J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ガロの「学生街の喫茶店」も今や昔...喫茶店どんどん廃業に 「こだわりのマスター」の店、生き残る秘訣は?

   「君とよくこの店に来たものさ 訳もなくお茶を飲み話したよ...片隅で聴いていたボブ・ディラン...」という歌も、あったっけ。

   ガロの『学生街の喫茶店』よろしく、そんな「温かいぬくもりの場」がウリだった喫茶店(カフェ)が厳冬の時代に入った。

   新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、喫茶店の廃業が過去最多に達したことが、東京商工リサーチが2022年1月23日に発表したリポート「『喫茶店』の廃業、2021年は過去最多の100件」で明らかになった。

   あの懐かしい喫茶店は、もう戻ってこないのか。調査担当者に聞くと――。

  • カフェで談笑する女性たち(写真はイメージ)
    カフェで談笑する女性たち(写真はイメージ)
  • カフェで談笑する女性たち(写真はイメージ)

なんとコーヒー豆が3年前の2倍以上の高値

   調査結果によると、2021年の「喫茶店」の休廃業・解散が初めて100件に達し、調査を開始した2000年以来の過去最多を記録した。

(図表)喫茶店の休廃業・倒産がどんどん増えている(東京商工リサーチの作成)
(図表)喫茶店の休廃業・倒産がどんどん増えている(東京商工リサーチの作成)

   その背景として、大手チェーンの進出や「コンビニコーヒー」との競争にくわえ、昨今の輸入コーヒー豆の高騰も痛手となった。全日本コーヒー協会によると、昨年末、ニューヨーク・コーヒー豆相場の指標が10年ぶりに250セントを超えるなど、2019年の2倍以上の高値を続けている。これは、世界的なコーヒー需要の高まりにくわえ、主産地ブラジルの冷害などが響いている。

   また、コロナ禍で生活様式が変わり、在宅勤務が増えたため、「商談」や「時間つぶし」「勉強」など場に使われる需要が減っている。とくに昔ながらの喫茶店は、先行きが見えず、債務超過に転落(破産)する前に廃業を決断したとみられる。

   オミクロン株の流行拡大で、1月に入り「まん延防止等重点措置」が東京などに適用された。在宅勤務がさらに増え、需要回復は期待できない状態だ。ただし、倒産件数は61件(前年比8.9%減)と、昨年、一昨年よりは低い水準だ。

   これは、コロナ関連の休業補償金や持続化給付金の資金援助が下支えとなっているからだが、それでも、休廃業と合わせて161件の「休廃業・解散・倒産」は史上最多だ。

   東京商工リサーチでは、「2022年は廃業だけでなく、息切れによる倒産増の可能性も高まっている」とみている。

黒字「コメダ」と赤字「ドトール」「サンマルク」「ルノアール」の差は?

   そんななか、苦境下でも業績が好調なところと、赤字が進み経営が厳しいところと「二極化」が進んでいるようだ。

   喫茶店の「モーニングサービス激戦地」名古屋市から全国進出を果たした「コメダ珈琲店」を展開するコメダホールディングス(名古屋市)は、2021年3~11月の連結営業利益が前年同期比36.8%増の58億4700万円に達した。

   これは、「ナッツの女王」といわれるピスタチオを高級スイーツに仕上げた「シロノワール ぜいたくピスタチオ」など、コーヒー以外の新商品が大ヒットしたからという。

カフェのカウンターで勉強や仕事をするお客(写真はイメージ)
カフェのカウンターで勉強や仕事をするお客(写真はイメージ)

   一方、大手チェーン「ドトール・コーヒー」やレストランを運営するドトール・日レスホールディングス(東京都渋谷区)の2021年3~11月の連結営業利益は9億2100万円の赤字だった。同じく大手チェーン「サンマルクカフェ」などを運営するサンマルクホールディングス(岡山市)の2021年4~9月の連結営業利益も27億900万円の赤字となった。

   老舗喫茶店をチェーン化した「喫茶室ルノアール」を展開する銀座ルノアール(東京都中野区)の2021年4~9月の連結営業利益も6億6400万円の赤字と、いずれも苦戦しており、大手でも明暗が分かれたかたちとなった。

大手チェーン「黒船来襲」に加え、コンビニの攻勢

   実は、こうした喫茶店の「冬の時代」は新型コロナが襲来する2年前の2019年から深刻になっていたのだ。

   東京商工リサーチが2019年9月13日に発表した「2019年(1-8月)『喫茶店』の倒産状況~年最多に迫るペース、消費増税後はテイクアウトと競合も~」から、その原因を探ってみよう。

   この3年前のリポートではすでに、喫茶店(カフェ)の倒産が増加し、過去20年で年間最多を記録した2011年の70件に迫る勢いだ、と警戒している。

   その原因として挙げているのが「缶コーヒーの進化」と「大手コーヒーチェーンの出店攻勢」だ。さらに追い討ちをかけたのが、2013年にセブン-イレブンがコンビニコーヒーの「セブンカフェ」をスタートさせたこと。瞬く間にコンビニ各社が追いかけ、イート・イン・スペースが広がった。喫茶店に行かなくても美味しいコーヒーを手軽に飲めるようになったのだ。

   もともと喫茶店は、体力の乏しい小規模経営が多い。そこに大手コーヒーチェーンの「黒船」が来襲、異業種のコンビニも攻勢をかけてきた。折しも、時代は少子高齢化が進み、若者の嗜好変化が激しい。また、それ以前からブームを繰り返していた「タピオカドリンク」など新しい飲料にも押され、廃業や倒産する喫茶店が増えてきたのだ。

「こだわりのマスターの店」が生き残るには...

   こうした「喫茶店冬の時代の到来」の背景について、J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査を担当した東京商工リサーチ情報部の後藤賢治課長にさらに詳しく話を聞いた。

――喫茶店衰退の流れが決定的になったのは、やはり新型コロナの感染拡大が大きいですか。

後藤賢治さん「実はその前に、2019年10月に消費増税が行われた影響が大きいです。当時、消費税率が8%から10%に上がったわけですが、店内飲食が基本の『喫茶店』には軽減税率は適用されず、10%になりました。しかし、テイクアウトできるコンビニコーヒーは8%のまま据え置かれました。この2%の差がとても大きく、喫茶店の倒産、廃業を加速させたと思います。
その後、コロナ禍でも行われるようになった飲食店の持ち帰り(テイクアウト)の新しいスタイルは、軽減税率の適用を受けるよう、すべてこの時から始まったわけです。ところが、喫茶店はコーヒーの持ち帰りが難しかった。こうして、缶コーヒー、大手チェーン店、コンビニ...と総攻撃を受けている最中にコロナの追い討ちが来ました」

――しかし、同じ大手でも業績に差が出て、二極化が進んでいます。リポートでは、コメダ珈琲店は新商品「シロノワール ぜいたくピスタチオ」のヒットが大きかったからと言いますが、もともとサンマルクカフェだって「チョコクロ」という、甘すぎないビターチョコをクロワッサンで包んだフードメニューが女性に人気ですが...。

後藤さん「立地条件の差もあると思います。ドトールやサンマルクは、駅前のビルや、オフィス街、学生街にあるビルに入っています。喫茶室ルノアールも東京・銀座など、大繁華街に多く出店しています。しかし、コメダ珈琲店は郊外に出店して駐車場付きのところが多いです。
コロナ禍によって、在宅ワークやオンライン授業が広がれば、商談や時間をつぶす人が減りますから、ドトールやサンマルクに入るお客は少なくなります。一方、コメダ珈琲店は、在宅の人もクルマで行くことができます。
もう1つ、郊外店のよさは、ドライブスルーができることです。これなども駅前や繁華街のドトールやサンマルク、喫茶室ルノアールではできません。コンビニのコーヒーも持ち帰りができますよね」
コーヒー豆が世界的に高騰している(写真はイメージ)
コーヒー豆が世界的に高騰している(写真はイメージ)

――なるほど。では、昔ながらのこだわりのマスターが、自家焙煎した豆をお客に選ばせ、その場で丁寧に挽きながらコーヒーを淹れてくれる。いい香りが漂うなか、マスターと世間話しながら挽きたての美味しいコーヒーを味わう...。そんなコーヒー好きにはたまらない店はもうダメなのでしょうか。

後藤賢治さん「ファンとしては、個性的で美味しい店は残ってほしいです。しかし、団塊の世代が退職し、コーヒー本来の豆の味を知っている人が減っています。今後は、より本格的な味を求める人と、単に時間つぶしのため、あるいは安くてもソコソコ美味しいコーヒーを求める人――この二極化が進むと思います。街を歩いてもこだわりの店は少なくなりました。
こだわりの店主さんは豆にもこだわっていますが、その豆がここ数年、高騰し続けています。かといって、値上げ分をコーヒー代に転嫁するのが難しい現実があります。古きよき時代の名残をどう売上につながるか。コーヒー以外に新商品をつけたり、個性的な店づくりをしたりするなど、若い世代のニーズに合わせて差別化を図っていかないと厳しいでしょう」

(福田和郎)