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傾聴力がジビアに問われるオンラインのマネジメント 「反応の意識化」《後編》(前川孝雄)

   リモートワーク下での「支援型マネジメント」の第3のポイントは、「反応の意識化」であることを紹介しました。

   《後編》では、《前編》で示した「傾聴の6つのステップ」の手順に沿って、「反応の意識化」の具体的な内容を押さえていきましょう。

  • 「確認する」「共感する」「理解を示す」……(写真はイメージ)
    「確認する」「共感する」「理解を示す」……(写真はイメージ)
  • 「確認する」「共感する」「理解を示す」……(写真はイメージ)

適度な「頷き」や「相槌」が効果的

【ステップ1】「姿勢」を整える(座り方、姿勢、動き)

   まず、話を聴く準備と心構えができていることを、相手に示します。リアルでの対話では、椅子に姿勢を正しく保ちリラックスして座ります。椅子に浅めに腰かけた、やや前傾姿勢がよいでしょう。

   視線は相手の目のあたりを中心に向けますが、凝視しないように気をつけます。身振り手振りなど上半身の動きは自然に行います。自分と相手の座る位置は、正面から対峙せず、90度の角度か隣に座るのがよいでしょう。

   リモートの場合には、リラックスした表情や笑顔を心がけ、身振り、手振りはやや大きく、また、はっきりとした聴き取りやすい声で、ゆっくりと話すように、態勢を整えましょう。

【ステップ2】「受容」する(頷き、相槌)

   共感的な印象を与えるには、相手の話に合わせた適度な「頷き」や「相槌」が効果的です。首を縦にふり、話の要所要所で「うん、うん」「そうか」などと声を発すると、相手の「受け入れてもらっている感」が増します。相手の話のリズムや内容に応じて、頷き方や相槌の速度や深さにも、変化を付けるとよいでしょう。

   リアルの対話では、頷きや相槌が大げさすぎたり、頻度が多すぎたりすると、わざとらしく見えて逆効果です。ただし、リモートの場合には、ややオーバーアクションぎみにして、相手にしっかりと伝わることが大事です。


【ステップ3】「共感」する(気持ち、感情の汲み取り)

   「そんなふうに思ったんだね」「それはとてもうれしかったね(つらかったね)」など、相手の気持ち、感情を汲み取るのが「共感」です。相手に「気持ちをわかってもらえている感」を与えるのです。

   なお、共感は同調とは異なります。共感が「~と感じたんだね」と相手の気持ちや考えを理解しているのに対し、同調は「そうだね、それが一番いい選択だね」などと相手と同意をすることです。

   上司は、部下に共感はしても必ずしも同意はせず、異なる意見を持っていても構わないのです。この二つを、はっきりと区別して理解しておくことが大切です。

リモートワーク下でこそ、部下の自律性を高める支援が大切

【ステップ4】「確認」する(繰り返し、言い換え)

   次に、相手の話の内容や、気持ち・感情を確認します。その方法として、相手の話のポイントを復唱する「繰り返し」と、相手の言葉を別の表現で確認する「言い換え」が有効です。

   「今回の新しい仕事には、やりがいを感じます」との言葉に、「やりがいを感じてるんだね」と復唱したり、「ただ、いくつかの仕事が重なってくると、どれから手をつけたらいいか悩んでしまうんです」との相談に、「複数の仕事の優先順位づけがうまくいかないんだね」などと言い換える方法です。

   話し相手には、あなたに自分の話や気持ちが伝わったことがわかり、安心と納得が得られます。


【ステップ5】「理解」を示す(要約)

   さらに、相手が伝えたい内容を正しく理解していることを示すために、話の要点を短く伝え返す「要約」を行います。「要点を整理すると、〇〇と○○が課題で、改善のためには○○が必要と考えているんだね」といった具合です。

   要約にあたっては、自分の「思い込みの押しつけ」にならないように気をつけましょう。相手の反応をよく見聴きして、捉え方にズレがあるようなら、どこにズレがあるのかをきちんと聴き直し、再確認していくことが大切です。


【ステップ6】「内省」に導く(質問)

   傾聴の真価は、最後に部下に「質問」を投げかけ本人の内省を促し、深く考えさせることにある、と言っても過言ではありません。上記までのステップで部下の問題意識や悩みを把握したら、それについて「では、なぜそう思う?」「あなたには何ができる?」「どうすればいい?」と問いかけ、本人に考えさせるのです。

   「仕事が進まないのは人のせい」「自分はやらされているだけ」といった「他責」(他人の責任)でとらえている限り、部下は「仕事の主人公」にはなれません。「自分ならこうする」「このやり方で任せてほしい」と「自責」(自分の責任・役割)でとらえられた時に、自ら主体性と働きがいをもって仕事ができます。リモートワーク下でこそ、常に部下の内発的動機づけと自律性を高める支援が大切なのです。


※マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。


プロフィール

前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は「50歳からの逆転キャリア戦略」(PHP研究所)、「『働きがいあふれる』チームのつくり方」(ベストセラーズ)、「コロナ氷河期」(扶桑社)、「50歳からの幸せな独立戦略」(PHP研究所)、「本物の『上司力』」(大和出版)など30冊以上。近刊には、「人を活かす経営の新常識」(FeelWorks、2021年9月)および「50歳からの人生が変わる 痛快! 『学び』戦略」(PHP研究所、2021年11月)がある。