようになってきたのだ。

   業界別に、残業時間の変化を見ていこう。すると、10年間で大きく残業時間が減少したのは「建築、土木、設備工事」「コンサルティング、シンクタンク」「放送、出版、新聞、映像、音響」「広告代理店、宣伝、販売促進、デザイン」「不動産関連、住宅」の業界だ。いずれも10年前は月60時間以上の平均残業時間だったのに、10年で30時間以上も減少した。半分以上、減ったことになる。

   ちなみに、直近の2021年で残業時間が最も少なかったのは、「ファッション、アパレル、繊維」の月13.5時間で、続いて「旅行、ホテル、旅館、レジャー」の16.1時間、「小売」(百貨店・専門店・量販店・コンビニエンス・ストア)の17.5時間となっている。これはコロナ禍による、営業の自粛などが影響したとみられる。

「もう理不尽な残業の指示はない」

   それぞれの業界を代表する企業の現役社員の生の声も見てみよう――。

この10年で働き方は変化。若い層へは会社の目配りが利くように(写真はイメージ)
この10年で働き方は変化。若い層へは会社の目配りが利くように(写真はイメージ)
(1)建築、土木、設備工事業界
清水建設「働き方改革に熱心に取り組んでおり、5年前と比べて風土も変わった。しかし、他産業と比べると残業時間は長く、特に現場ではその傾向が顕著。業界全体で働き手の確保や契約内容の改善を進めているが、さらなる推進が求められる」(文系、女性)
(2)コンサルティング、シンクタンク業界
アビームコンサルティング「働き方改革の影響を受けて、非常に働きやすくなったことはとてもよいと感じている。以前は深夜残業が当たり前で、残っている人ほど頑張っていて偉いといった雰囲気があり、とても強く不満だった。しかし今は、会社を上げて効率的に仕事をして、なるべく残業せずに早く帰るように促す施策が実施されており、深夜残業については大幅に解消されている」(P&T=コンサルタント、男性)
(3)広告代理店、宣伝、販売促進、デザイン業界
博報堂「私が入社した10年前は、いわゆる激務が常態化していたが、昨今の働き方改革によって会社全体としては大きく改善し、ワーク・ライフ・バランスも取りやすくなった。しかし、一部のチームでは、まだまだ昔のような状態が続いている。これは、得意先のスタンスにもよるためで、現場努力だけでは完全な解決は難しいと思われる」(営業、男性)
(4)不動産関連、住宅業界
野村不動産「ここ数年でかなりの変化があり、残業時間管理が年々厳しくなっている。業務効率化の意識は上がってきており、理不尽な残業を強いられるようなことはない。あとは本人次第だ」(本社スタッフ、男性)
(5)旅行、ホテル、旅館、レジャー業界
エイチ・アイ・エス「昔は残業ありきの体制で、それによる退職者が多かったですが、ここ最近はだいぶ変わってきました。世の中の風潮もありますが、『残業は悪』という意識が社内全体に広がり、あまり残業をしていると会社からもチェックされます。また、周りからも『効率の悪い人』というイメージになるため、残業自体しづらい雰囲気になっています。一部の部署ではフレックス勤務も実施されており、必要業務時間が日ごとでなく、月間で管理できればよいため、忙しい日は残業しても他の日は午後早めに退社といった調整ができ、プライベートを充実させることができます」(総合職、女性)

「組合のプレッシャーで全員が年間20日の有休」

   さて、有休消化率の推移はどうだろうか。

   10年間で有休消化率が大きく上がった業界は「証券会社、投資ファンド、投資関連」「建築、土木、設備工事」「不動産関連、住宅」「小売」(百貨店・専門店・量販店・コンビニエンス・ストア)で、10年前は2割~3割程度の有休消化率だったのに対し、大きくポイントを上げた。

   2021年で有休消化率が高かった業界は「通信、プロバイダー、データセンター」「コールセンター、業務請負」「自動車、自動車部品、輸送機器」で、いずれも7割を超えている。特に「通信」と「自動車」はもともと10年前から6割以上の消化率を達成しており、さらにポイントを上げている。

   それぞれの業界を代表する企業の現役社員の生の声を見ると――。

しっかり「育休」をとるイクメン社員が増えた(写真はイメージ)
しっかり「育休」をとるイクメン社員が増えた(写真はイメージ)
(1)証券会社、投資ファンド、投資関連業界
大和証券「年休は本当に取りやすい。最低限取得する日数については上司から促され、取ることができる。曜日も自由である。また、通常の有休に加え、夏季休暇や、子供のイベント(運動会など)があったときに別で取れる休暇、親の長寿祝い休暇などもある。休んだ分がんばろう!という社風である。体調を崩し何日か休んだこともあるが、柔軟に対応してもらえた」(営業、女性)
(2)建築、土木、設備工事業界
鹿島建設「1年以内に義務付けられている有給5日取得については、ほぼ強制的に実施される。加えて、記念日休暇やほかの独自の休暇についても、必ず取得させるよう強い指示が管理部門から現場の幹部クラスにきているようで、上司指示で無理やり休暇を取得する場面もある。全体的に休暇を取りやすい環境である」(施工管理、男性)
(3)不動産関連、住宅業界
三菱地所「休暇取得の推奨は、実際に必達目標を各人に課し、定期的に人事部から取得状況が部署長に送られ、未取得の社員に対し部署長からも働きかけをするよう強く求められる。残業についても単に時間短縮を社員に迫るのではなく、生産性を高めるための効率化 提案等積極的に受け入れ、よいものは採用・即実践している」(開発、男性)
(4)小売(百貨店・専門店・コンビニエンス・ストア・量販店)業界
ファミリーマート「最近力を入れて取り組んでおり、以前に比べて休みを取得しやすい環境が整いつつある。有給休暇を使い切るまではいかないが、部署ごとに取得率を公表することで、進捗の悪い部署が『見える化』され、急激に改善されてきた」(営業、男性)
(5)自動車、自動車部品、輸送機器業界
トヨタ自動車「業務負荷はそれなりに高いが、年休は取りやすい。自分の担当業務次第で、仕事の負荷が高い時期と低い時期がだいたい予想がつくため、それ以外の時期であればプライベートを優先させることも可能だ。特に年休は、労働組合からのプレッシャーがあり、ほぼ全員が年間20日は取得している」(営業部門、女性)

   こう見ていくと、10年前と比べて、日本の働き方はいい方向へと進んでいるといえそうだ。もっとも、ここ数年はコロナ禍のなか、リモートワークなどの新しい働き方も出てきた。2022年およびその先に向けて、アフターコロナにおける働き方はどう変化するのだろうか。

   なお、調査は、OpenWorkに2012年1月~2021年11月の期間、回答時に現職の社員による投稿をもとにした。残業時間は34万2737件、有休消化率は34万6506件を対象データとした。

(福田和郎)