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ユニクロの「ロシア事業」判断に思う トップは周囲に意見を求めつつ舵取りを(大関暁夫)

   ロシアによるウクライナ侵攻から1か月。日本の企業活動にもさまざまな影響が出ています。この1か月でとくに世間の注目を引いた出来事に、ユニクロのロシア事業一時停止を巡る急展開がありました。侵攻当初、同社は「ロシアの店舗は営業を継続する」としていたところが、10日後には急転直下「ロシア事業一時停止」に転じ、21日から全店休業に至っています。

  • ユニクロの「ロシア事業」判断から経営のあり方を考える(写真はイメージ)
    ユニクロの「ロシア事業」判断から経営のあり方を考える(写真はイメージ)
  • ユニクロの「ロシア事業」判断から経営のあり方を考える(写真はイメージ)

一転して「ロシア事業一時停止」に踏み切ったユニクロ

   御承知の通りユニクロは柳井正社長のワンマン企業であり、同社が企業として外に発信する方針は、イコール柳井社長の考え。柳井社長は、ロシアによるウクライナ侵攻が開始された直後に日本経済新聞のインタビューに答えて、「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」として、ロシア国内全店舗の営業を続ける意向を表明していました。

   しかし、同業のカジュアル衣料の世界的企業であるスペインのZARAやスウェーデンのH&Mが相次いでロシア国内の店舗休業を発表する中で、駐日ウクライナ大使がユニクロの姿勢を「残念だ」と名指しで批判。世界展開する同社は世界レベルで批判を浴び始め、不買運動の動きもみられるなどしたために、急遽前言を撤回して「ロシア事業一時停止」に舵を切らざるを得なかった、という事態に至ったようです。

   本件は柳井社長の経営者としてのマネジメント判断の甘さに尽きると思います。過去にも何度か、氏の事業方針や物言いが物議をかもしています。アジアを中心とした海外の安価な労働力を酷使して、安価なアパレル商品を大量生産するというビジネスモデルは、幾度となく批判のやり玉にあがっています。記憶に新しいところでは昨年、中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害問題を巡って、ユニクロ製品の生産に強制労働が関係しているとアメリカの税関当局から疑われ、製品の輸入を一時差し止められる事態に至っています。

   柳井社長は日頃から自身を「独立自尊の商人」と表現し、「自らの信念と現実が違っていたら、勇気を持ってそれは違うと言うべき」と持論を展開してきました。かつ、「安易に政治的立場に便乗することはビジネスの死を意味する」とまで言及し、世の中の情勢がどのような状況にあろうとも、「ビジネス第一主義」ともいえる自らの商売のスタンスは変えないと宣言してきました。しかし、この柳井社長の持論も、今回のような事象が起きてしまえば、その「ビジネス第一主義」の物言いは行き過ぎた「金もうけ第一主義」を正当化する詭弁に過ぎない、と受け取られてしまうことになるわけです。

誤った判断が、企業としての評価を大きく損なう

   今回の件でいえば、ユニクロにとってロシアは2010年の進出以来順調に業績を伸ばし、21年度決算ではロシア事業の大幅増収増益で苦戦が続くヨーロッパ事業の黒字化を支えるという位置づけにまで成長していました。ロシアのウクライナ侵攻で最大のライバルである同業のZARAやH&Mが早々に一時撤退を決めたことで、「ロシアでの独り勝ち」が目の前にチラついていたのか、と受け取られもするでしょう。ZARA、H&Mが相次いでロシア一時撤退を決めた時に、ひるがえって自社が取るべき道をしっかり判断すべきだったといえます。結果的にこの判断の誤りが、企業としての評価を大きく損なうことになってしまったと思います。

   企業は営利団体である以上、利益を追求すること自体は決して悪いことではありません。しかしそれに先立つ倫理観というものを、ビジネスのGO・STOPの判断に必ず関与させなくては、いかに業績を伸ばし企業を成長させたとしても名企業、名経営者といわれる存在には決してなり得ないのです。名企業、名経営者である松下電器・松下幸之助しかり、ソニー・井深大しかり、ホンダ・本田宗一郎しかり、です。一代でユニクロを世界的なアパレル製造・販売企業に育て上げた柳井正氏はどうでしょうか。同時に、ユニクロの組織管理面の問題として、社外取締役を含めワンマン経営者の誤った判断を正すリスク管理の防波堤はどうだったのでしょうか。

   企業が社会的存在である以上、あるべき倫理観のもとで企業経営をするということは、規模の大小を問わず経営者にとって必要不可欠なことです。今回のユニクロの例をみるに、ガバナンスが整備されているはずの大手企業でも、ワンマン体質が行き過ぎると、ときとしてガバナンス不全の状態を招くのです。結果、企業のレピテーショナルリスクを左右しかねない重大な過ちが起きてしまうのです。経営者には倫理的な観点での判断を要する事象では必ず、周囲に広く意見を求め、その意見に真摯に耳を貸す姿勢が求められるといえるでしょう。

   ユニクロおよび柳井社長は、今回の件を自社の重大なガバナンス不全の事象として重く受け止め、事業における倫理的判断の際に相互牽制が正常に働くような意思決定組織を強化する必要があるでしょう。また、一般の企業経営者、とくにワンマンになりがちなオーナー経営者は、ユニクロの例を自社とは無縁な世界的大企業の他人事として見過ごすことなく、常に周囲に意見を求めつつ事業を前に進めることの大切さを、この機会にぜひとも認識してほしいと思います。

(大関暁夫)