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円安急加速ついに1ドル=131円台! エコノミストが指摘...日銀「怒りの指し値オペ」が火に油注いだ理由

   円安加速のタガがすっかり外れてしまった。2022年4月28日、ついに1ドル=131円台を突破した。

   要因はこの日開かれた日本銀行の金融政策決定会合。大規模な金融緩和政策の継続を決めたばかりか、長期金利を抑える国債の「指し値オペ」を毎日行うと発表、金融市場の円安加熱に火に油を注ぐかたちになった。

   いったい、どうしてそんなことになったのか。エコノミストの分析は――。

  • 断固、金融緩和を進める強い意志を示した日本銀行本店
    断固、金融緩和を進める強い意志を示した日本銀行本店
  • 断固、金融緩和を進める強い意志を示した日本銀行本店

黒田総裁「市場に日銀のスタンスを推し量る動きが見られた」

   2022年4月28日午後2時半すぎ、東京外国為替市場で円相場が一時、1ドル=130円を突破して、1ドル=131円台をつけた。2002年4月以来、20年ぶりの円安水準となった。

   日本銀行が4月27日~28日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を継続する決めたためだ。外国為替市場では利上げに向かうアメリカとの金融政策の違いがあらためて意識され、円を売って、利回りが見込めるドルを買う動きが急速に進んだのだった。政策発表前は128円台で推移していたから、1日で一気に3円近く下がったことになる。

   日銀はまた、長期金利を上限0.25%に抑えるため、特定の利回りを指定して、国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」(公開市場操作)を毎日実施することも決めた。これまでは、長期金利が0.25%に近づいた時に限る臨時措置だったが、それを常態化するわけだ。

円安の加速で日本経済はどうなるのか(写真はイメージ)
円安の加速で日本経済はどうなるのか(写真はイメージ)

   報道をまとめると、日銀の黒田東彦総裁は記者会見で、急速に進む円安について「日本経済全体としてはプラスだという評価を変えたわけではない」としつつ、「過度な変動はマイナスに作用することも考慮する必要がある」などと述べ、円安が経済・物価に与える影響を十分注意していく考えを示した。

   また、「指し値オペ」の常態化については、「金融資本市場の一部では、日本銀行の政策スタンスを推し量る動きが見られていたが、そうした臆測を払しょくして、従来からのスタンスを明確にすることが市場の不安定性を減らすことにつながる」と説明した。つまり、金融緩和を続けるという断固とした姿勢を見せるため、というわけだ。

輸入物価対策の基本は、円安ではなくエネルギー政策

   今回の一段の円安の加速と日銀の姿勢を、経済専門記者やエコノミストはどうみているのだろうか。

   日本経済新聞(4月28日付)「円下落、20年ぶり130円台 日銀の緩和維持受け」という記事につく「Think欄」ひとこと解説コーナーで、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者はこう説明した。

「円相場の1ドル=130円台乗せは、日銀が金融緩和を変えないぞと市場が判断した結果です。世上、『悪い円安』論がはやっていますが、黒田総裁が同調しているとは思えません。
(1)日本経済の根っこにある問題は需給ギャップ。(中略)。そんな局面で金融引き締めに転じるのは理に適っていないと考えているはずです。いま必要なのは需要不足を埋める財政政策となります。
(2)円安が輸入物価の上昇要因となるのは確かですが、実は足元の輸入物価上昇の要因を分解すると、その大半は円安というより資源・エネルギー価格の上昇なのです。その点で輸入物価対策の基本はエネルギー政策となるはずです」

円安加速で、政府と日銀の関係が悪化

   今回の急激な円安加速は「日銀批判を一段とあおり、政府との関係が悪化するのではないか」と懸念するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   そのリポート「長期金利の上昇抑制強化でさらなる円安進行を招いた日銀金融政策決定会合」(4月28日付)のなかで、木内氏は、日銀が「連続指し値オペを機動的に実施するのではなく、常設の制度の枠組みへと修正した」ことに「やや驚いた」という。

「これまでのように、どの水準で日本銀行が指し値オペを実施するかといった憶測が市場に生じることがなくなり、債券市場の不確実性が低下することになる。ただしこの措置は、(中略)『0.25%を超える10年国債金利の上昇を今後も決して容認しない。その姿勢を疑うな』といった日本銀行の強い意思を示した点により重要性がある」

   この結果、1ドル=130円の大台を突破する円安となったわけだが、木内氏はこの措置の問題点をこう指摘する。

物価の上昇が止まらないが...(写真はイメージ)
物価の上昇が止まらないが...(写真はイメージ)
「今回の措置は(中略)企業や家計の日本銀行に対する批判をさらに強める結果となろう。さらに、物価高を受けて緊急経済対策をまとめた政府も強く刺激するものともなろう。政府と日本銀行の関係悪化もいよいよ本格化してくるのではないか。今回の措置をきっかけに円安がさらに進み、政府との関係がより悪化してくれば、日本銀行としては早晩、政策の微修正を余儀なくされるのではないか」

   しかし、その政策の微修正の道も自ら閉ざしてしまったというのだ。

「円安リスクの軽減に有効なのは、長期金利の上昇を一定程度容認することだ。それは、10年国債利回りが変動レンジの上限のプラス0.25%を超えても直ぐに指値オペを実施しない、といった現場のオペレーションで行うことが可能な政策方針の修正である。しかし今回の決定で、0.25%での指し値オペを常設化してしまったことから、その手法を日本銀行は自ら封じてしまった」

「毎日指し値オペ」は日銀の怒りの表れ

どんどん買い物をしたいところだが...(写真はイメージ)
どんどん買い物をしたいところだが...(写真はイメージ)

   第一生命経済研究所の主任エコノミスト藤代宏一氏も、「指し値オペの常態化」には驚いたようだ。藤代氏のリポートは、「怒りの毎日指し値オペ 出口戦略は海外金利が安定している時に」(4月28日)という激しいタイトルをつけ、こう述べている。

「ごく一部の市場参加者は引き締め方向の政策修正を見込み、また少数の市場関係者はフォワードガイダンスの修正を予想していたが、日銀はそうした観測を徹底的に潰すかのように、現行の金融緩和を継続していく姿勢をより強く示した。政策変更という位置付けではなかったが『連続指値オペの運用の明確化』と銘を打ち、指値オペを毎営業日実施する方針を示した」

   そして、今後の見通しについてこう分析した。

「筆者は黒田総裁の任期満了後、YCC(イールドカーブコントロール)の操作対象年限を5年に短縮する可能性があるとみている。その際の環境としては、もちろん景気がある程度持ち直していることが重要であるが、10年金利のコントロールを止める以上、より重要な要素になってくるのは海外金利の安定であろう。
現在のように主要中銀が引き締め方向へ舵を切る環境は、日銀の『便乗引き締め』を容易にする一方、海外金利上昇の余波で日本の10年金利の急上昇を招く恐れがある。この点を重視すれば、海外中銀の引き締めが終わっている局面のほうが、容易に出口戦略に着手できると考えられる」

と、「ポスト黒田」の新しい日銀総裁に期待するのだった。

過去の例では1ドル=140円~150円台に?

   こうなると、歯止めがかからなくなった円安は、いったいどこまで、そして、いつまで進むことになるのだろうか――。その疑問に答えるのが、三井住友DSアセットマネジメントの「どこまで進む?円安ドル高 通貨防衛という『無理ゲー』に直面する政府・日銀」(4月28日付)というリポートだ。

   このリポートでは、下の図表のように、過去5回あった「大幅円安」のリスクシナリオを検証している。

(図表)ドル円レートの過去の主要な円安局面(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表)ドル円レートの過去の主要な円安局面(三井住友DSアセットマネジメントの作成)

   それは、(1)1995年7月~1997年4月、(2)1997年11月~1998年8月、(3)2000年11月~2002年1月、(4)2012年11月~2013年5月、(5)2014年9月~2015年6月、の計5回だ。

   過去5回の円安局面の平均値を見ると、期間は10.4か月、値幅は29円3銭、そして変動率は30.4%となっている。こうした数字を今回の円安局面に当てはめると、まず、円安が始まった起点をいつにするかだが――。

(1)2020年3月につけたドルの高値112円23銭を上抜けた2021年10月11日を起点にすると、円安期間は残り3か月、値幅で見たドルの上値のメドは141円、変化率で見た場合は146円となる。
(2)急速な円安が始まった2022年3月11日を起点とすると、円安期間は残り8か月、値幅で見たドルの上値メドは145円、変化率では152円となる。

   いずれにしろ、トンデモない上値にまで円安が進みそうだが、リポートでは「弊社では、今年のドル円相場のレンジについて、1ドル134円程度を上限と見込んでいます」と述べている。ただし、最後はこう結んでいる。

「現在のように、外為市場で明確な『円安トレンド』が現れた場合、通貨価値の下落が『悪い円安論』で語られるような実体経済の悪化をもたらすことで、もう一段の円安を引き起こす『悪循環』が生じるリスクについても、意識しておく必要がありそうです。このため、レベル感に頼った安易な逆張りはケガの元ともなりかねず、当分は注意深く市場の動向を見ていく必要がありそうです」

と、相場を読み違えない注意を呼びかけている。

(福田和郎)