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集中力なんて必要ない?! 「散漫力」で仕事片付けるジャーナリストの仕事術

   ジャーナリストの佐々木俊尚さんは、毎朝8時に10本ぐらいのさまざまな記事をツイッターとフェイスブックで公開している。フォロワーは約78万人。毎日およそ1000本の記事をチェックし、そこから価値ある記事を選別しているのだ。どうしたら、そんなことが可能になのか。本書「現代病『集中できない』を知力に変える 読む力 最新スキル大全」(東洋経済新報社)は、スマホ時代にふさわしい「読み方」のノウハウを伝授するものだ。

「現代病『集中できない』を知力に変える 読む力 最新スキル大全」(佐々木俊尚著)東洋経済新報社

   佐々木さんは元毎日新聞記者。IT系出版社を経て、作家・ジャーナリストとして独立。テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで情報発信している。

   本書は日々実践している「読むべき記事やニュースの集め方と読み方」「本の選び方・読み方」といったインプット術から、「情報整理術」「アイデアの発想法」「執筆やタスク処理」などのアウトプット術まで、全部まとめて1冊でノウハウを公開している。「大全」と銘打つゆえんだ。その中からエッセンスを紹介しよう。

  • 知的生産性の高め方に迫る!(写真はイメージ)
    知的生産性の高め方に迫る!(写真はイメージ)
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「重いタスク」と「軽いタスク」を交互に

   最初に「集中力なんて別に必要がない」「そんなものがなくても、大量のインプットとアウトプットは可能ですよ」と驚くべき宣言をしている。

   それは、佐々木さん自身が「集中力のいらない読み方とアウトプット」を実践しているからだ。いまのスマホ時代には、「集中力が続かない」という前提に立った「新しい読み方」「新しいアウトプットのやり方」があるという。逆転の発想だ。

   いわく、「集中力がない」と考えるのではなく、「散漫力がある」と考えればいい。「5分の集中」しか保てない人でも、その「5分の集中」を36個積み重ねれば、3時間になる、と説く。

   仕事には「アイデアや発想をつくるような仕事=舞い降り」と「請求書やエクセルで資料をつくるような仕事=タスク」の2種類があると分類する。集中力との関係を以下のように説明している。

   集中すると、「タスク」ははかどる。しかし、「舞い降り」は来ない。集中しないで散漫だと、「舞い降り」はやってきてくれるが、「タスク」ははかどらない。

   では、どうするか? 佐々木さんは「集中しなくてもタスクがはかどるようにすればいい」と考え方を大転換するよう提案する。

   ここで登場するのが、コンピューターの「マルチタスク」の原理を、ヒトにも取り入れた「マルチタスクワーキング」だ。

   具体的には、自分がやるべき仕事を棚卸しして、それらを「細かい時間」に細分する。一つひとつのタスクを、それぞれのカテゴリーごとに「重いタスク」と「軽いタスク」に分ける。まず気軽に「軽いタスク」からスタートし、次に「重いタスク」に移る。それを交互に繰り返すことで、集中力のなさをカバーするというものだ。

   佐々木さんは複数の電子デバイスごとにタスクを分けることで、気持ちの切り替えを行っている。情報収集はスマホ、書籍や資料を読むのはタブレットと電子書籍リーダー、原稿を書くのはパソコン、息抜きはスマホ、といった具合だ。

知的生産の「5つの大前提」とは

   現代の知的生産に必須の「5つの大前提」も参考になるだろう。

1 世の中にたくさんあるメディアを分別するところから始めよう。
2 分別したメディアを活用して、「ニュースを読み解く流れ」をつくろう。
3 読む目的は、「たくさんの視点を獲得すること」と肝に銘じよう。
4 読むことで得た「知識」「視点」を「知肉」にするのが最終目標。
5 無理に集中しようとするのではなく、あえて「散漫力」を逆活用しよう。

   ウェブ、新聞、有料メディア、SNSの使い方も詳しく紹介している。そのうえで、ツイッターを重要な情報源と考えている。「まっとうな専門家」かどうかを見分ける追跡メソッドを公開している。自分の専門知識がない分野の記事が出たとき、その妥当性を5段階で評価するものだ。

1 その記事について、ツイッターでどうコメントされているか
2 それらのコメントは、専門的見地からのものかどうか
3 それらのコメント投稿者のプロフィールはどうか
4 それらのコメント投稿者は乱暴な言葉づかいをしていないか
5 これらの基準をクリアした専門家はフォローし、リストに入れる

   この方法で、さまざまな分野で「信頼できるツイッターリスト」をつくっていけば、専門外の分野でも情報源をつくることができるという。 ほかにも、RSS(リッチ・サイト・サマリー)リーダーを使って、新着の記事の見出しをまとめてチェックする方法、仕込んだ情報をポケットなど「あとで読む」アプリを使い活用する術も紹介している。

   本書の意義は、こうしたノウハウを公開していることだけではない。つまるところ、何のために、知的活動を行うのか根源的な問いかけをしている。「学び」の本質とは何か? 佐々木さん自身は、「仕事も暮らしも自分の人生として全体最適化し、あらゆる知識も自分の知肉として全体最適化する」ことと考えている。「知」の本質論と実践論が絶妙のバランスで書かれている良書だ。すべての知的生活者にお勧めしたい。

(渡辺淳悦)

「現代病『集中できない』を知力に変える 読む力 最新スキル大全」
佐々木俊尚著
東洋経済新報社
1760円(税込)