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今そこにあるウクライナ危機! エコノミストが警戒「最悪のシナリオはロシアと中国の連携」

   ロシア軍によるウクライナ武力侵攻のカウントダウンが始まっているのではないか。

   そんな危機感の高まりから欧州の株価が軒並み下落。欧州の景気後退を懸念して米ニューヨーク株式市場も下がり続けている。

   ロシアの侵攻は止めることができないのか。世界経済はどうなるのか。エコノミストたちの分析を読み解くと――。

  • 暗雲が立ち込める世界経済の行方(写真はイメージ)
    暗雲が立ち込める世界経済の行方(写真はイメージ)
  • 暗雲が立ち込める世界経済の行方(写真はイメージ)

欧州金融市場の「恐怖指数」が急上昇!

   ウクライナ情勢の緊迫が一気に高まった2022年1月24日、NATO(北大西洋条約機構)が東欧地域への増派を発表。また、米国や英国がウクライナから大使館員の一部や家族を国外に退避させる計画が伝わったことで、欧州の株価下落をひき起こした。

   欧州株全体の値動きを示すストックス欧州600が前営業日に比べて3.8%安となり、恐怖指数とも呼ばれる「ボラティリティ・インデックス」(Volatility Index)が前日より一気に34.9ポイントも上昇した。

   「ボラティリティ・インデックス」(欧州ではVSTOXX、米国ではVIX)とは、株価変動率を表す指標の1つで、株式市場に対する投資家の心理状態を数値で表したものだ。この数値が急上昇すると、株価の大幅下落につながるとされるからだ。

   この欧州金融市場の「恐怖指数」急上昇に注目したのが、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。「市場で高まるロシアとウクライナへの懸念」(1月25日付)のなかで、こう指摘した。

   「天然ガスで世界2位、原油で3位の生産量を誇るロシアの資源分野に制裁がかかると、世界経済にも悪影響が出るとみられます」「EU(欧州連合)諸国はロシアからの天然ガス輸入依存度が高く(=図表1参照)、当面は天然ガスの供給不安から、経済や企業活動が減速することへの懸念が意識されます」

(図表1)EUの国別天然ガス輸入依存度(野村アセットマネジメント作成)
(図表1)EUの国別天然ガス輸入依存度(野村アセットマネジメント作成)

   ただし、ウクライナ情勢は予断が許されないが、1月24日の米国株市場では、一時1100ドル超下げる場面もあったダウ工業株平均が、最終的に買い戻されてプラス圏で終えたことをあげ、「悲観一辺倒でもありません」と結んだのだった。

長年の経済制裁で「しぶとさ」身に着けたロシア

   一方、こうしたエネルギーをロシアに依存する欧州の事情と、米バイデン政権の「弱腰」を見越してロシアがウクライナに武力侵攻する可能性が高まっていると警戒するのが、大和総研ロンドンリサーチセンターシニアエコノミスト(ロンドン駐在)の菅野泰夫氏だ。

   菅野氏のレポート「米国の経済制裁も効かず、ロシアによるウクライナ侵攻は時間の問題か?」(1月25日付)のなかで、ロシアはクリミア半島併合(2014年)以来欧米から経済制裁を受け続けており、「対処法」を身に着けている、と指摘する。

「バイデン政権はロシアがウクライナに武力侵攻した場合、かつてないほど厳しい経済的制裁を課すと警告している」「一方、制裁による西側諸国への副作用も否定できない。米国は新しいドイツ連立政権に対し、ロシアからのガスパイプラインであるノルドストリーム2(=図表2参照)の承認を中止するよう圧力をかけている」「ただし、ロシアはソ連時代のルーブル経済圏での国家運営の蓄積もあり、西側諸国からの制裁下でも支障なく経済的自立ができる」
(図表2)ロシアからドイツへの天然ガスパイプライン(大和総研作成)
(図表2)ロシアからドイツへの天然ガスパイプライン(大和総研作成)

   そして、西側諸国のほうが痛手を受ける可能性があると、こう結ぶのだった。

「それに加えて、(ロシアの)さまざまな対策が功を奏したため、既に制裁の効果は乏しく、その副作用であるエネルギー価格高騰だけが独り歩きする可能性は否定できない」

ロシアと中国が手を結べば世界経済は...

   さらに、支持率が急落している米バイデン政権の足元を見透かし、ロシアと中国が連携するのではないかと懸念するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。

   木内氏のコラム「緊迫するウクライナ情勢:地政学リスクと金融市場の反応」(1月25日)のなかで、ロシアが見切っている欧米諸国の「弱み」をこう解説する。

「(バイデン政権の海外での軍事活動は)既に低迷している支持率を一段と押し下げ、中間選挙に決定的な打撃となること恐れて、バイデン政権は武力行使に慎重、とロシア側は考えているのではないか」
ロシアに足元を見透かされているバイデン大統領
ロシアに足元を見透かされているバイデン大統領

   その背景として、ロシアは原油と天然ガスの主要産出国で、ロシアから欧州に向かう天然ガスの大半はウクライナを経由するパイプラインを通じて供給されていることを挙げながら、

「軍事的な衝突が起これば、それらの供給に支障が生じ、エネルギー価格の急騰が世界経済に一段の打撃をもたらす」「西側諸国は結束した行動を示せないとロシア側が考える根拠の一つは、ドイツのエネルギー事情。(中略)ドイツは2022年末までの原発廃止を決定した。(中略)ロシアからのエネルギー輸入に対する依存度はかつてないほど高まっている」

と分析する。

   ロシアが唯一脅威にしている経済制裁は、米国がロシアの銀行のドル調達を制限することだ。しかし、ロシアには「奥の手」があるとして、木内氏は次のように指摘するのだった。

「その場合、ロシアは中国から支援を受けられることを期待している」「(ロシアのウクライナ侵攻が)ロシアと中国の連携の強さを改めて確認させるものとなれば(中略)世界経済の分裂といった(中略)より大きく深刻な将来のテーマを、金融市場は読み込み始める可能性がある」

(福田和郎)