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岸田首相、首都圏に「まん延防止」発令へ 企業の7割は「オミクロン株不安だが、経済規制だけはやめて」

   オミクロン株の感染急拡大にともない、今週中にも、岸田文雄政権が東京都など首都圏にもまん延防止等重点措置を発令する方向で調整が進んでいる。2022年1月17日、複数のメディアが報じた。

   そんななか、企業の間でもオミクロン株に対する「業績悪化」の不安が高まっていることがわかった。帝国データバンクが1月14日、「オミクロン株の感染急拡大、人出の増加に黄信号」というリポートを発表したのだ。

   ただ、企業の間では「経済活動を止めるようなオミクロン株対策」には慎重な意見が多いという。どうなる政府VS経済界? 帝国データバンクの担当者に話を聞いた。

  • 東京都にまん延防止等重点措置が発令されたらどうなる?
    東京都にまん延防止等重点措置が発令されたらどうなる?
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自社の業績に「マイナスの影響がある」、4か月ぶり上昇

   帝国データバンクの調査結果によると、企業の間で「先行きに対する警戒感」がやや高まっている。新型コロナウイルス感染症による自社の業績への影響について聞くと、「プラスの影響がある」(「既にプラスの影響がある」と「今後プラスの影響がある」の合計)は3.7%、「影響はない」は22.5%となった。

   一方で、「マイナスの影響がある」(「すでにマイナスの影響がある」と「今後マイナスの影響がある」の合計)と見込む企業は67.4%に達した。これは前月(2021年11月)より0.8ポイント増えている。

   帝国データバンクでは、新型コロナが日本に入ってきた2020年2月から毎月同様の調査を行っているが、「マイナスの影響がある」と答えた企業は「第5波」のピークだった2021年8月の73.7%以来、3か月連続で減り続けていた。オミクロン株の急拡大で、4か月ぶりに上昇に転じたことになる=図表参照

オミクロン株の業績への影響(帝国データバンク作成)
オミクロン株の業績への影響(帝国データバンク作成)

   なぜ業績悪化への懸念の声が、多数上がっているのか。その要因は、やはりオミクロン株の出現と、感染急拡大が大きい。企業からはこんな声が寄せられた。

「最初に新型コロナウイルスが入ってきたときに比べ、(オミクロン株は)業績への変動は小さいように思うが予断を許さない状況と考えている」(印刷・製本・紙工機械製造、山形県)
「集客事業について段階的に再開してきたものの、オミクロン株による影響により再度振り出しに戻ることが一番の懸念」(専門サービス、福井県)
「感染状況によって自社の業績が決まるので、足元が危うい状態」(旅館、宮城県)

   「オミクロン株は重症化する割合が低い」という情報が広がっているため、感染初期の頃と比べ、影響は少ないとみる企業もいるが、調査結果を見る限り、警戒を強める企業が多数あったのだ。

ワクチン接種がオミクロン株の決め手だが...(写真はイメージ)
ワクチン接種がオミクロン株の決め手だが...(写真はイメージ)

   また、政府や地方自治体に対する要望を聞くと、

「経済活動の維持とオミクロン株などの新型コロナウイルスの拡大防止措置を適切にハンドリングしてもらいたい」(野菜卸売、高知県)

という過度な経済活動の規制を控えてほしいという意見がある一方、

「感染予防に対する意識がかなり低くなっている。3回目の予防接種を急ぎながら、もう一度『強いメッセージ』を政府は発信すべき」(生コンクリート製造、宮城県)

といったまん延防止等重点措置などの再発令を促す意見など、さまざまな声があがっていた。

   帝国データバンクでは、

「調査結果からオミクロン株の出現により、企業からは警戒感を示す様子がうかがえた。ただし、過度な警戒は経済活動を阻害する要因にもなるため、感染対策をしつつも健全な経済活動との両立は必要といえよう」

と、分析している。

   さらに、J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の池田直紀さんに、オミクロン株によるさらなる業績への影響について、あらためて話を聞いた。

企業は「オミクロン株の不安は大きいが、デルタ株に比べると冷静」

――調査を行ったのは、昨年末から今年の仕事始めの時期です。オミクロン株はその後、さらに爆発的に拡大しています。企業の業績への懸念は今後、どうなるでしょうか。

池田直紀さん「誰もこんなに増えると思っていませんでしたから、さらに厳しくなると予想されます。旅館、ホテルといった対面サービスの業界を中心に『せっかく客足が戻ってきたのに、キャンセルが続出している。業績回復の腰を折られた』という声が多いです。
ただ、新型コロナが入ってきた初期の頃に比べ、オミクロン株に関して不安は大きいのですが、デルタ株に比べると、冷静というか、企業の反応がこれまでとは違うように感じます」
オミクロン株の脅威を企業はそれほど心配していない?(写真はイメージ)
オミクロン株の脅威を企業はそれほど心配していない?(写真はイメージ)

――どういうことですか。

池田さん「まだ、不確定要素がありますが、重症化率が低い点があげられます。『第5波』のピークの時には、自宅療養の患者さんがたくさん亡くなる事態が起こりました。企業の中には『その当時に比べれば影響が少ない。いずれ弱毒性になり、コロナと共生していけるのではないか』という意見もありました。
面白いことに、こうした冷静な見方は、『第5波』のピークだった昨年(2021年)8月~9月にもありました。東京五輪・パラリンピックが無観客で開催され、人の流れが止まり、新規感染者が最高だったにもかかわらず、『マイナスの業績』を懸念する割合が8月~9月に減少に転じたのです。
おそらく、ピークの割には思ったより感染者が増えていない、テレワークなどの効果があったのだと、企業側も慣れてきたのです。また、感染拡大の不安より、『人の流れが戻ってくる』という経済活動再開の期待のほうが高まったためとみられます」

――今回も、過度には警戒していない、ということですか。

池田さん「欧米をみると、毎日数十万人規模の新規感染者を出しているのに、経済活動を規制していない国が多いです。日本国内だけ規制してどうするのだ、という意見もありました。
ただ、これから春になって人出が増え、さらに感染が拡大する恐れがあります。企業の間では、政府は感染症の専門家の意見をよく聞いて、過度に大騒ぎをせずに、冷静に感染対策と経済活動再開のバランスをとってほしいという意見が多い気がします」
岸田文雄首相、まん延防止等重点措置を首都圏に発令する方針
岸田文雄首相、まん延防止等重点措置を首都圏に発令する方針

――ただ、東京都が、新型コロナの入院率が20%以上になったら、まん延防止等措置の適用を要請する、という新基準を作りました。基準を突破する勢いで感染が急拡大して、今週中にも、東京など首都圏にまん延防止等措置が発令されるようですね。

池田さん「東京都は日本経済の中心です。まん延防止等措置が東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏に適用されれば、また経済が止まってしまいます。それがいま、最大の懸念要因です」

   調査は2021年12月16日~2022年1月5日、全国2万3826社に対して行い、有効1万769社(有効回答率45.2%)から回答を得た。

(福田和郎)