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謎だらけ「ゾンビ企業」が日本経済ダメにする? 社長のみなさん「自分の正体に気づき、稼ぐ力身に着けて!」

   「ゾンビ企業」というおどろおどろしい名の会社が日本経済の足を引っ張っている、という議論が起こっているそうだ。

   いったい、どういう会社なのか。東京商工リサーチが2022年2月18日、ゾンビ企業について本格的に分析したリポート「ゾンビ企業って言うな!~『推定30万社』の見直しと企業支援の次の一手~」にその実態が書かれている。だんだん減っているように見えるのが、かえって怖いという話もあり......。

  • 事実上破綻している「ゾンビ企業」(写真はイメージ)
    事実上破綻している「ゾンビ企業」(写真はイメージ)
  • 事実上破綻している「ゾンビ企業」(写真はイメージ)

いくら稼いでも借入金の利息も払えない会社

   「ゾンビ企業」とはその名のとおり「生ける屍(しかばね)」と化した、事実上経営破綻している企業のことだ。借金苦でいくら利益を上げても、借入金の利息さえ払えない状態の会社だ。

   各国の中央銀行相互の決済を行う国際決済銀行(BIS、本部スイス・バーゼル)では、「ゾンビ企業」の定義を

「設立10年超で3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオが1を下回る企業」

としている。「インタレスト・カバレッジ・レシオ」とは、利払い負担に対する利益の比率のことで、会社の借入金の利息の支払い能力を測るための指標だ。

   ざっくり言うと、借金を払えるかどうか、企業の信用力を図るもので、次の数式で表される。

《インタレスト・カバレッジ・レシオ=事業利益(営業利益+受取利息+受取配当金)÷金融費用(支払利息+割引料)》

   一般的には、倍率が高いほど財務に余裕のある健全企業とされる。だが、この値が「1未満」になったら、分子の「利益」より分母の「利払い」のほうが大きいことになる。これでは、いくら稼いでもどんどん利息の支払いに追われるだけで、いずれ破綻することは間違いない。

マネーが飛び交っていたバブル時代は遠い過去(写真はイメージ)
マネーが飛び交っていたバブル時代は遠い過去(写真はイメージ)

   近年、世界的にも「ゾンビ企業」の増加が問題になっている。

   日本経済新聞(2021年7月20日付)「ゾンビ企業とは 経営破綻状態『追い貸し』で延命」によると、1990年代前半にバブル経済が崩壊し、その後の「失われた10年」を分析する際に専門家が使い始めた言葉といわれる。銀行が不良債権処理を先送りするために、再建の見込みがない企業に「追い貸し」をして延命したのだ。「ゾンビ企業」が増えたことで、日本経済の効率性が下がったという。

   日本経済新聞の記事では、「最近の国際的な研究では、ゾンビ企業が増えたのは各国の中央銀行が進めてきた金融緩和による低金利の影響があるとの指摘も増えてきた」「14の先進国では名目金利が下がるほどゾンビ企業が増えるという相関関係がみられたと分析している」と指摘している。

リーマン・ショック時から深刻になったゾンビ化

   さて、東京商工リサーチのリポートによると、興味深いことに日本ではゾンビ企業は減ってきている、というのだ。ただし、日本にどれだけの「ゾンビ企業」がいるかは、正確な統計があるわけではない。そこで、東京商工リサーチがさまざまな角度から分析と推測を試みている点が、今回のリポートのキモなのだ。

   日本企業のゾンビ化は、2008年のリーマン・ショック時から深刻になったという。2009年12月に中小企業金融円滑化法が施行され、困窮した中小企業の金融機関への返済猶予や金利減免が行われ、返済負担が減った。

   金融円滑化法を申し込んだ件数は、2013年までの同法終了までに延べ437万件に達したが、1社で多くの金融機関に申し込んだため、実際に活用した企業数は不明だった。しかし、東京商工リサーチでは独自の取材によって約30万社と発表した。

   政府は、経営コンサルタントなどで組織する中小企業再生支援協議会などをつくり、困窮した中小企業の経営改善に努めた。もっとも、なんとか資金繰りを果たした多くの中小企業はそこに足を運ばなかった。結局、ゾンビ企業とその予備軍が「野ざらし」となったまま約10年が経過し、こうした企業への抜本的対応ができないまま、コロナ禍に見舞われたわけだ。

ゾンビ企業は1.5万社~23万社...実態つかみにくい

   ところで、ゾンビ企業の数字はどうなったのか――。国際決済銀行は、3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオが「1」を下回る企業を「ゾンビ企業」と定義している。

   日本には全国に中小企業が約358万社あるが、東京商工リサーチが保有する財務データによると、リーマン・ショック後の2010年度~2012年度の中小企業の「ゾンビ企業率」は3年連続で10%を超えた(約36万社)。

   以降は下降線をたどり、2019年以降は6%台に落ち着いた。これをもとにすると、ゾンビ企業数は現在23万社程度となる。ただ、企業はどれだけ黒字を出していてもキャッシュがなければ倒産する。いわゆる「黒字倒産」だ。

   そこで、東京商工リサーチでは、「国際決済銀行基準」のゾンビ企業の分子を「営業利益+受取利息+受取配当金」ではなく、「営業キャッシュフロー」に換えて再計算した。「営業キャッシュフロー」とは、現金の流れを意味する。簡単に言うと、「本業で稼いだお金」。減価償却費や売掛金など多くの項目が入り、複雑な式になる。

   その結果、リーマン・ショック後は概ね3%台後半で推移したが、その後は低下。2021年度は参考数値だが、2.1%となった。「国際決済銀行基準」によるゾンビ企業率と、東京商工リサーチによる「営業キャッシュフロー基準」では大きな差が出たかっこうだ。

   具体的には、「国際決済銀行基準」では現在23万社。一方、東京商工リサーチによる「営業キャッシュフロー基準」では現在7.5万社。どちらを見ても、右肩下がりに減っており、現在過去最低であることがわかった=図表参照。(実は、リポートの中では別の「定義」を提起し、現在ゾンビ企業は1.5万社という分析も出している。)

(図表)国際決済銀行(BIS)と営業キャッシュフロー(CF)を基準にした「ゾンビ企業率」の推移のグラフ(東京商工リサーチ作成)
(図表)国際決済銀行(BIS)と営業キャッシュフロー(CF)を基準にした「ゾンビ企業率」の推移のグラフ(東京商工リサーチ作成)

   いずれにしろ、ゾンビ企業は減少しているわけだから、中小企業の将来はそれほど心配することはないのだろうか。しかし、東京商工リサーチのリポートはこう締めくくるのだ。

「ゾンビ企業の数が過去最低という結果をどう受け止めるべきか。(コロナ禍の中の政府の)これまでの資金繰り支援で、事業再構築の必要性について中小企業の気づきを遠ざけたことも事実だろう。中小企業の間に広がった『危機意識の緩和』へ対応は急務だ。『うちはゾンビ企業でない。抜本再生の必要はない』『ゾンビ企業と言うな』と考える経営者は多い。そうした経営者に伴走支援する金融機関、再生実務家はどう対応するのか。模索へのサポートが今こそ求められる」

政府の支援と日銀の金融緩和で「延命」

   つまり、ゾンビ企業が減ったと楽観視するのは非常に危険だというわけだ。いったい、どういうことか。J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査を担当した東京商工リサーチ情報部の原田三寛部長に詳しく話を聞いた。

――ゾンビ企業を延命させたことが日本経済の活性化の妨げになっていると指摘する経済アナリストが少なからずいます。中小企業を現在の半分ほどに減らし、ゾンビ企業を淘汰するべきだと主張する人が、かつて政府系審議委員会メンバーにいました。今回、ゾンビ企業の調査を行ったねらいには、そのように注目されていることも背景にあるのですか。

原田三寛さん「そうした議論があることは承知しています。一方で、中小企業を減らすと、サプライチェーンに影響を与えるという意見もあります。ゾンビ企業をコロナ後はどう支援するか、その是非をめぐって盛り上がっているものの、議論は分断状態にあります。
しかし、ゾンビ企業とは何かという定義さえ、国際決済銀行のものはありますが、ほかにもさまざまあってはっきりしていません。私たちは新しい定義を提案しつつ、どちらの議論にも味方せず、まずはゾンビ企業ってなんだ、という問題意識から調査しました」

――リーマン・ショック時にゾンビ企業の経営改善が行われず、「野ざらし」にされてきたのに、なぜ徐々に減ってきたのでしょうか。

原田さん「ゾンビ企業が『野ざらし』にされてきた理由は、中小企業の資金繰り支援のパラドックスですね。金融機関への返済に猶予(モラトリアム)を与えたために、経営改革の抜本的な対策はしなくてもいいや、という意識を多くの経営者に与えてしまった。それでもゾンビ企業が減ってきた理由は、長期の金融緩和で金利が下がったからです。
国際決済銀行の定義を思い出してください。数式の分母は『支払い利息』です。金利が下がれば、支払い利息も小さくなり、ゾンビ企業率も下がります。普通、業績が悪い企業はリスクを計算して借入金の利率が上がるものですが、いまはそうなっていません。数式の分子の利益、つまり『稼ぐ力』が大きくなったわけではありません」

経営者は「稼ぐ力」身に着けてほしい

――つまり、健全企業が増えたからゾンビ企業が減ったというわけではないのですね。

原田さん「そのとおりです。今回のコロナ禍でも政府は手厚い中小企業支援を行い、日本銀行は依然として金融緩和を続けています。そのため、豊富な金融機関の支援で昨年(2021年)の企業倒産は6030社(前年比22.4%減)と、57年ぶりの低水準を記録しました。企業独自の努力の結果というより、政府と日銀の両方向からの支援で生きのびた企業が多いはずです。
しかし、東京商工リサーチが昨年12月に行った企業アンケートでは、『事業再構築など新たな取り組みを実施する予定』と答えた企業は2割にとどまります。資金繰りの支援が、中小企業経営者に目を覚まさせる妨げになったのは事実です。リーマン・ショック時に野ざらしにされた構図と、コロナ禍の構図はまったく同じです」
経営者は「稼ぐ力」で会社を引っ張ってほしい(写真はイメージ)
経営者は「稼ぐ力」で会社を引っ張ってほしい(写真はイメージ)

――2023年春には日銀の黒田東彦総裁の任期が切れて、異次元の金融緩和が終わる、とも言われています。金利が上がったら大変ではないですか。ゾンビ企業にとって正念場ですね。

原田さん「経営者は自分の企業が外部からどう評価されているのか、金融機関の本当の格付けはどうなのか、気づいてほしい。資金繰りだけでなく、経営改革のためのスキームを利用して、本当の『稼ぐ力』を身に着けるために、ぜひ経営コンサルタントのもとを訪れてほしいものです」

(福田和郎)