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困りものの「指示待ち部下」...どう仕事を与えればいい?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE 1】(前川孝雄)

   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE 1」では、「指示待ち部下」を自ら行動させるにはどうしたらいいか、考えていきましょう。

  • 部下を自ら行動させるには?(写真はイメージ)
    部下を自ら行動させるには?(写真はイメージ)
  • 部下を自ら行動させるには?(写真はイメージ)

部下の主体性と自主性を尊重すべきなのか?

【上司(課長)】A君、さっきから一体何をボーっとしてるんだ? 体調でも悪いのか?
【部下(A君)】あっ、いえ。今日が期日の指示された仕事が終わってしまったものですから...。
【上司】それで、何もせずにいたのか? それなら、次の仕事に早めに着手したらいいだろう。
【部下】しかし、急いで仕事を進めてしまうと、また時間が余ってしまいますので。
【上司】時間に余裕ができたら、さらに成果が上がるように創意工夫しながら進めたらどうだ。
【部下】はぁ...。しかし、自分ではよく判断できませんから、不在の先輩が戻ったら指示を伺います。
【上司】えっ? 指示がないと、仕事一つ自分で進められないのか?...

   少々ディフォルメしたケースですが、職場には少なからずこのような「指示待ち部下」がいるものです。入社して間もない新入社員にもありがちな光景ですね。あなたが上司なら、こうした部下にどのように仕事を与え、育てますか?

   上司の対応としては、「この仕事は君に任せるから、まず自分でどこまでできるか、やってみてほしい。わからないことは、その都度質問するように」と指示を出すことが考えられます。部下の主体性と自主性を引き出そうという意図じたいは、悪いものではありません。

   しかし、上司からすれば「これくらいはできるだろう」と思うような仕事でも、キャリアの浅い部下や「指示待ち」が身についてしまった部下にとっては、どこからどう手をつけていいか、わからない場合も少なくありません。こうした部下に「まずやってみて」と仕事を全て委任し、責任を持たせようとするのは酷なことなのです。

   また、相手の質問に何でも答えていると、部下は「聞けば教えてくれるんだ」「いつも教えに従えばいいんだ」と刷り込まれていき、自分の頭で考えようとしなくなります。その結果、上司はいつまでたっても仕事を任せることができなくなってしまうのです。

仕事の進め方に見当がつかない部下への対応

   私は、かつて新人の部下に「3か月で顧客向けの販促セミナー企画を立ち上げる」という課題を与えたことがあります。しかし、本人はどうすれば立ち上げられるのか、見当がつきません。

   そこで、週に2回のミーティングを行うことを決め、「最初の1か月は、対象となる人にヒアリングをする期間にしよう。どういうルールで人を探し、コンタクトを取り、何を聞くのかは、自分で考えてほしい」と指示しました。

   その後は定期的に進捗状況を確認し、できるだけ本人の課題意識や疑問を引き出しながら、アドバイスを行っていきました。

   ヒアリングの成果が整理できたところで、「次はセミナーの概要を決める段階だ。そのためには、まずは2週間でプログラム案を考えてみてほしい」と促しました。これも期日は示したうえで、方法は本人に考えさせながら、進捗チェックとアドバイスは怠りませんでした。

「小さな階段」を踏ませ、次第に自律を促そう

   こうして、仕事のアウトラインや手順は示しながらも、部下自身の裁量を必ず残し、自分で考えさせることを繰り返させたのです。この方法によって、新人部下は自律的に仕事を進められる領域を次第に拡大していきました。課題を達成する頃には、自分からアイディアを提案できるほどになり、自分の力でやり切った達成感と自信も得て、着実に一回り成長していました。

   このように、新人や指示待ち部下に仕事を与える時には、「今日(今週)はこれについて考えてほしい」「来週(来月)までに〇〇を終えて、レポートをまとめてくれないか」などと、細かくやるべき業務と期限を決めて指示を出すことです。ただし、その中で目的の説明と共に部下本人が創意工夫できる裁量も必ずセットで任せること。こうした定期的なサポートを継続し、「小さな階段」を踏ませながら、次第に自律性を高めていく育成が効果的なのです。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。