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コロナ禍で強者はより強く、弱者はもっと弱く... 強大になりすぎたGAFAはどこへ行く?

   巨大IT企業を表すGAFAという言葉は、日本でもすっかり定着した。グーグル、アマゾン、フェイスブック(現・メタ)、アップルの4社の頭文字を並べたものだ。コロナ禍でますます肥え太った彼らが次にめざすのは何か? 本書「GAFA next stage ガーファネクストステージ」(東洋経済新報社)は、アフターコロナの世界を展望するヒントに満ちている。

「GAFA next stage ガーファネクストステージ」(スコット・ギャラウェイ著、渡会圭子訳)東洋経済新報社

   著者のスコット・ギャラウェイ氏は、ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。連続起業家(※)として9つの会社を起業し、ニューヨーク・タイムズなどの役員も歴任している。前著「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」(東洋経済新報社)は、日本でも15万部のベストセラーになった。
(※)連続企業家:新しい事業を立ち上げて成長させ、売却し、さらに新しい事業を次々に開拓する起業家。シリアルアントレプレナー。

   今回取り上げる本書は、アフターコロナ時代に合わせてアップデートしたものだ。再びGAFAについて考察しているが、巨大テック企業の権力を抑制することを求める厳しい内容になっている。

   本書によると、コロナのパンデミックは変化を加速させ、GAFAはより強大になった、と指摘している。強者はより強くなり、弱者はもっと弱くなり、あるいは死ぬ、とも書いているのだが......。

  • 強大になりすぎた巨大テック企業の権力の行方は…?
    強大になりすぎた巨大テック企業の権力の行方は…?
  • 強大になりすぎた巨大テック企業の権力の行方は…?

アップルの時価総額は3兆ドルを突破

   アップルの時価総額が1兆ドルに達するまで42年かかったが、パンデミックが起きてからわずか20週間(2020年3月から8月)で2兆ドルを突破した――と本書にあったが、2022年1月3日ついに3兆ドル(約345兆円)を突破、と報道されたばかりだ。

   これは日本企業のトップ、トヨタ自動車(約36兆円)の約10倍にあたり、アップル1社で東証1部上場企業の時価総額合計(約730兆円)のほぼ半分に達するというから、すさまじい。

   新型コロナ危機の何よりも意外な現象の1つが、資本市場の回復力だった。アメリカでは1日1000人が新型コロナで死ぬ一方で、株価指数は上がり続けた。しかし、ギャラウェイ教授は、「株価指数だけ見ていると、認識を誤ってしまう可能性がある」と指摘する。

   株価が回復しているように見えるのは、少数のビッグテックやその他の大企業が、莫大な利益をあげているおかげであり、市場では過酷な選抜が始まっている、という(倒産した企業のリストには、ブルックスブラザーズなど、有名企業がずらりと並んでいる)。

   こうした状況下で、投資家たちは「イノベーション」という物語に賭けている――。つまり、先見性があると思われる企業に投資が集中する、ということだ。しかも彼らは、2030年の予想をもとに有望企業をはじき出している。

   一方、滅びる者と栄える者を決める要因は、資本市場の他にもあるという。それは政府への食い込みだ(アメリカの航空業界は、政府から史上最大級の資金援助を受けて、1社も倒産することはない、と予想している)。

   そのため、キャッシュのない企業、財務基盤の弱い企業は犠牲になる。「弱い立場の企業はいち早くかつ大胆にコスト削減をしないと生き残れない」「会社や部門として支出を見直せ。コスト基盤を可能なかぎり引き下げよ、しかも早く」と厳しい言葉が書かれていた。

   また、新型コロナの影響によるさまざまな変化を挙げているが、その中で興味深いのは、ブランドの時代は終わり、プロダクトの時代になった、という指摘だ。広告が力を失うとも。

   では、プロダクトの時代には、どんなビジネスモデルが有効なのだろうか?

プロダクト時代を支配する「青」と「赤」とは?

   プロダクト時代を支配するのは「青」と「赤」のビジネスモデルだ。

   どういうことか。

   1つ目の「青」とは、商品を製造コストより高い値段で売ること。この代表はアップルだ。裏でデータ利用されることが少なく、「青」のビジネスモデルと呼んでいる。2つ目の「赤」とは、商品を無料で配り、あるいは原価以下で売り、他の企業に利用者のデータを有料で提供することだ。グーグルのアンドロイドがこれにあたる、「赤」のビジネスモデルを展開している。

   動画でも「青」と「赤」はある。ネットフリックスは「青」だ。お金を払ってコンテンツを見る。一方、ユーチューブは「赤」だ。無料だが、アルゴリズムによって、少しでも興味を持ったものを押し付けてくる。このような二分化が多くの分野で見られるようになる、と予想している。

   日本の読者にとって意外なのは、ソフトバンクを詳細に取り上げていることだ。1000億ドルのビジョン・ファンドはいくつかの点で破壊的であり、「世界中のビジネススクールで今後何十年にもわたって教えられることになるだろう」と書いている。

   「戦略としての資本」として紹介しているが、距離が近いほどビジネスはうまくいくという原則、連続したラウンドでリード・インベスター(※)を続けないという原則、を無視している、と批判している。2016年以降、ウィーワークの複数ラウンドでリード・インベスターを務めているのはソフトバンクだけだという。「自分が売っている麻薬を吸う」ようなものだとたとえ、「痛みはソフトバンクの従業員にアウトソースされる」と、恐ろしい予言もしている。
(※)スタートアップ企業の資金調達ラウンドで、中心的な役割を担う存在。

   大変革の対象になるのは「大学」だとして、1章割いたこともユニークだ。アメリカの大学の授業料が高いことは知られているが、これまでは学生ローンが支えてきた(ちなみに、平均的な大学生は、卒業時に3万ドル近くの借金を抱えるという)。しかし今後は、リモート授業によって、学生の数を大幅に増やすことができる、と見ている。巨大テック企業が世界的な有名大学と提携して、4年間で得られる学位の80%を従来の半額で提供するようになるだろう、と予想している。

   著者はまた、あまりにも政府は無力になったとして、資本主義にブレーキをかける役割を期待している。それに関連して、巨大テック企業は独占禁止法による分割が必要だ、と明確に提言している。それは「罰」ではなく、「活性化策」であるという主張には、うなずける部分もあるのでは。

   アメリカはなぜ、あれほど新型コロナの死者を出しながら、経済は好調なのか? その疑問に答えてくれるとともに、資本主義のダイナミズムを示唆してくれる一冊である。GAFAの顧客の一人である我々にとっても有益な卓見を開示している。

(渡辺淳悦)

「GAFA next stage ガーファネクストステージ」
スコット・ギャラウェイ著、渡会圭子訳
東洋経済新報社
1980円(税込)