J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

新規上場時の「公開価格」低い値付け問題...公取委の指摘 これからどんな改善進みそうか?

   かねて低すぎるとの声が出ていた新規株式公開(IPO)の「公開価格」の決定プロセスがあらためられることになった。公正取引委員会が2022年1月、証券会社による一方的な低い値付けは独占禁止法違反になり得るとする見解を示したのを受け、日本証券業協会(日証協)が2月末に、見直しの方針を表明した。

  • 公正取引委員会は、新規上場時の公開価格に関して、一方的な低い値付けは独占禁止法違反になり得るとする見解を示した(画像はイメージ)
    公正取引委員会は、新規上場時の公開価格に関して、一方的な低い値付けは独占禁止法違反になり得るとする見解を示した(画像はイメージ)
  • 公正取引委員会は、新規上場時の公開価格に関して、一方的な低い値付けは独占禁止法違反になり得るとする見解を示した(画像はイメージ)

欧米などより低く設定される公開価格

   企業が株式を証券取引所に上場する際、投資家に売り出される株の価格が「公開価格」だ。企業にすれば、高いほど多くの資金を得られる。一方、新規公開株を引き受けて投資家に売る証券会社にすれば、高すぎて売れないと困るので、低めの方がいい。

   こうした「利益相反」があるなかで、関係者の間では、日本の公開価格が欧米などより低く設定され、上場する企業の調達資金や創業者らが得られる利益が少なくなる、との指摘があった。

   上場する企業側のこうした不満を受け、政府は21年6月の政府の成長戦略実行計画に、上場時の価格決定過程の見直しを盛り込んだ。この方針を受け、公取委はIPOした企業97社と上場手続きを担う「主幹事」を務めた証券会社22社への実態調査を実施し、22年1月28日に報告書を公表した。

   公開価格が決まる手順は次のようなものだ。

   新規上場を目指す企業は、証券取引所の承認を経て主幹事の証券会社を選定、主幹事証券が主導するかたちで上場手続きを進めていく。まず、企業の財務状況などをもとに理論上の価格を算定した後、個人投資家にも広く買ってもらえるように、割り引いた「想定発行価格」を出す。

   主幹事は説明会を開くなど主に機関投資家の需要動向を見ながら、一定の幅を持った「仮条件」を設定し、その範囲内でさらに投資家から希望を募って、公開価格を最終的に決める。実際に上場されると、幅広い投資家が参加する市場での取引が始まり、初めて付いた株価が「初値」と呼ばれる。

   上場企業が調達できる金額は公開価格と発行株式数で決まり、初値と公開価格の差が大きいほど、企業は本来調達できたはずの資金が得られなかった計算になる。逆に、初値が公開価格を上回れば、公開株を購入した投資家は利益を得ることになる。

   証券会社としては公開価格を抑えることで公開株を購入する顧客が利益を上げられるようにし、顧客の囲い込みに活用している、との指摘は多い。

十分納得したうえでの公開価格設定を望む

   公取委の報告書は、想定発行価格を決めるにあたり、企業側が算定根拠について説明を求めても「説明を受けられなかった」などの声を紹介している。上場手続きが進むと主幹事を変えることは難しくなるとして、証券会社が合理的な根拠を示さずに価格を低く設定すれば「(独禁法上の)優越的地位の乱用に当たるおそれがある」と指摘した。そのうえで、公開価格について「十分協議を行い、上場会社が十分納得したうえで設定すること」を求めた。

   ほかにも、証券会社が上場手続きの手数料を同業他社と申し合わせたり、他社が主幹事を引き受けることを妨害したりした場合、独禁法上の問題になる可能性があるとも記した。

   公取委の報告を受け、日証協は22年2月28日、改善策をまとめた。取引所など関係者と調整し、年内の改善を目指す。

   改善策は、仮条件の価格帯について従来より範囲を拡大するとともに、さらに投資家の需要が旺盛な場合は仮条件の範囲を超えた高値で公開価格を決められるようにする。また、売り出し株数の変更も一定範囲内であれば、手続きのやり直しをせずに認める。

   市場環境の変化により価格が変動するリスクを抑えるため、取引所の上場承認から取引開始までの期間を現在の約1か月から21日程度に短縮する。上場する会社に対して、証券会社側が公開価格の根拠を示すなど対話の強化も促す。

   逆に、初値が高騰しすぎないようにする対策として、値段を指定しない「成り行き注文」について、初値が決まるまでは禁止するように東証に検討を求めるとした。

約4割の企業、1年後に公開価格下回るデータも

   ただ、経済学者のケインズが投資家の行動パターンを「美人投票」にたとえたように、株に絶対的な価格はない。実態はどうなのだろうか。

   内閣官房によると、公開価格から初値の値上がり幅は平均48.8%と、米国や英国の16%前後より大きく、上場後に株価が跳ね上がる傾向があるという。

   一方、最近はIPOが相次いだことによる需給悪化などで、必ずしも政府の指摘が当てはまらない状況もある。ブルームバーグの調べでは、2021年12月~22年2月24日に上場した38社のうち、初値が公開価格を割ったものが14社あった。また、野村証券の資料によると、2005~19年に上場した企業の株価を分析したところ、1年後に約4割が公開価格を下回っていたという。

   いずれにせよ、政府が成長戦略の中で取り上げているように、新興企業を応援し、世界で通用する企業を育てるという日本経済の大きな課題に直結するテーマだ。

   短期間の株価の変動にとらわれすぎず、機関投資家が企業の技術力などを見極める「目利き」の力を備えることや、金融機関や大企業を中心にファンドを活用して新興企業を育てることなどを含め、多面的な取り組みの一環として、公開価格の問題も考える必要がありそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)