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和歌山の公立高校、宇宙専門コース新設...生徒は全国から募集! 宇宙×地域創生のポテンシャルは?(鷲尾香一)

   和歌山県は、串本町の県立串本古座高校普通科に2024年度、公立高校への設置は国内で初めて宇宙専門の「宇宙探究コース」を新設する――。2022年1月12日に発表があった。少子高齢化、過疎化に苦しむ地方での「地域創生に一石を投じる取り組み」となりそうだ。

  • 宇宙分野で活躍する人材の育成を目指す
    宇宙分野で活躍する人材の育成を目指す
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国内初!民間小型ロケット発射場建設中の串本町

   和歌山県串本町の人口は、1950年には約3万5000人だったが、その後の急激な人口減少で、2021年末には約1万5000人と半分以下になった。

   もともと、串本高校と古座高校という別の高校だった串本古座高校は、地域の人口減少を受け、2009年に学校統合により誕生した。それでも、普通科のみの全校生徒数約270人の小規模校だ。

   だが、取り組みは先進的で、同校は「留学は外国だけじゃない!」を掲げる。数年前には、紀南地域の自然・文化などの学びを通して、将来にわたって地域に貢献できる人材を育成する地域未来創造コースとして、「グローカルコース」というカリキュラムを作り、全国から生徒を募集している。

   かねてから注目されていた県立串本古座高校。今回、宇宙専門コースの新設に乗り出したのは、小型衛星に対する商業宇宙輸送サービスを提供する事業会社「スペースワン」が国内初の民間小型宇宙ロケット発射場を串本町内に建設していることが背景にある。

   新設される「宇宙探究コース」では、宇宙関連の学習をするほか、スペースワンなど宇宙関連企業との連携を進める。

和歌山県立串本古座高校「宇宙探究コース」新設のロードマップ(和歌山県教育委員会の発表資料から)
和歌山県立串本古座高校「宇宙探究コース」新設のロードマップ(和歌山県教育委員会の発表資料から)

   コースの新設に備え、2022年度入学生から「総合的な探究の時間内」に宇宙関連学習をするほか、宇宙関連イベントなどへの参加を進める。そして、2023年度入学生には選択科目として「宇宙」を新設する。

   それにともない、宇宙教育の専門的な知見を持つ人物を教員として採用、有識者と宇宙関連企業などによる検討委員会の設置も検討している。

地方創生の現状打破への施策として期待

   宇宙に関心のある生徒を全国から募集する「宇宙探究コース」の新設は、急激な少子高齢化、過疎化に苦しむ地方での地方創生のあり方にとって、ひとつのモデルケースとなりそうだ。

   同様の取り組みとして、たとえば、いちごの収穫量が1968年から53年連続で日本一を維持する栃木県が、農業大学校に日本で初めて「いちご学科」を創設するなど、さまざまな広がりを見せている。

   人口減少により疲弊し、活力が失われていく地方の活性化対策として、かつてはIターン、Uターン、Jターンなどの施策で若者を地方に呼び戻そうとしたが、徒労に終わった。

   その後、地方の効率化などをお題目に市町村合併が進み、「広域連携」が流行り言葉となった。しかし、広域連携で生み出されたのは、地方銀行の合併・連携程度で、地方の構図が大きく変化することはなかった。

   地方創生が叫ばれて久しいが、その具体策といえば、大都市から距離的に近く、交通の利便性の高い一部の地方で、都会からの移住が進んでいる程度だ。相変わらず、主力の地方創生策は観光地や特産品を中心としたものに終始している。

   かつて、筆者は関東地方のある県知事に「何かいい地方創生策はないか」と聞かれたことがある。その時、筆者は東京に近いのだから、高齢者が最も安心して過ごせる県作りを行い、東京から高齢者の移住を促すことを提案した。

   世界最高水準の高齢者医療を提供する病院と介護施設を作り、東京の富裕層を呼び込む。それにより、高齢者が生活や余暇を楽しむために必要な施設や人員が必要になり、若者の仕事が増加する、といった具合だ。

   夢物語と言えばそれまでだが、現状を打破するためには、観光地や特産品ではない施策が必要だろう。

   約1万5000人の町の生徒数約270人の高校が、世界や宇宙を標榜した先進的な取り組みを行っているのだから、自治体単位であれば、もっと独自の政策が打ち出せる可能性があるのではないか。