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最新2021年自殺者数、僅かな減少も...女性は2年連続増、自営業者で大きく増えた理由(鷲尾香一)

   厚生労働省と警察庁は3月15日、「令和3年中における自殺の状況」を発表した。それによると、2021年の自殺者数は前年比で僅かながら減少したものの、女性の自殺者が2年連続で増加、また、職業別では自営業・家族従業者が大きく増加した。

  • 「令和3年中における自殺の状況」(厚生労働省、警察庁)を読む(写真はイメージ)
    「令和3年中における自殺の状況」(厚生労働省、警察庁)を読む(写真はイメージ)
  • 「令和3年中における自殺の状況」(厚生労働省、警察庁)を読む(写真はイメージ)

2020年と2021年の「月別」数に大きな違いが

   2021年の自殺者数は2万1007人となり、前年比74人(約0.4%)減だった。自殺者数は2009年の3万2845人から10年連続で減少していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した2020年に11年ぶりに増加に転じた=表1

   男女別にみると、男性は前年比74人減少の1万3939人で全体の66.4%を占めているものの、12年連続の減少だ。半面、女性は同42人増加の7068人で、2年連続の増加となっている。

   女性自殺者の増加は、新型コロナによる雇用状況悪化の影響を強く受けたものとみられる。2020年に女性の自殺者は前年比で約1000人も増加したが、これは新型コロナによる雇用状況の悪化で、594万人の女性非正規雇用者が「雇い止め」にあっていることからもわかる。

   自殺死亡率は16.8人と2年連続で上昇した。「自殺死亡率」とは、人口10万人当たりの自殺者数を指す。自殺死亡率も2009年の25.7人から10年連続で減少していたものの、2020年から増加に転じた。

   男女別では、男性は3年連続22.9人で変化なし。一方、女性は2019年の9.4人から2年連続増加して前年比0.2ポイント増の11.0人となった=表2

   月別の自殺者数を見ると、2020年と2021年では大きな違いが現れている。

   2020年は政府の緊急事態宣言が出されていた4、5月と6月には自殺者数が少なく、その後、10月の2230人とピークを付け、年末にかけて減少傾向をたどっている。

   一方で、2021年は3月の2012人がピークとなったが、年を通じて月当たり1500人以上の自殺者が発生。年末にかけて自殺者数は減少し、12月が1567人とボトムとなった=表3

50代、40代、20代で増加...経済・生活問題影響か

   さて、年齢階級別の自殺者数の動向を見ると、2020年には50代、60代を除き、すべての年代で自殺者が増加したが、2021年には50代、40代、20代だけが増加している。

   とくに、50代は前年比193人(5.6%)増の3618人と全体の17.2%を占め、次いで40代の同7人(0.2%)増の3575人が全体の17.0%、20代は同90人(3.6%)増の2611人となった。

   なぜ、50代の自殺者が急増し、また、20代が増加したのか――。自殺の多くは多様かつ複合的な原因および背景を有しており、さまざまな要因が連鎖する中で起きている。ただ、自殺者の職業と自殺の原因・理由を見ると、朧気ながらも要因が浮かび上がってくる。

   2020年の自殺者では、無職者が前年比373人(3.3%)増の1万1718人、勤め人等が同540人(8.7%)増の6742人、学生等が同151人(17.0%)増の1039人となった。その一方で、自営業者等だけが、同144人(10.2%)減の1266人と減少していた。

   ところが、2021年には、無職者が前年比79人(0.7%)減、勤め人等が同50人(0.7%)減、学生等が同8人(0.8%)減といずれも減少する中で、自営業等が同32人(2.5%)増の1298人と増加に転じている。

   自殺の原因・理由を見ると、2020年にもっとも多かった「健康問題」は前年比で335人(3.3%)も減少し、9860人。一方で、「経済・生活問題」は160人(5.0%)も増加し、3376人となっている。

   あらためてまとめると、2020年には新型コロナによる雇用悪化の影響から、就職難となった学生、雇用調整にあった勤め人等の自殺者が増加した。これに対して、2021年には雇用調整が一定程度終わり、学生や勤め人等の自殺者は減少したが、自営業等への新型コロナの影響が続いている。それにより、自営業者の中心層である50代や経済・生活問題による自殺者が増加したのではないか、と類推される。

   経済・生活問題での自殺者が増加しているのであれば、政府の経済支援策などにより、自殺者を減らすことができたはずだ。

   2022年の自殺者が増加しないように、政府は弱者に対する十分な経済支援を行っていくべきだ。