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ガソリン価格高騰抑制への決め手「トリガー条項」おさらい 政府が「凍結解除」に難色示す理由とは

   ガソリン価格の高騰が止まらない。ウクライナ情勢の緊迫化がさらに不安に拍車をかけている。

   そんななか、萩生田光一経済産業相が2022年1月30日、ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の発動をにおわせた。ところが岸田文雄首相は、31日の衆議院予算委員会で「その考えはない」と話すなど、なにかと争点になりやすいガソリン税界隈――。そもそも「トリガー条項」とは何か。ガソリン税の仕組みはどうなっているのだろうか。

  • ガソリンの高騰が止まらないが…(写真はイメージ)
    ガソリンの高騰が止まらないが…(写真はイメージ)
  • ガソリンの高騰が止まらないが…(写真はイメージ)

「ガソリン買い控えで大混乱する」と拒否

   萩生田光一経済産業相の注目発言が飛び出したのは、1月30日朝のフジテレビ系ニュース番組「日曜報道 THE PRIME」だ。ガソリン税を軽減する「トリガー条項」凍結解除について、コメンテーターの橋下徹・元大阪市長らの質問に答える形で、

「(ガソリン価格が)どんどん上がっていくのを、ただ、ボーッと見ているわけにはいきませんので、ここは何か手を打っておかないといけないなと思ってます」

と述べた。また、トリガー条項という制度がある以上、「有効的に使えるなら使うというのは、常に考えなければならない」などと、トリガー条項の適用も視野に入れていることを明らかにした。

   振り返ると、萩生田経産相は昨年(2021年)10月26日の会見で、記者から「トリガー条項を解除する考えはないのか」と聞かれた際、「ない」と答えている。経産省のサイトによると、その理由としてこう答えていた。

「現在凍結中のトリガー条項については、発動された場合、ガソリンの買い控えや、その反動による流通の混乱や、国、地方の財政への多大な影響などの問題があることから、その凍結解除は適当でないと考えております」
テレビ番組では「トリガー条項」適用かとにおわせた萩生田経産相だったが...(2017年撮影)
テレビ番組では「トリガー条項」適用かとにおわせた萩生田経産相だったが...(2017年撮影)

   そんな萩生田経産相が、トリガー条項の適用をにおわせたのだから、その動向には注目が集まっていた。もっとも、かねてから岸田文雄政権は、トリガー条項の凍結解除に関しては、拒否のスタンス。そして結局、その路線は変わらないようで、31日の衆議院予算委員会で岸田首相は「トリガー条項の凍結を解除する考えがない」と話したのだった。

   なぜ政府は、トリガー条項の凍結解除に難色を示すのか。トリガー条項が発動されると、石油元売りへの約5円の補助金どころか、一気にガソリン価格が約25円安くなるからだ。そして、実際に発動されるまで日数かかるが、その間、運輸業者らがガソリン購入を控えるため物流がストップするという理屈だ。これは、「あらゆる商品の買い控えが起こって経済が大混乱する」と、消費減税を絶対に認めない財務省の論法と同じだ。

諸外国と比べ異常に多くて高い石油の税

   トリガー条項とは何か、ここでおさらいをしておこう。「トリガー」(trigger)とは引き金を引く、起動させるという意味を持つ。ガソリンにかかっている高い税金の一部を免除することだ。租税特別措置法第89条にもとづき、「レギュラーガソリン1リットルあたりの価格が3か月連続して160円を超えた場合、ガソリン税の上乗せ分(旧暫定税率)25.1円の課税を停止する」。つまり、約25円の税金分が安くなるというものだ。

   日本の石油製品にかかる税金は、諸外国と比べても異常に多くて高い。石油連盟の「今日の石油産業2020」には、原油が入ってきてから消費者にわたるまでの、各段階における課税のリストが載っている。それを見ると、ガソリンの場合、まず工場で精製される前に「関税」と「石油石炭税」(地球温暖化対策のための税)がかかる。

   そして、工場の精製過程で「ガソリン税」が加わる。1リットル当たり53.8円で、そのうち25.1円が「暫定税率分」と呼ばれる、道路財源不足を理由に上乗せされた臨時の税金だ。「暫定だ」「臨時だ」と言いながら1974年以来、50年近く徴収され続けており、批判の的になっている。この暫定税率分の約25円を免除するのが「トリガー条項」だ。

   さらに、工場から出荷後、ガソリンスタンドに行く際に「消費税」も課せられる。結局、1リットルあたりガソリン代の半分近くを税金が占め、とくに消費税に関しては石油精製・元売り会社の団体である石油連盟も「二重課税」(Tax on Tax)と批判している。

   しかし、政府は「ガソリン税は製造コストにかかる税で、消費税は利用者が買う時にかかる税だから二重課税ではない」と突っぱねている。もっとも、製造コストの税金分もガソリン価格に転嫁され、利用者が支払うことに変わりはない。

東日本大震災によって解除が凍結されていた「トリガー条項」
東日本大震災によって解除が凍結されていた「トリガー条項」

   トリガー条項は、ガソリンにかかる税金が高すぎるという批判を受け、旧民主党政権下の2010年4月に成立したが、翌年3月に東日本大震災が起こったため、復興財源を確保する名目で運用が凍結されたままだ。しかし、「復興五輪」を掲げた東京五輪が終わった現在、「もう復興財源の確保」は理由にならないと、発動を求める声が野党やインターネット上でも高まっていた。

   第一生命経済研究所の首席エコノミスト熊野英生氏は、「脱炭素化」を目指す岸田政権が、石油元売りへの補助金支給を含め「『なぜ、化石燃料(である石油へ)の援助を行うのか?』」という疑問を持つ人も多いはず」と投げかけていた。

   熊野氏のレポート「ガソリン補助の効果と限界~家計への恩恵は少ない~」(1月28日付)のなかで、「化石燃料を割安にすると、CO2排出量が増える」と懸念し、こう訴えている。

「必需品の支援ならば、食品や医薬品の価格支援のほうを優先する考え方もできる」「家計の負担増が問題ならば、輸入物価の上昇が円安によって進んでいることも考慮する必要がある」「筆者の解釈は、円安の痛みがあっても、為替レートを人為的に動かすことは適切ではないので、代わりに賃上げを促進することで、家計が物価上昇に対して耐久力を持つしかないというものだ」

   そして、ガソリン減税よりも、「官民が一致して賃上げに力を注ぐことこそがインフレ対策としての正当性と効果がある」と強調するのだった。

(福田和郎)