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最新2022年「借りて住みたい街」に見るユーザー意識の変化《後編》 コロナの影響あったか?「近畿圏、中部圏、九州圏」(中山登志朗)

   先日、筆者が所属するLIFULL HOME'Sから2022年版の「借りて住みたい街&買って住みたい街」ランキングの発表がありました。今回は、このランキングデータの分析から、とくに「賃貸ユーザー」のコロナ禍における意識の変化を探っていきたいと思います。《後編》では、首都圏以外の各圏域のランキングとその背景を探るとともに、ユーザー心理を考察していきます。

  • 通称「本気で住みたい街」ランキングを読み解く
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首都圏以外では市街地中心部への賃貸ニーズ「一極集中」

   首都圏以外の「借りて住みたい街」ランキングは、コロナ前からほとんど変化がありません。この「変化がない」ということも、コロナ禍での都市圏の構造の違いを表していると言えます。

【近畿圏】
   近畿圏の「借りて住みたい街」ランキングは、5年連続で1位を独走していた「三ノ宮」が2位、代わって地下鉄御堂筋線の「江坂」が前回5位から浮上して初めて1位を獲得しました。隣接する「新大阪」も4位で、事実上大阪駅北側一帯のベッドタウンが借りて住みたい街No.1となりました。3位は前回4位の「姫路」が入り、ベスト3の顔ぶれには大きな変化はありませんでした。

   近畿圏の「賃貸ユーザー」の居住ニーズの中心は、ここ数年、神戸市内と大阪市中心部からほぼ動いていない状況です。つまり、コロナは「住みたい街」にほぼ影響を与えていない、ということになります。首都圏とは対照的な結果となりました。

   1位となった「江坂」は「新大阪」で新幹線と地下鉄御堂筋線が交わるため、大阪中心部へのアクセスがよく、さらに大阪から移動するのにも便利で、「新大阪」同様に他地域からの単身者の流入がとても多いエリアです。近畿圏では、郊外よりも市街地中心部での居住ニーズが依然強く、交通利便性が高く職住近接が実現しやすい大阪市、神戸市の各中心エリアにニーズが集中しています。

【中部圏】
   中部圏の「借りて住みたい街」ランキングは、「岐阜」が4年連続1位と人気を不動のものにしています。2位、3位も前回同様「豊橋」と「岡崎」で、ベスト3は名古屋市以外の衛星都市が独占しています。

   1位の「岐阜」は、「名古屋」まで快速で20分とベッドタウンとして人気となりました。しかも、近年、名古屋市内の賃料が高水準で推移しており、物価や賃料が安価であることから支持がさらに高まっているようです。2位の「豊橋」および3位の「岡崎」も、「岐阜」とほぼ同様の理由が想定されます。順位の違いは、主に「名古屋」までの所要時間とコストの違いによるものと考えられます。

   中部圏は、首都圏および近畿圏と比べるとさらに圏域がコンパクトで、そのためにもともと職住近接が実現しやすいという利点があります。それでも「賃貸ユーザー」の一定数が名古屋市内よりも「岐阜」「名鉄岐阜」「豊橋」「岡崎」を支持するのは、賃料水準の違いなどに起因します。

【九州圏】
   九州圏(福岡県)の「借りて住みたい街」ランキングは、「博多」が5年連続の1位を獲得しました。2位「西鉄平尾」、3位「高宮」も同様に2年連続して順位を守りました。

   「博多」は事業集積性と交通利便性が群を抜いて高いことが特徴です。鹿児島本線などJR各線、地下鉄空港線のほか、新幹線の起点であり、バスも多数乗り入れています。この飛び抜けた交通利便性のよさから、九州に本支社を置く企業の多くは「博多」周辺にオフィスがあり、周辺に就業者向けの賃貸物件が数多いことも5年連続1位の要因です。

   また、2~5位を占める「西鉄平尾」「高宮」「大橋」「井尻」など、西鉄天神大牟田線の各駅が上位にランクインしています。これは沿線の賃料水準に割安感があること、バスで福岡市中心部にアクセス可能なことなど、賃料と交通利便性の好バランスによるものです。

   地下鉄空港線の各駅も、「姪浜」「東比恵」「西新」「大濠公園」などが上位にランクインしており、賃貸ニーズは「博多」を中心とした地下鉄空港線沿線と西鉄線沿線に集中しています。

首都圏と首都圏以外の状況が大きく異なる理由は?

   このように、首都圏では賃貸ユーザーの郊外居住意向が強まっているのに対し、近畿圏、中部圏、九州圏(福岡県)ではいずれも市街地中心部での職住近接を望む意向が維持されていることがわかりました。コロナ前の2019年には、4圏域ともほぼ同様な傾向にあったのですが、コロナによって首都圏だけなぜこのような「郊外化」が発生したのでしょうか。

   それは首都圏と首都圏以外とで置かれている状況に、比較的大きな違いがあることによるものと考えられます。

   まず、新型コロナウィルスの感染者数の多くは首都圏および東京都に集中しており、急速な感染爆発を受けて東京に本社を置く企業の多くは、国および東京都からの要請もあってテレワークの促進・継続策を実施しています。

   東京都でのテレワーク実施率は2022年1月発表時点で56.4%、大阪府では明確な調査資料はありませんが?本?産性本部が公表した資料によれば20%を少し超える程度とされていますから、テレワーク実施率に違いがあることは明らかです。コロナ禍で実際に働き方が大きく変わった首都圏に対して、近畿圏ほかではコロナ前から働き方はほとんど変わっていないというのが、住み替えに対する考え方にも反映されているようです。

   また、テレワークに関しては、企業の業種および従業員規模によっても、実施率・定着率に違いがあります。たとえば、情報・通信業や金融・保険業では比較的高く、また従業員規模が大きい企業ほどテレワークの実施率が高いことがいくつかの調査で判明しています。このような企業の多くが東京に本社を置いていることもまた、テレワークの実施率の違いに影響を与えています。

   続いて、都市圏との規模の違いが挙げられます。

   首都圏の場合は、都心から電車で1時間程度郊外方面に延伸しても、生活圏として大きな差異はなく、利便性が極端に劣る、ということはありません。一方で、近畿圏、中部圏などでは1時間程度郊外方面に延伸すると、生活圏そのものが変わってしまうという点も見逃せません。

   さらに、首都圏の場合は、都心と郊外では住宅の賃料もしくは物件価格に比較的大きな差があるものです。これに対し、首都圏以外の場合は、市街地中心部の賃料および物件価格が相対的に低いため格差が小さく、ゆえに郊外方面に住み替える経済的メリットが大きくないという点も挙げられます。

   これらの要因が重なって、首都圏と首都圏以外の圏域での住宅、および、住まい方に対する感覚が大きく違ってきているのだと考えられます。

   コロナ禍によって「ニューノーマル」な生活に変化するべきなのか。それとも、コロナ前に戻ることをイメージして、現在の生活を続けるべきなのかが問われていると言えるでしょう。

(中山登志朗)