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円安が加速させる物価上昇が怖い! エコノミストが試算...低所得世帯は「消費増税3%」匹敵の打撃

   物価の上昇が止まらない。ウクライナ情勢悪化によるエネルギー価格の高騰に加え、円安が加速して輸入品価格の上昇が拍車をかけているからだ。

   2022年4月からは生めん、味噌、ケチャップ、パスタ類、ウイスキーなどの食料品に加え、トイレットペーパー、水道料金、高速道路料金、JRの特急料金......と値上げラッシュが控えている。

   私たちの生活はどうなるのか。低所得世帯の場合、消費増税3%分の負担増になるという試算がエコノミストから出ているが......。

  • どんどん物価が上がっていく(写真はイメージ)
    どんどん物価が上がっていく(写真はイメージ)
  • どんどん物価が上がっていく(写真はイメージ)

「朝食価格指数」の上昇率は前年比3.8%増!

   円安の加速から、食料品関連の輸入物価が上昇の兆しを見せる中(図表1参照)、「朝ご飯」のお値段を上昇させていることに注目したのが、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

   熊野氏のリポート「朝食価格指数の上昇 ~パン、マーガリン、シリアル、コーヒーの値上がり~」(3月18日付)の中で、「食料品の価格が上がっているが、よく観察すると、『朝食』に馴染みの深いものほど大きく値上がりしていることを発見した」として、10品目を挙げて消費者物価指数の上昇率を調べた。

(図表1)輸入物価の食料品関連の上昇率(第一生命経済研究所の作成)
(図表1)輸入物価の食料品関連の上昇率(第一生命経済研究所の作成)

   熊野氏が独自に選んだその10品目(図表2参照)を見ると、小麦を使っているパンは、2022年2月の前年比7.2%増と上昇が大きい。パンに塗るジャム2.0%増、マーガリン9.5%増。つづいて、シリアル5.7%増、コーヒー・ココア5.6%増、コーヒーに入れる砂糖5.0%増、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコン)も0.5%増と、軒並み上昇している。

   値上がりしていないと見ていいのは、国内畜産業者の「過剰生産」が話題になった乳製品関連の「牛乳」(0.6%減)と「バター」(0.0%)だけだ。

(図表2)「朝食物価指数」を構成する10品目の値上げ率(第一生命経済研究所の作成)
(図表2)「朝食物価指数」を構成する10品目の値上げ率(第一生命経済研究所の作成)

   熊野氏はこれら10品目の価格増減を「朝食価格指数」と名付けたが、その上昇率は2月で前年比3.8%増と大きく増加した。これは、2月の消費者物価(総合)が前年比0.56%増なのに比べると、6.8倍近い増加率だ。いかに「朝ご飯」のコストが突出して高くなっているかがわかる。ただし、まだロシアのウクライナ侵攻(2月24日~)の影響を受けていない段階の数字だから、これは序の口かもしれない。

   熊野氏はこう指摘する。

「ウクライナ侵攻を受けて、小麦・大豆・とうもろこしなどの国際商品市況が上がってきている」「ウクライナとロシアは、こうした農産物の主要な生産国である。現在はまだ3月であるが、ウクライナへの軍事侵攻が長期化すれば、作付けが始まる春から、収穫期の秋にかけて農業生産が滞る」「穀物の世界的な需給がアンバランスになって市況を上昇させるだろう。また、ロシアへの経済制裁も、ロシアからの穀物輸出を制約するだろう」

   そこに日本の円安加速が拍車をかけるわけだ。

「日本にとっては、円安の進行も輸入物価を押し上げて、それが消費者物価に早晩跳ね返っていくだろう」「3月以降の輸入物価は、ウクライナ侵攻の影響を織り込んで、一段と高騰することになるだろう」

と警告する。

年収1000万円以上世帯で7~8万円の負担増

「朝ご飯」の価格上昇は他と比べて高い...(写真はイメージ)
「朝ご飯」の価格上昇は他と比べて高い...(写真はイメージ)

   食料品を中心とする生活必需品の価格はどこまで高騰するのだろうか。その影響を具体的に年収階級別に試算したのが、みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部経済調査チームの南陸斗氏と嶋中由理子氏だ。

   2人のリポート「ウクライナ危機で生活必需品価格が高騰~低所得者の生活支援が求められる~」(3月22日付)のなかで、低所得世帯ほど相対的に重い負担がかかることを明らかにした。

   2人は、図表3のように、4月以降に値上げラッシュが本格化するとして、非常に緻密な家計への影響を試算した。試算にあたっては、ウクライナ情勢が流動的なため、2つのシナリオを想定した。それが、次の2つのケースだ。

(1)シナリオ1=ロシアからの必要最小限の資源(石油や穀物など)輸出が続く「供給継続シナリオ」
(2)シナリオ2=ロシアからの資源輸出が停止する「供給停止シナリオ」
(図表3)4月に値上げが予定されている品目(みずほリサーチ&テクノロジーズの作成)
(図表3)4月に値上げが予定されている品目(みずほリサーチ&テクノロジーズの作成)

   また、政府は現在、原油価格高騰に対応するため、1リットル当たり25円の補助金を石油元売り会社に出すなど、「燃料油価格激変緩和事業」を行っている。「激変緩和事業」は3月31日に期限を迎えるが、4月以降も継続されると想定して試算に加えた。

   試算結果をみると(図表4参照)、食料・エネルギー価格の高騰により、2022年は激変緩和事業の効果を考慮したとしても、平均的な世帯で年間約5.5万円~6.2万円の負担が増加する。年収別にみると、年収300万円未満世帯では「シナリオ1」で約4.3万円、「シナリオ2」で約4.9万円の増加になるという。

(図表4)食料・エネルギー価格上昇に伴う年収階級別の負担増(みずほリサーチ&テクノロジーズの作成)
(図表4)食料・エネルギー価格上昇に伴う年収階級別の負担増(みずほリサーチ&テクノロジーズの作成)

   年収1000万円以上世帯では、「シナリオ1」で約6.9万円、「シナリオ2」で約7.8万円の負担が増加する。年収が多いほど消費水準も高いため、金額ベースでみた負担は高所得世帯のほうが大きくみえる。しかし、年収に対する負担率(食料・エネルギーの負担額÷年間収入)の増加分を比較すると、年収1000万円以上世帯では「シナリオ1」でプラス0.5%ポイント、「シナリオ2」でもプラス0.6%ポイントの増加にとどまる。

「資源価格の高騰が続けば、日本経済は記録的な物価上昇局面」

   ところが、年収300万円未満世帯では、「シナリオ1」でプラス1.9%ポイント、「シナリオ2」でプラス2.1%ポイントの増加となり、どちらのシナリオでも低所得世帯ほど、相対的に負担が重くなるのだ。もし、「激変緩和事業」がなければ、負担はさらに1万円~1.5万円増大する計算だ。

   2014年に消費税が5%から8%に3%引き上げられた際、低所得世帯の負担率がプラス2.4%ポイント高まった。ロシアからの資源輸出が停止する「シナリオ2」のケースでは、消費増税3%に匹敵する打撃を低所得世帯に与えるというわけだ。

   みずほリサーチ&テクノロジーズの南氏と嶋中氏は、こう結んでいる。

「25円程度のガソリン価格引き下げでは、物価上昇を完全に抑制することは出来ない」「低所得者への給付措置など、さらなる家計支援策が講じられる可能性高いとみている」「仮に資源価格の高騰が続けば、日本経済は記録的な物価上昇局面を迎えることになる。厳しい経済状況に置かれる懸念がある家計に対し、きめ細かな対策が求められる」

   とくに厳しい状況に置かれる低所得世帯への積極的な対策を訴えたのだった。

(福田和郎)