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これはただの円安ではない? 2022年は運命の分かれ道!「日本にお金が戻る経路が見当たらない」(志摩力男の展望)

   2021年1月6日、米ジョージア州上院決選投票が行われ、予想外に民主党が2議席を独占。その結果、民主党の上院支配が確定し、上院・下院・大統領も民主党という「トリプルブルー」が実現しました。

   米バイデン政権は思い切った財政支出を行うことが可能となり、米国の長期金利が急騰。米ドル円相場も1月を底値に、12月ほぼ高値近辺で引けようとしています。

   一昨年は、2月終わりに新型コロナウイルスが世界中に感染拡大するリスクが顕在化し、株価は大暴落。外国為替市場も超リスクオフとなりましたが、その後の各国がかつてないレベルの経済対策を行ったことで、株価は反転上昇のバブル的症状を呈するほどとなりました。

   何を言いたいかというと、このところ年初にそれまでの予想をひっくり返さないといけないほどの大きな出来事が起こっており、年初の予想を「絶対」視せず、その時その時の局面に合わせて柔軟に対応することが大切だということです。

  • 2022年の外国為替相場は年初の予想がひっくり返るかもしれない?(写真はイメージ)
    2022年の外国為替相場は年初の予想がひっくり返るかもしれない?(写真はイメージ)
  • 2022年の外国為替相場は年初の予想がひっくり返るかもしれない?(写真はイメージ)

従来型の分析が効かなくなってきたドル円相場

   米ドル円相場の予想は悩ましいものになっています。2021年はドル円弱気の見方が主流でした。なぜならば、コロナ禍の影響で超金融緩和的な米金融政策が続くと考えられたからです。ところが、年初に実現した「トリプルブルー」で民主党・バイデン政権は巨額の財政出動が可能となり、事実かなりのお金をばら撒きました。想定外の米成長、米長期金利上昇に、為替市場もドル高となりました。

   2022年のドル円の発射台は115円近いところから始まります。かなりの円安レベルです。日本銀行が発表している「実質実効為替レート」によると、円のレベルはすでに1970年代の割安さです。

   通常、我々が目にしているドル円レートは110円前後であり、いつ見ても同じように見えます。しかし、他国と物価の伸びがまったく違うので、見た目は同じ110円でも、20年前の110円とはまったく価値が違います。

   仮に米国のインフレ率が平均年2%として、日本がゼロ%だったとします。20年間で2%の20乗は約48%、つまり日本円の価値は約48%下落していることになります。インフレ率の差を補正すると20年前の110円とほぼ同じ価値のドル円レートは75円前後、それだけ円は弱くなっています。

   では、その「適正」なレベルに向けて円は強くなるのでしょうか。現状のファンダメンタルズを考えると、とてもそのようには見えません。

   円が弱くなっているのに、貿易収支は黒字ではありません。生産拠点を海外に移してしまったからですが、円安になっても輸出企業が国内に工場を作ったりして投資する話は聞きません。為替レート以外のさまざまな要因があって国内に投資しないのでしょう。

   ただ、金融収支や所得収支など、ほとんどの国際間の資金の出し入れを網羅している経常収支は、このところ20兆円弱の黒字を続けています。日本人の持つ海外資産は年々増え続けていることになりますが、多くは資金運用による黒字だと考えられます。この資金が日本に戻ることで、円高にはならないのでしょうか?

   それは可能でしょうが、日本は短期も長期も金利がゼロです。株式運用を考えても、日本株より米国株を選択する人が最近は増えているのではないでしょうか。あまり考えたくない大きな天災のような、どうしても必要で資金を日本に戻さざるを得ないとき以外は、投資家は海外での資産運用を優先するでしょう。

   そうなると、いくら割安でも、日本にお金が戻る経路が見当たりません。

2022年の米ドル円は110~120円を予測

   多くの正統派エコノミストは、日本円が極めて割安なこと、経常収支黒字が続いていることから、いつかは円高方向に戻るはずと考えています。よって、2022年の予測も、目先は米国の金利上昇に合わせて、ドル高円安が若干続くかもしれませんが、いずれ割安な円に資金が戻るので、中長期的には円高リスクが上回ると考えている人が多いように見えます。

   問題は、それがいつなのかですが、日本側の理由としては上述した天災のケース以外、あまり想定できません。日本での運用利回りが海外を上回るはっきりとした見通しがあるならば、資金は戻ってくるでしょうが、日本銀行の黒田東彦総裁は「金融緩和を続ける」とはっきり明言していますし、報道によると安倍晋三元首相も、現在の岸田文雄総裁にアベノミクス(=超金融緩和政策)を続けるように要請しています。つまり、日本の超金融緩和政策が変更されることは考え難いということです。

米国はテーパリングを加速させる(写真は、ホワイトハウス)
米国はテーパリングを加速させる(写真は、ホワイトハウス)

   米国は今後、テーパリング(量的緩和の縮小)を加速していきます。そして2022年には3回の利上げが想定されていますが、そうなると、しだいに円安が進む展開をやはり想定せざるを得ません。

   しかしながら、米国側のリスクとしては、株価の動向があります。新型コロナウイルスの発生以降、かつてないレベルの財政出動、金融緩和が行われ、それが株価を大きく押し上げましたが、その要因は今後消えます。

   金融環境は引き締まるので、新興のグロース株には極めてネガティブです。「ビルド・バック・ベター」法案が今後どうなるかわかりませんが、可決されなければ、2022年のGDPを今後0.5%程押し下げると見られています。

   米国株の強さは、米国の財政支出と超金融緩和だけに支えられたものではありませんが、割高であることは事実です。2022年中のどこかで20%程度下落する可能性はどこかであるかもしれません。その時は、「リスクオフ」として、ドル円を押し下げる方向に作用するでしょう。

   ただ問題は、株価が下げ続けるかです。割高な部分は剥落する可能性はありますが、米IT企業の本質的な競争力の強さまで否定されるものではないと思います。下げたところで、何を買うかとなれば、やはり米国のIT企業になってしまうのではないでしょうか。よって、下げても20%程度と思います。

   2022年のドル円相場は、基本的に110~120円、広くて105~125円といったレンジで、メインシナリオとしてはゆっくりと120円方向に行く展開でしょうか。米国株が下落する局面では円高に進むでしょうが、ITバブルやリーマン・ショック時のような大規模な下落は想定していません(そうなれば、シナリオはまったく別になります)。20%程度の下落なら、ドル円は下げて105円程度でしょう。(志摩力男)