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相手より先に名刺出したがる「ビジネスマン」 2番目に並ぶ人を案内する「レジ店員」...不思議な慣習はダレトクなのか?【vol.9】(川上敬太郎)

   用事のついでに、いつもとは違うスーパーに寄った時のこと。レジの先頭に並んでいると、店員さんから声をかけられました。

「2番目にお並びのお客さま、どうぞ!」

   自分の番だと思って動こうとしたその刹那、もう一人の自分が囁きました。

  • スーパーのレジの店員さんの一言が気になる!
    スーパーのレジの店員さんの一言が気になる!
  • スーパーのレジの店員さんの一言が気になる!

いつの間にか定着した「違和感」ある決まり文句

「ちょっと待て、自分よ。お前は先頭で並んでいたのだから、『1番目』に並んでいる客だ。店員が声をかけたのは『2番目』に並んでいる客だぞ。それは、お前の後ろの客ではないのか?」

   おっと、自分じゃないのか。でも順番を考えれば、次は先頭で並んでいる自分のはず。レジは一台しか動いてないから、隣のレジへと誘う呼びかけでもないぞ。はて、なにゆえ「2番目」の客に声をかけるのか? さっきレジしていた人を1番目と見なしているのか、あるいは「先頭で並ぶ客」を言い間違えたのか......。

   などと思いつつ、「2番目」に並ぶ真後ろの客に目をやっても、動く気配はありません。グズグズ考えていては他の客にも迷惑なので、人差し指を自分に向けて、「私のことですか?」と尋ねるポーズをとると、店員は「どうぞ」と招く仕草をしながら、笑顔でレジに案内してくれました。

   そうか。やっぱり自分のことだったのか。まあ、シチュエーションから考えて、それしかないわな。「2番目でお並びの」なんて言うから一瞬混乱したではないか。やっぱり言い間違えかな、などと思いながらレジを終えると、次の客に向かって店員さんが言いました。

「2番目にお並びのお客様、どうぞ!」

   後日、この「先頭で並ぶ客は1番目なのか、やっぱり2番目と呼ぶのか」問題を友人たちに投げかけてみたところ、「私も同じ疑問を持った」という人もいれば、「そんなこと疑問にも思わなかった」という人までさまざま。

   なかには、コンビニでバイトしていた時に同じ疑問を持ったものの、店長が怖くて意図を確認できなかったという人もいました。なるほど、決まり文句に違和感を覚えても、そんなふうに疑問を投げかける機会を失って、いつの間にか慣習化していくものなのかもしれません。

ついツッコミを入れたくなるビジネスマナー

   そういえばお釣りをもらう時に、「前から失礼します!」と言われて不思議に思うこともあります。カウンター越しでも前から渡すのが当然ですし、むしろ後ろから渡す方が失礼のような......。

   会社でも、時々不思議な慣習を見かけます。たとえば、名刺交換時のビジネスマナー。相手より先に差し出すのが礼儀だと教えられているのか、名刺を内ポケットから、ブンっとすごい勢いで目の前に差し出されて驚いたことがあります。その手さばきたるや、早撃ちガンマンの如し。

   もし同じビジネスマナーを仕込まれた人同士が名刺交換するとどうなるのか? 超スピードで同時に差し出された名刺が空中で激しくぶつかり合い、「あぁ!」と宙に舞うかもしれません。手と手が激しくぶつかって骨折などしようものなら労災適用になるので、譲り合った方がいいですよ。

   あと、名刺交換で相手よりも低く差し出すという流派も見たことがあります。これも流派を極めた同門が対決すると、互いに譲らず相手の下へと潜り込みあいながら、地面スレスレまで腰をかがめることになるでしょう。自分のような腰痛持ちの人は、やはり労災申請することになりそうです。

   そんなふうに、せっかくのビジネスマナーも、ヘンにこだわると相手に意図が伝わらず、奇妙な姿をさらすことになりかねません。

   営業職だった20代のころ、自分が運転する社用車で、小柄な女性社長を得意先にご案内したことがありました。社長同行に緊張しながら、運転席後ろにある上座のドアを開けると、社長は軽やかな声で言いました。

「あら、いいのよ。私、助手席が好きなのよー」

   下座である助手席にサッと乗り込む社長。社用車はコンパクトなつくりだけに、運転席の真後ろはかなり窮屈です。結局、社長の次に偉かったガタイの良い上司が、体を縮めて上座に座ることになりました。

   助手席でゆったりと景色を眺める社長とは対照的な、バックミラーに映る窮屈そうな上司の姿。笑いをこらえながら運転するうちに緊張がほぐれ、社長の得意先訪問は無事に終了しました。

   必要だからこそ生まれたはずのビジネスマナーや慣習ですが、なかには「それって、ダレトクなの?」を思ってしまうものもあるわけで、頑なになるよりはケースバイケースがよろしいように思います。

(川上敬太郎)