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マネーフォワード社員の平均給与は上昇中!? 直近5年の最終損益は赤字続きだけど...

   上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、クラウド会計ソフトのマネーフォワードです。

   マネーフォワードは、辻庸介氏(1976年生まれ)が京都大学を卒業後にソニー、マネックス証券を経て2012年に独立起業して設立した会社です。2017年に東証マザーズに上場し、2021年6月には東証一部に市場変更を果たしました。現在は東証プライム市場に上場しています。

  • 急成長のマネーフォワードに注目(写真はイメージ)
    急成長のマネーフォワードに注目(写真はイメージ)
  • 急成長のマネーフォワードに注目(写真はイメージ)

創業以来の赤字続きも直近でEBITDAが黒字に

   それではまず、マネーフォワードの近年の業績の推移を見てみましょう。

   マネーフォワードの売上高はマザーズ上場以来、右肩上がりに伸長しています。2021年11月期には4期前の5倍超となる156億32百万円の売上高をあげており、同年第3四半期は前年同期比で30%増という高成長を果たしています。

   一方、営業損益および最終損益はいずれも赤字続きで、上場以来一度も黒字転換したことがありません。2020年11月期には、営業赤字が28億04百万円、最終赤字が24億23百万円まで拡大しました。

   翌2021年11月期には、営業赤字が10億62百万円、最終赤字が14億82百万円へと改善したものの赤字のまま。ただし会社はEBITDA(営業利益+償却費+営業費用に含まれる税金費用+株式報酬費用)を重要な経営指標としており、2021年11月期には初めてプラスになっています。

   なお、東証一部への市場変更は、赤字であっても売上高と時価総額の要件を満たしていれば可能であり、この基準をクリアしています。

   2022年11月期の業績予想は「合理的な業績予想の算定が困難」であるとして、第1四半期の見通しのみ開示。3月1日に上方修正していますが、EBITDAは前年同期の黒字からふたたび赤字になる見込みです。

   ちなみに、クラウド会計ソフトの分野にはフリー(東証マザーズ)という競合があります。2021年6月期の売上高は102億58百万円、調整後営業損益は23億01百万円の赤字、最終赤字は27億56百万円と、マネーフォワードの1期前(2020年11月期)に近い業績水準となっています。

売上高の3分の2を占める「Businessドメイン」

   マネーフォワードは「プラットフォームサービス事業」の単一セグメントですが、以下の4つのドメインで事業を展開しています。

・Business:法人向けサービス提供
・Home:個人向けサービス提供
・X:金融機関のお客様向けサービス開発
・Finance:新たな金融ソリューションの開発

   2021年11月期の売上高構成比はBusinessドメインが圧倒的に大きく、67.5%を占めています。中心サービスは「マネーフォワード クラウド」で、バックオフィス向けの業務効率化ソリューションをSaaS形態で提供しています。

   現在は経理財務領域だけでなく、人事労務や法務、情報システム領域を取り込み、またM&Aで買収したマーケティングプラットフォーム、インサイドセールス支援など様々な機能をつなげるようにしていて、個人事業主や中小企業だけでなく中堅企業にも導入が進んでいるようです。

   このほか、「マネーフォワードME」などを提供するHomeドメインの15.8%、アプリやウェブサービスの企画・開発を行うXドメインの11.7%、企業間後払い決済サービス「マネーフォワード 決済」などを提供するFinanceドメインの4.9%となっています。

第4四半期で158人増。平均年間給与は648万円

   マネーフォワードの2021年11月期末の従業員数は単体815人、連結1248人。4期前の単体218人、連結241人から、それぞれ3.7倍、5.2倍に増えています。

   ちなみに、競合するフリーの2021年6月期末の従業員数は単体572人、連結656人で、マネーフォワードより少なめです。

   マネーフォワードの平均年間給与(単体)は、一時減少した期間があったものの、2021年11月期は2期前と比べて41万円も高い648万円に。平均年齢33.4歳、平均勤続年数2.2年も増加傾向にあり、定着した社員に新たな社員を加えていることがうかがえます。

   マネーフォワードの採用サイトを見ると、新卒採用のほかにエンジニア、デザイナー、ビジネス、コーポレート、プロダクトマネージャー、研究員といった幅広い職種での募集が行われています。

   決算説明資料によると、2021年11月期は「エンジニア・デザイナーの採用」「Businessドメインにおける中堅企業向けの営業人員の採用」が着実に進捗した結果、第4四半期で158人も増加したとのこと。特にBusinessドメインの増加が大きく、比較的高収入の中途採用が増えたと見られます。

   ちなみに、競合であるフリーは、2021年6月期の従業員の平均年齢は32.9歳、平均勤続年数は2.4年で、平均年間給与は705万5千円とのことです。

資本調達で財務健全性改善。さらなる事業拡大へ

   マネーフォワードで気になるのは「創業以来の赤字続き」ですが、会社がこれを許容している理由は、SaaS(Software as a Service)というビジネスモデルだからです。

   必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェアのことで、年間契約など顧客との継続取引を行っているので、中止・離脱がない限り翌年以降も自動的に取引を確保できます。

   システムの先行投資を少額で回収していくため、当初は赤字となる場合が多いものの、売り切りモデルよりも収益性が高く、マネーフォワードも黒字化しようと思えば、比較的早期に赤字を脱却できるのではないかという見方があります。

   しかし会社は、目先の黒字化よりも「より多くの顧客の獲得」(有価証券報告書より)を目指して、将来の利益を最大化することを目標としており、2022年11月期も人材採用やマーケティングコストを投入し、赤字を継続しつつ売上高の拡大を志向しています。

   なお、マネーフォワードは、2020年11月期末の自己資本比率が44.3%とやや低下していましたが、2021年8月に海外投資家向けの公募増資で307億円を調達。2021年11月期末の自己資本比率は71.1%に大幅改善しています。

   資金調達や「プライム市場」選択申請のニュースなどに合わせて株価も上昇し、2021年9月6日には9190円の高値を記録しました。年明け後、2022年4月中旬ごろまでは5000円を中心に推移しています。直近では、4400円台となっています。(こたつ経営研究所)