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可決するか? 東芝「2分割」案 臨時株主総会に向けて続く関係者間の激しい駆け引き

   東芝が、また方向転換だ――。経営改革のため昨秋(2021年)、会社を3社に分割する計画を打ち出していたが、「物言う株主」の一部から反対を受け、2022年2月7日に2社に分割するとともに株主還元を強化するという新しい計画を打ち出した。

   3月24日に開く臨時株主総会に計画の賛否を問うとしているが、すんなり承認されるかは見通せない状況。株価の上昇と株主価値の向上を求める物言う株主と、2分割案での経営再建を進めたい東芝との浅くない「溝」は株主総会までに埋まるのか、注目されている。

  • どうなる東芝、注目は3月24日の臨時位株主総会(写真は、東芝本社ビル)
    どうなる東芝、注目は3月24日の臨時位株主総会(写真は、東芝本社ビル)
  • どうなる東芝、注目は3月24日の臨時位株主総会(写真は、東芝本社ビル)

「物言う株主」の攻撃にさらされる東芝経営

   「迷走」「正念場」...... そんな単語を何度使ってきただろう。不正会計と米国の原子力発電子会社の破たんで経営危機に陥った東芝は、債務超過で東証の上場廃止の危機を回避するため2017年に6000億円の巨額増資を実施し、上場を維持した。この時、「3Dインベストメント・パートナーズ」など「物言う株主」が大株主になった。

   その後、2020年の株主総会の不明朗な運営や投資ファンドの買収・非上場化の提案などをめぐる混乱もあり、翌21年4月には外部から招いた車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)社長兼最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれた。

参考リンク:J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年3月27日付「東芝経営陣の正念場 『物言う株主』が揺さぶる『不利益な議決権行使』の実態解明のゆくえ」

参考リンク:J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年4月24日付「社長辞任、CVC買収断念... 混迷の東芝はどこへ行くのか!?」

   さらに、21年6月の定時株主総会では社外取締役の立場でガバナンス改革に取り組んでいた永山治(ながやま・おさむ)取締役会議長(中外製薬名誉会長)の取締役再任を否決されるなど、物言う株主の攻勢にさらされていた

参考リンク:J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年7月4日付「株主が『ノー』前代未聞の異常事態! 東芝経営に『救世主』は現れるのか?」

   新たな成長戦略を描けず、内部の混乱に終始していたなか、2022年11月にようやくまとめたのが、事業ごとに3つの企業に分割し、それぞれ独立させるという「3分割案」だった。

   エネルギー事業などを担う「インフラサービス」、ハードディスクドライブ(HDD)などの電子部品を担う「デバイス」の2社を分離。残る東芝本体は、約4割の株を保有する半導体大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリー)などの株式管理会社となるというものだった。

参考リンク:J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年11月20日付「東芝、迷走の果ての『3分割』 それでも残る不満の声 分割後の成長の道筋に説明不十分」

にっちもさっちもいかない分割案

   ところが、これを引っ込めて示した新たな計画は、分離するのはデバイスのみとし、株式を上場して残りは本体に残す案だった。デバイスでは2000億円を投じ、省エネに効力を発揮する「パワー半導体」の増産のため石川県の工場の生産能力を増強することも発表した。本体に残す事業では、原発の新増設が見込めないことから、太陽光発電や洋上風力発電など再生可能エネルギーで稼ぐ考えだ。

   3分割のコストが想定以上だったとし、2分割にすることで費用の削減や事務負担の軽減が見込めるという。分割は2023年度の実行を目指す。

   また、空調機器などを手掛ける子会社、東芝キヤリア(川崎市)の保有株式を今年9月末までに合弁相手の米企業に約1000億円で売却するのをはじめ、エレベーターや照明事業も22年度中に売却し、計2100億円の資金を得ることを目指す。こうした売却益を含め、向こう2年間で約3000億円を株主に還元すると表明した。

   2021年11月の3分割案は、収益構造や成長戦略が異なる各事業が独立することで、それぞれの価値がわかりやすくするとともに、1社内にとどめるより成長分野への投資の意思決定が早まり、機動的に事業展開できる―― という狙いだった。

   これをわずか3か月で修正に追い込まれたのは、3分割案の発表後も株価が低迷。短期間で収益を上げて株式を手放したい物言う株主はもちろん、比較的長期投資をする海外の資産運用会社などからも懐疑的な声が出たためだ。

   何より、本当に成長し、企業価値を高めていけるのか――。物言う株主が東芝経営陣に「不満」を持つのは、この一点だろう。

   東芝は2021~25年度に分割する2社の合計で1兆5000億円を、設備投資や研究開発費に投じる計画だ。本体のインフラ会社は風力や水素といったエネルギー関連、水道や鉄道といった社会インフラ、量子暗号や人工知能(AI)などが残り、その一方で投資領域は幅広いため、狙いどおりの迅速な意思決定、効果的な投資ができるのか――。つまり、物言う株主は会社分割それ自体に反対というより、成長戦略への見通しを疑問視しているわけだ。

   それは東芝が物言う株主に、きちんと説明できていないようでもある。

くすぶる東芝「丸ごと買収」案

   物言う株主の、そんな疑問などがさらには、株主還元の圧力へと向かい強まっている。東芝の、この先の2年で「3000億円還元」方針は、もちろん、こうした要求に応えるものだが、今回打ち出した空調子会社の東芝キャリア(神奈川県川崎市)などの売却益2000億円は、ほぼ丸ごと株主還元に回る計算で、成長への投資と株主還元の両立は容易ではない。

   物言う株主からは、ITサービス事業や半導体製造装置事業などの追加売却を求める声も出ているというありさまだ。

   まだある。2021年4月に当時の車谷社長が、自身がかつて会長を務めた英系投資ファンドによる丸ごと買収(非上場化)に動き、辞任に追い込まれる一因になったが、物言う株主の一部はこうした外部による丸ごと買収を、今も求めている。物言う株主側も、株主価値の向上で要求は一致しているものの、東芝の経営再建には微妙な温度差があるわけだ。

   このように、さまざまな利害関係者の思惑が交錯する中で開かれる3月の臨時株主総会は、議決方法も関心を集める。

   本来、重要な事業を切り離す今回のような場合、株主総会で3分の2以上の賛成による「特別決議」が必要だ。ただ、東芝は今度の臨時株主総会で、単純過半数での可決を目指す。綱川智(つなかわ・さとし)社長兼CEOは2月14日のオンライン会見で、「分割案はまだ説明したばかりなので、これから丁寧に株主に話していきたい。しっかりと説明して、......株主の意向、方向性を確認したい」と述べた。

   法的拘束力がない「意向確認」という位置づけで、「(特別決議では)たとえば6割の賛成があっても否決される。過半数の株主の意思を尊重すべきだと考えている」(綱川社長)と説明する。実際に分割を実施する2023年の定時株主総会では、特別決議を諮るという。

   しかし、物言う株主からはこれにも反発の声が出ている。主要な物言う株主の議決権は合算で3割程度を握っているとみられる。東芝としては物言う株以外の「サイレントマジョリティ(静かな多数派)」が「味方」になってくれることを期待しているわけだが、2分割案に賛同が集まる保証はない。

   仮に否決された場合、綱川社長は「まったく別の選択肢にするかなど真摯に検討したい」と、弱気ともとれる発言をしており、非上場化(丸ごと買収)の再浮上の可能性も取りざたされている。

   2分割案は可決されるのか。あるいは可決されても、賛成の比率はどの程度なのか――。3月24日の臨時総会に向け、関係者間の駆け引きが続く。(ジャーナリスト 済田経夫)