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鉄道運賃値上げ、来春に控える...あまりなかったのになぜ今相次ぐ? 背景にコロナ禍、構造的諸問題解消への動き

   新型コロナウイルス感染拡大の中で、くすぶっていた鉄道運賃の値上げに向けた動きが本格化している。JR西日本、東京メトロ、一部私鉄などが、値上げを打ち出している。

   コロナ禍で利用者が減り、線路や列車などの維持コストの負担が重くなっているためだ。他にも追随の動きがあり、運賃値上げラッシュの可能性がある。

   国も運賃制度のあり方の見直し作業に着手しており、その行方も注目される。

  • 鉄道料金は値上げラッシュとなるのか(写真はイメージ)
    鉄道料金は値上げラッシュとなるのか(写真はイメージ)
  • 鉄道料金は値上げラッシュとなるのか(写真はイメージ)

東急電鉄は18年ぶり、JR西日本は民営化後初の値上げ

   真っ先に値上げに動いたのが東急電鉄だ。2022年1月7日、23年3月から大半の路線で初乗り運賃を、現在の130円(交通系ICカードでの乗車は126円)から10円アップして140円にすると発表した。消費税増税の影響を除く東急の値上げは、05年以来18年ぶり。

   初乗り以外の運賃や通勤定期も1割程度引き上げるが、通学定期は家計の負担を考慮して運賃を据え置く。

   東急は、コロナ禍によるテレワークの普及で、通勤定期の運賃収入が激減、コロナ禍前と比べ3割程度減少した状態が続いている。22年3月期は2年連続の営業赤字を見込んでおり、コロナ禍で悪化した業績を立て直すため、値上げが必要と判断した。

   近畿日本鉄道も4月15日、全線を対象に運賃を23年4月1日から値上げすると発表した。普通運賃は平均17.2%、通勤定期は平均18.3%、通学定期は平均9.2%。

   2023~25年度の運賃収入は約469億円増える見込みで、老朽車両の更新やバリアフリー対策などに充てるとしている。消費税の増税時を除けば値上げは1995年以来となる。

   JR西日本は3月29日、大阪―神戸間など34区間の普通運賃を2023年4月1日から10~40円(平均5.1%)値上げすると発表した。年間10億円程度の増収効果を見込む。消費増税時を除き、値上げは1987年の民営化以降で初めて。

   対象は京都線、神戸線などの一部の99区間で、大阪・京都・兵庫・奈良・和歌山の2府3県にまたがる。並行する私鉄より運賃が安い区間が中心となる。

   たとえば、大阪―神戸間は40円アップの450円、大阪―高槻は20円アップの280円、天王寺―和歌山間では20円アップの890円になる。対象区間は、通勤定期の料金も上げる。これとは別に、23年4月から65区間について、6か月の通勤定期を平均約1割上げる。

   コロナ禍の逆風で、2021年3月期決算は最終損益が過去最大の2332億円の赤字を記録し、22年3月期も1000億円規模の赤字を見込んでいる。経費節減を進めてきたが、値上げによる収益改善が必要だと判断した。今回のJR西日本の場合、一般的な区間と比べて、特例的に安い「特定区間運賃」エリアのため、国の認可なしに値上げできる。

JR東日本と東京メトロ、「バリアフリー料金」を運賃に上乗せ

   JR東日本と東京メトロも値上げを発表している。国交省が2021年12月、ホームドアやエレベーターなどの整備費用を「バリアフリー料金」として、運賃に上乗せできる制度を創設している。今回、両社はこの新制度を活用する方針で、適用第1号になる見込み。

   JR東日本は4月5日、2023年春から首都圏の主要路線の普通運賃に10円を上乗せすると発表した。山手線、中央線、京浜東北線など首都圏の主要16路線が対象(一部区間を除く)。通勤定期は1か月280円、3か月790円、6か月1420円加算されるが、通学定期は対象外。

   JR東日本の場合、2031年度ごろまでに、首都圏の主要243駅758か所の乗り場でホームドアの設置を目指す。そのほか、エレベーターやバリアフリーの「多目的トイレ」の設置などを含め5900億円程度かかるとの見積もりで、上乗せする運賃で半分程度をまかなうという。

   東京メトロも4月7日、同じく2023年春ごろに、全路線の運賃を値上げすると発表した。上げ幅は明言していないが10円程度になりそうで、切符での初乗り運賃は170円から180円になる見通し。消費税増税の影響を除けば、1995年以来、28年ぶりの値上げとなる。

交通政策審議会で、運賃のあり方の見直し作業進む

   今回値上げするJR東西にJR東海を加えたJRの本州3社は民営化後、消費税増税時を除いて値上げしていない。他の私鉄も同様に、近年はほとんど値上げしていない。その背景には、値上げしにくい制度の問題があるとの指摘もある。

   鉄道運賃は「上限認可制」が採用されている。運賃は上限を認可され、その範囲内であれば、届出により設定・変更が可能というもの。国は「上限認可制のもとで季節別、時間帯別など多様な運賃の設定が可能」というが、大半の運賃が上限に張り付いているのが実情だ。

   もう一つの問題は、「上限」の決め方。

   改定後の運賃が人件費、経費、減価償却費、支払利息といった原価に、適正な利潤を含めた「総括原価」を超えないことになっているが、その原価計算の期間は平年度3年間とされている。

   コロナ禍の期間は平年度ではないと考えれば、過去2年間の収入の激減は原価計算に反映されないが、テレワークの定着などを考えると、コロナ前に戻るとは考えられない。

   さらに、人口減少時代を迎え、沿線人口の減少基調にあるから、地域によっては過疎化が深刻だ。また、温暖化による自然災害への対応や駅のバリアフリー、列車内の安全対策など、これまで以上に設備投資も必要だ。

   コロナ禍に加え、こうした構造的ともいえる諸問題を抱え、鉄道会社の間では柔軟な運賃設定を求める声が強まっている。

   国の交通政策審議会の「鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」で、運賃制度の見直し作業が2月から始まっており、6月に報告がまとまる予定だ。

   鉄道会社を取り巻く環境が厳しさを増す中、どのような結論になるか、国民の生活にも直結するだけに、注目される。(ジャーナリスト 白井俊郎)